待ってない
唐突に目覚めが訪れた。
暗かった空は明るくなっており、時計の針が進んでいる事を実感する。
確か昨日、やっとチャクラコントロールを取得してタズナの護衛につく事が許されたはず。
頭に浮かんだ傷付いた顔のイナリをかき消して、目を擦る。
胸糞の悪い、誰の得にもならない言い合いだった。
ナルトも呆れている事だろうと思う。
(大方、ガキの喧嘩だと嘲笑ってんだろうな…)
自嘲しながら上体を起こす。
そのまま部屋の中を見回して、サスケはそこにいる人物に目を瞬かせた。
「…ナルト?」
珍しく、ナルトがまだ部屋に居る。
いつも一人だけ早く起きてはどこかへふらりと出かけると言うのに。
…もしかして、俺も護衛に付いていくから待っててくれたのか?
そんな淡い期待を抱いて顔を覗き込めば、どことなく違和感を覚える。
何が可笑しいのだろう。
顔の造りはいつものナルトだ。少しだけ長い金の髪も、長い睫毛も、両頬の三本髭の痣も。
全てがいつも通りなのだが、違和感を覚える。
(……ん、?)
目を眇めて見ていれば、なんとなくその正体が掴めた気がして首を傾げる。
目の中に。
何かが見える。
それは夜空を見上げた時に見える星々のような。
または人間が未だ見る事の無い天の上の風景。
不思議な輝きが、深海の中に散らばっている。
―――…これは、一体?
サスケがそれ以上その目を見る前に、ナルトは一度目を瞑った。
次に開いた瞬間、その輝きは消えていて、ナルトの眉間にも皴が寄る。
「ちけえ。きめえ」
「あっ」
確かに、気付けばナルトに覆い被さるような形で鼻が触れ合いそうな程の距離に居た。
ナルトは俺を思い切り突き飛ばして、部屋を出て行く。
その態度にほんの少し残念になりながらも、俺も一緒に外に出た。
「他の皆はどうしたんだ?」
ナルトと共に道を駆け抜ける。イナリの顔を合わせるのが気まずくて、ツナミさんには一方的に挨拶をして出てきてしまった。
そのため他の三人が何処に行ったのかわからない。
俺の問いかけに、ナルトは一瞬だけこちらを見ると、ぶっきらぼうに呟いた。
「もう先に行ってる。タズナが建設に行くからな。…どっかの寝坊助野郎はぐーすか寝てるから、カカシがそっとしといてやろうだなんだと言って先に出た」
「し、仕方ないだろ!昨日はめちゃめちゃ疲れたんだから…」
「ガキと喧嘩する元気はあったじゃねえか」
「あの時も疲れててカッとなっただけなんだっ」
どうしたってこの男は意地悪な発言をしないと気が済まないらしい。
ドSか!ドSなんだな!?
なんとなくナルトの顔が笑っているように見えたが、気のせいだろうか。
俺といて少しでも楽しいと感じてくれてるなら幸せなのだが…。
「…ちなみに俺は影分身だから、本体はカカシ達と居るぞ」
「……………えっ?」
∞
「な…なんだあコレはァ!!」
タズナの叫び声が辺りに響き渡った。
建設現場には血塗れで倒れている作業員たち。辛うじて生きている者が「化け物が出た」とボヤいているが、強ち間違いではない筈だ。
カカシは流石に冷汗を禁じえない。
まさか。嘘とは思いたいが、辺りに霧が立ち込め始めたのが、その目を逸らしたい事柄が真実だと告げている。
「来るぞ!」
だからカカシは叫んだ。
死にぞこないに暗殺されたとあっては、死んでも死にきれない。
「ね、カカシ先生!これってあいつの霧隠れの術よね!?」
サクラが声を上げる。
その通り、再不斬は生きていたのだ。
その声に答えるように、何処かの方角から「久しぶりだな、カカシ」と不穏な言葉が響き渡る。
言葉と共に現れる、幾人もの再不斬。
醜悪な笑みを浮かべる再不斬。
その手によって振り上げられた首切り包丁に、四人の身体が切り刻まれる。
―――しかしそれよりも早く、衝撃波によってすべては水と帰した。
ばしゃりと辺りに広がる水。
カカシは前方を見据えたまま笑う。
「やるな、ナルト」
「……」
チャクラの放出で水分身を吹き飛ばしたナルトは、いつもの無表情で視線を動かさない。
やがて薄くなった霧のその向こうから、"二人"は姿を現した。
「やっぱりお前は只者じゃねえな、ガキ」
「……」
死んだはずの再不斬と、その彼を殺したはずの仮面の子供。
