「マスター、久々だな!酒くれ!!」
久々に来たんだ、いつかこう言う風に酒を頼んで見たかったんだよな。
オレは豪快にカウンターに座り種類はなんでもいいぜと付け足した。
「あいよ!」
マスターはオレの前にグラスを渡した後、絶対強めのウィスキーをなみなみと注いだ。
まぁ、あいつの事だから絶対にわかってるはずだと信じてオレはぐいっと飲み干す。
あ、これやっぱつよ────
──心配した通り、彼女は顔を赤くしてばたーんと音を立てて倒れてしまった。
彼女を抱きかかえてお代を払った時、マスターが私に話しかけてきた。
「そういや、じいちゃんが言ってたなぁ。
ある日 酒に強そうだと思ってたら意外と弱くて、予想以上に泥酔しちまって、呂律の回らない喋りで武勇伝を夜明けまで語り尽くした、小柄な魔法使いがきたってな。
まさかお嬢ちゃんの事だとは……。」
「お爺さんってことは……それって何年前ですかね?」
「確かじいちゃんが若い頃だから……百年くらい前だったけな。
そうだ、その時お嬢ちゃんが写真を撮ってってうるさかったらしいんだよ。
見るかい?」
差し出された古ぼけた写真には、顔を赤くして、黒服の男と肩を組む彼女の写真があった。
「百年…………か。」
そうなると、人間である限りこの男も死んでいる頃だろうか。
それとも、彼女の力を奪おうとして、どこかで彼女に殺されてしまったのだろうか。
どれだけ『死』を見てきたのだろう、彼女はどこまで『死』を覚えているのだろう。
魔法使いになった時の狂気で溢れた光景、愛する人を看取った時の涙、裏切られた時の絶望感。
ある時、魔法使いになった時の光景を今でも夢に見てしまうと震えていた事があった。
────辛い記憶は、みんなお酒で忘れてしまえばいいのに。
私には、どんなに頑張ったとしても祈る事しか出来なかった。
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