悔しさを糧に

「おそらく再不斬は生きてる!」
「知ってる」

折角雰囲気を作って言ったであろうカカシは、ナルトのそんなバッサリとした言葉に、がっくしと肩を落とした。

大丈夫だカカシ。
そのうち慣れる。





写輪眼の使い過ぎでカカシが倒れたため、俺達はタズナの家になし崩しで世話になる事が決まった。
そしてその間に修行をするという話になったわけだが。

「う、わっ…!」

今まで順調に登れていた事が嘘のように、視界が真っ逆さまになる。
遠のく青空。
背中を強く打ち付けないように受け身を取り転がると、そのまま大の字に横になった。
身体は限界を訴え、節々がぎしぎしと痛んでいる。

たかが木登り。
されど木登り。

手を使わずにチャクラコントロールでやる木登りがこんなにも大変だとは思いもしなかった。
自分では慎重になっているつもりなのに、気付けばチャクラの量が減ったり増えたりを繰り返す。
神経すらも削り取られるているような感覚に、精神ダメージはデカい。

しかし、俺がこれだけ苦労している事を、サクラもナルトも余裕な顔でやり遂げてしまっている。
悔しいったらない。

「しかし、意外だな。てっきりイタチが教えてるものと思ったんだが…」

カカシの言葉に、俺は首を振る。

「…兄さんはカカシの教える機会を奪うモノじゃないって思ってるらしい。だから最低限の修行しかさせて貰えなかった」

例えば、うちは一族として認めてもらう為に必要な豪火球の術など、その時に絶対必要な事は教えるが、それ以外は聞いても「また今度だ」と額を小突かれて終わる。
兄さんのいけず。
などと阿保らしい台詞を何度吐いた事か…。

「…そりゃま、ありがたい事で……」

何処か呆れたように呟くカカシ。
その横で、律儀な奴だとナルトが鼻で笑う。

「っていうか、ナルト!少しはヒントくらい寄越しやがれ!!」
「嫌だね。なんで俺がそんな事してやらなくちゃならない」
「っ、」

こいつ、人を鋼メンタルか何かと勘違いしてないか!?
年々、ナルトが俺に投げ掛けてくる言葉が研がれた猫の爪みたいに鋭くなっていく。
俺は立派な豆腐メンタルだ。
豆腐は豆腐でも"もめん"なので、"絹"よりは強い。

俺達の様子を見ながら、カカシが困ったように笑う。

「サスケ、聞く相手間違ってるぞー。あと、コイツを基準に考えてたらダメだ」

親指で指され、不穏な空気を醸し出すナルト。
カカシ、あんまりソイツを挑発しないでくれ。
皺寄せはこっちに来るんだ…。

ただカカシの言う事には一理ある。
ナルトを俺達のような枠組みに入れて考えると、余裕で判断力とか感情がバグる。
逆に此方の身が持たなくなってしまうのだから、助言を聞く程度に留めておいた方が良い。

(…最も、教えてくれるかどうかは別だけどな)

考えても無駄な事を頭から打消し、今は目の前の修行に集中する。
一度深呼吸をし、再び足にチャクラを籠めた。
強くも無く弱くも無い、木に優しい、丁度良い量のチャクラを纏ったら一気に走り出す。

次こそは、あの印よりも高く…!


――再び、何かを叩きつけるような音が森に響いた事は言うまでも無いだろう。









鳥の囀り。
木々の合間から差し込む日の光をぼんやりと眺めていた。
漆を思わせるような黒い髪は、まるで高級な絹の束を集めたみたいに、さらさらと風に揺れる。
真っ白い肌は雪を思わせ、黒い髪も相まってこの世のものではないような美しさを連想させた。

"彼"は草叢の上でボロボロになりながら倒れている少年の首に手を掛けようとして―――…結局、その手を肩に当てて揺するだけに留めた。

「こんなところで寝てると風邪ひきますよ」
「… ん…?」

目を覚ました少年――サスケは、寝ぼけ目のまま自分の前にしゃがみ込んでいる人物を凝視する。

「だれだ…」
「おはようございます」
「…ん、ああ……」

今だ頭がはっきりしない。
恐らくチャクラを消費してからそのまま寝てしまったため、疲れがあんまり取れていないのだろう。


目の前の子供は薬草を取りに来たらしい。
座り込んで草を選別しながら、口を開く。

「こんなところで何をしていたんですか?」
「…修行だ」
「なんで修行なんかしてるんですか?」

質問ばかりだなと思いつつも、人と話していると頭が冴えてくるので助かる。
欠伸を零しながら、しっかりと質問に返すことにした。

「もっと強くなるためにやってる」
「んー…でも、君はもう十分強そうに見えますよ」
「まだまだ足りねーよ。こんなもんじゃ満足できない」
「………何の為に強くなるんですか?」

一瞬の間が気になる。
見定めるような視線が、ほんの少し不愉快に感じたけれど、質問内容は至って普通の質問だ。

「……何の為、か。理由なら色々あるぞ。兄を超えたいとか、…弟を取り戻すため…とか」
「…弟、それが貴方にとっての大切な人ですか?」

大切な人。

そう。アイツは俺にとってすごく大切で、一番大事にしてやらなければならなかった。
だけど、弱い俺にはそれが出来なかった。
だから強くなりたいと思った。

アイツと肩を並べられるくらいに、強く。

「――そうだな。俺にとって最も大切で、大事にしたいと思ってる奴だ」

子供の目がゆっくりと見開かれる。
考える仕草をした後に、そっと顔が上げられた。

何かを決意したような、そんな表情が朝日に照らされる。


「人は…大切な何かを守りたいと思った時に、本当に強くなれるものなんです」
「………」
「…君は強くなる…また、どこかで会いましょう」


子供は、そんな台詞を置いて歩き去っていく。
俺はその背中を、ただ黙って見送った。


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