ムカつく野郎
「………」
「…………」
静かに睨み合う。
しかし、ナルトの腕と再不斬の足はぎちぎちと軋み合っている。
どちらかが気を抜いた瞬間に、どちらかの腕だか足だかが壊れるであろう力のぶつかり合いが、そこで静かに行われていた。
「…金髪。テメェはなんだ」
「あ?それが人にモノを尋ねる態度かよ。俺の名前が知りたいなら地べたに頭擦り付けて懇願しろ」
びきり。
再不斬の額に血管が浮き出ているような気がする。
いや、気がするじゃない。血管が浮いてる。
相当のお怒りモードになってしまったらしい。
ナルトの奴、挑発してどうする気なのだろうか。
そうは思っても、不思議と不安感が全くない。
ナルトなら勝てると、そんな予感すらある。
「ただのガキかと思ったが…そうでもないらしいな」
「気付くのがちっとおせーんじゃねえか?再不斬さんよお」
ぎりぎりと細い指が沈むほどに足首を締め続けるナルトに、再不斬は埒が明かないと感じたのか肉斬り包丁を振り上げる。
そのままナルトの身体が分断されると、そう誰もが予想した瞬間。
――ぼふんっ
音と煙を上げ、消える姿。
「なんだと!?」
「ええっ!?」
再不斬とサクラの驚愕の声を耳に入れながら息を呑む。
一体、いつからだ。
――ナルトが影分身に化けていたのは、いつからだ…?
全身に鳥肌が立つ。
再不斬が、突然離された片足とスイングさせた肉斬り包丁によって崩れた態勢を立て直すよりも早く。
「―――螺旋丸」
その背中に叩きつけられた青い球体。
とてつもないチャクラの量と、風圧。
それを何の躊躇もなく、剥き出しの体にぶつけられた再不斬は、悲鳴を上げる間もなく吹き飛ばされ木の幹に身体を叩きつけられた。
「ぐっ…」
追い打ちを掛けるように投げられたクナイが、その身を貫く。
同時に、カカシに掛けられていた術が解ける。
あっという間の逆転劇。
カカシと互角の敵を追い詰めたという事実に、喜びもしない。
そんな事どうでもいいと言うのか、ナルトは不機嫌なオーラを隠しもせずに再不斬を睨み付けるだけだ。
やがて開かれた口から発せられた声は、ぞっとするほど低い。
「てめぇを見てるとイライラするんだよ」
それは、本当に不愉快だと言わんばかりの殺気が込められた言葉だった。
「道具になりきれねぇ、中途半端な眼」
「なんだと……?」
再不斬が、目を剥いた。
俺もナルトの言っている事がわからず、目を見開いたまま見ている事しかできない。
まるで再不斬という人間を理解しているような口ぶりのナルトは、その場に居る誰の目にも不自然なものに映った筈だ。
しかしこの場は戦場で、そのような話を悠長にしている暇はない。
「知ったような口を利くじゃねェか…っ!!」
突然、印を組み始める再不斬。
それと同時に、俺達の後ろからも凄いチャクラを感じ、合図など無くともナルトと同時に脇へ飛び退く。
横目に振り返れば、カカシが写輪眼を存分に使いながら再不斬と全く同じ印を組んでいる。
コピー忍者などと呼ばれているらしいだけはあって、その手の動きや速さに一寸の違いも無い。
長い印を組み終えた二人は、同時に術を口にした。
「「水遁、水龍弾の術!!」」
二人の足元の水が、龍のように空へ駆け上ると、互いにぶつかり合う。
その大量の水が、飛沫を上げながら辺りに飛散する。
「きゃっ」
サクラが一瞬の濁流に足を取られそうになっていた。
慌てて、タズナとサクラの腕を掴んだまま流れに耐える。
再不斬はナルトにやられた傷が堪えているのか、足元が覚束ない様子を見せる。
一気に畳みかけようとカカシが姿勢を低くした、その時だった。
――――ザシュッ
長い、針のようなものが、再不斬の首を貫いたのは。
「「「「!!!」」」」
「……」
重力に抗うことなく、再不斬の身体が地に伏せていく。
針の飛んできた方向に全員が目を遣ると、その木に立っていたのは謎の仮面を付けた誰か。
此処に居る全員に攻撃を仕掛けるかと身構えたが、それ以降そいつは攻撃してこない。
再不斬を狙っていたということか…?
カカシが、恐る恐る再不斬に近付くと、針が思い切り貫通している首筋に手を当て脈を測った。
「死んでる…」
と、そんな呟きだけが辺りに響く。
不意に、仮面野郎が頭を下げた。
「ありがとうございました。ボクはずっと…確実にザブザを殺す機会をうかがっていた者です」
「確かその面…霧隠れの追い忍だな……」
「さすが、よく知ってらっしゃる」
「じゃあ、抜け忍の再不斬を追いかけてきたって言うのか」
俺の言葉に、仮面野郎はコクリと頷いた。
気配など一度も感じなかった。
奴は、再不斬と俺達が戦闘している間もそこで見ていたというのだろうか。
仮面野郎は再不斬の死体を担ぐと、あっという間に消えてしまった。
「フ――――、」
漸く、カカシが安堵の息を吐いた。
つまり、一旦決着がついたと見ていいだろう。
「さ!オレ達もタズナさんを家まで連れて行かなきゃならない。元気よく行くぞ!」
大声をあげ、にこにこしながらそんな声を上げるカカシ。
俺達は不意打ちのそれに、一瞬呆ける。
「………、ハハハッ!皆、超すまんかったのォ!ま、ワシの家でゆっくりしていけ!」
タズナが、カカシの言葉にそう返した直後。
――カカシが倒れた。
「え!?なに!?どういうこと!?」
サクラの慌てた声が響く。
駆け寄ったサクラに伴いカカシの下へと歩みを進めれば、ナルトが小馬鹿にしたような笑みを浮かべ、カカシの顔横へしゃがみ込んだ。
「写輪眼の使い過ぎでバテるとか、だらしねーな先生」
「う…うるさい…」
なるほど…写輪眼の使い過ぎで倒れたのか…。
返事をする元気も無いのか。
先程の頼もしい姿が幻だったかのように、カカシの声は酷く弱弱しいモノだった。
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