並び立つ二人は、初めて見る組み合わせの筈なのに、妙にしっくりくる。
「金髪のガキに気を付けろ、白(ハク)」
「はい、再不斬さん」
仮面の子供は白というらしい。
最初にこちらの味方のように現れた癖に、平然な顔で向こう側に立つ。
その皮の厚さに、カカシは眉を顰めた。
再不斬と白は、こんな緊張感漂う戦場にも関わらず親し気な会話を続ける。
「10分の1しかないとはいえ、あの水分身たちをチャクラの放出で消すとは…」
「チッ、これは予想以上に厄介な相手かもな」
「…再不斬さん、彼の相手は僕がします。貴方は貴方のやりたいように…」
「……フン、そう言うならガキはお前に任せる」
白がナルトを、再不斬がカカシを見る。
サクラは米神に流れ落ちる汗を拭う事も忘れて、タズナを庇いながら隅の方へ下がる。
それぞれが戦うからと言って油断できる時間など、一時たりともある筈がない。
それぞれの配置が決まったと思えた瞬間、最初に動いたのは白だった。
強い風が巻き起こったかと思うと、ナルトの目の前に現れた白が、そのままクナイを振り下ろす。
だがそれはナルトのクナイによって容易に受け止められ、弾かれる。
「…強いですね、君は」
「……」
「あなたには、守りたい人や大切な人は居ますか?」
ほんの少し、深海の瞳が動いた気がした。
一瞬の事で、それが本当かどうかはわからない。白は仮面の下で、眉をハの字にした。
湧き上がる感情を瞬きで封殺し、片手で印を組む。
高等なその動きに、カカシは驚愕で目を見開いた。
片手で印を組むことは誰でも出来る事では無い。
寧ろ出来ないものを数えた方が早い位には、高等な技術なのである。
「秘術、千殺水翔」
足元の水全てが、凶器となってナルトへと襲い掛かる。
本来なら身体を串刺しにするであろうそれは、けれどナルトの一度の動きで掻き消えた。
「っ!」
先程再不斬の水分身を消した時と同じだ。
片足を地面に叩きつける動きで、其処から膨大なチャクラを衝撃波のように放ち、襲い来るものを掻き消す。
(馬鹿な…)
さしもの白も、考えを改めねばならなかった。
強いなんてものではない。全力で掛からなければこちらが殺される。
可笑しいだろう。
一体彼の中にはどれだけのチャクラが渦巻いているというのだ。
術を掻き消すに使う程の量のチャクラを二度も放出するなど、普通の忍びであれば余裕で死んでいなければならない。
だというのに、目の前の男は意に介した様子もなく、じっと白を見つめて立っていた。
「……化け物か?」
再不斬の言葉に、カカシは返す言葉が見つからなかった。
ナルトの中には九尾が居る。
その力を使っているとでもいうのだろうか。
そのまま消えるように飛んだナルトが、白の後ろからその背中を蹴り飛ばす。
目で見るにはあまりにも早すぎるそのスピードに、白の身体は間単に再不斬の元へ弾き飛ばされた。
「ぐっ」
「そろそろ本気を出すべきだろ、白。このままじゃ返り討ちだぞ」
「…そう、ですね。再不斬さん。正直、相手の力量を見誤っていました」
ゆらり、と立ち上がった白が、不穏な空気を纏ったまま一つ印を結ぶ。
何を仕掛ける気だと身構え白に注目していたカカシは、ナルトの肩が一瞬びくりと動いたことに気付けなかった。
足元の水が再び浮かび上がり、形どっていく。
四角い何かが次々と形成され、ナルトを取り囲む。
それらはやがて氷のようになり、鏡と成った。
「なんだ、あれは」
秘術、魔鏡氷晶。
それこそが白の唯一の切り札であり、サスケやカカシの持つ写輪眼と同じ血継限界。
白が一つの鏡の中へ入り込むと、全ての鏡の中に彼の姿が映し出される。
異様な光景にカカシが走り出そうとしたが、それを遮るように再不斬が立った。
「お前の相手はオレだろ」
「くっ…」
あれ程の忍術ともなると、先程のチャクラ放出で消すのは不可能だろうと助けに入ろうとしたカカシだが、それも叶わない。
どうする。
どうすればいい。
再不斬を、目の前の男を倒すにはどうすればいい…!
―――ボーンッッ
響き渡った破裂音。
広がる煙幕。
そこに、一つの影が立っていた。
「待たせたな、ナルト」
ナルトの兄(自称)、うちはサスケ。
何故か片頬を赤くしたサスケが、そこに居た。
TOP