悪酔いと迎え酒


 …………吐けないのにひどい吐き気がするくらい、視界がぐるぐるしてる。
 そんな俺に気付いたのか涼は俺の背中をさする。
「花奈さんって日本酒苦手なんだね……」
 舌が少しひりひりしてる、頭もぐらぐらとして気持ち悪い。
「もう日本酒は飲まない……絶対に飲まない……」
 朦朧とした意識で俺は呟く。
「吐いたら少しは楽になるから、行こう?」
 涼は俺を持ち上げ、背中をさする。
「吐けないって言ったよな?」
「でも、それっぽいことだけでもした方が……。
ここでしてもいいからさ?」
「優しいな、涼は……。」
 耐えきれず吐こうとしたがやはり苦しくなるだけで何も起こらなかった。
「花奈さん、大丈夫!?」
「大丈夫じゃない……」
 また苦しくなる。
「寝た方がいいのかな……それとも
気持ち悪くなくなるまで吐く?」
「前者の方が早いとおも……うえぇ」
 俺は何度も苦しくなって、より一層吐き気が増す。
 リバースすらさせてくれない身体が憎い。
 さっさと日本酒だけでも出てきてくれ。
「────苦しそうだね、花奈さん……。」
 涼は俺の背中を優しくさする。
「涼……もういいから……寝よう……?」
 一人分のベッドに2人で入る。
「くっついてた方がいいかな」
「そうし……てぇ……」
「花奈さんは寝付きがいいね。
温かいとすぐにころんって寝ちゃう。」
 涼の手のひらが俺の頭を撫でる。
 温かくて、安心感と幸福感に包まれた俺は、瞳を閉じた。
 涼は俺が眠っても、しばらくは頭を撫でてくれて、明日になれば楽になると祈った。



 激しい頭痛で目が覚めた。
「二日酔いかよ……それも酷めの」
 俺は、お酒専用冷蔵庫から小さめのブランデーの瓶を見つけ、グラスを探すのがめんどくさいために瓶で飲む。
 一口でかなり酒が回るが、瓶が空になるまで珍しくぐびぐびと飲む。
「ういぃ……」
 むせてしまったが、もうひと瓶飲んでもバチは当たらないだろう。
 ぐいっと飲み干そうとするが、俺はそこまで強くなくベロベロになってしまった。
 ソファーに座りぼんやりと考える。
 いっそのことポルターガイストでも使おうかと考えるくらいには酔ってるらしく、スミレのサイコキネシスを想像しつつ、試しにやる事にした。
 大きい氷の入ったグラスの中にそれっぽいお酒が注がれる。
 なんなんだよ、俺が酒乱とでもいいたそうじゃねぇか。
 ご丁寧にアイスピックで氷まで割ってるよ。
 俺は仕方なく、酔い潰れないようにちびちびと飲む。
 半分もいかずに俺は激しい眠気に襲われ、お酒がもったいないために酔い潰れるの覚悟で飲み干したのだった。

「花奈さん?」
 洋酒の香りがふんわりとする。
 幸せそうに顔を赤くしてふにゃっとした体勢で寝ている花奈さんを見て、俺は少し呆れつつも昨夜の事もありそっと毛布をかける。
「……りょぉ?」
 まだ眠そうな、とろんとした瞳が少し開き俺の手をきゅっと握り、ふわふわと空になった瓶が浮く。
 花奈さんは起き上がって立とうとしたが、うまく立てずに俺に抱っこをせがんだ。
 抱きしめると、さっきよりもお酒の香りがする。
「昨夜よりはいい気持ち?」
「……うん。」
「やっば幸せそうな花奈さんが一番だよ。
かわいい顔がもっとかわいくなるからね?」
 俺は花奈さんと唇を重ね、舌を絡めた。
 お酒の味と幸せな味が混じり合い、2人は濃厚なひと時が終わった後、また抱き合うのだった。

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