試験は続く

思いもよらない死者が出たことから、5分程度の休憩が挟まれた。
少し離れたところで壁に背中を預け座り込むナルトを横目に見ていれば、シカマルが怪訝な表情を隠さずに頭を掻いている。

「ありゃ完全に不完全燃焼だな。どっちも本気じゃなかったし、あの男は最後まで意味不明な言葉を言い続けるし」
「っていうか、ナルトってドベじゃなかったんだね」

何故力を隠すような真似をしていたのかという疑問は、同期連中には共通の疑問だろう。

「ナルトくんはドベだったんですか?」

信じられないと言いたげにリーが尋ねる。

「ああ。あいつ三回は卒業試験に落ちてるし。成績も下から数えた方が早かった。…まあ、さっきの戦い方を見るにそんな成績取る奴には思えねーけどな」

シカマルの話に、幾人かの受験者がナルトを見る。
ナルトは聞こえて居るのか居ないのか相変わらず、頭にカカシの乗せたタオルを被ったまま、片足を立てて座っていた。
何事かを考えているようで、無表情ながらに時々眉を顰めている。

「そこらへん、サスケが詳しいんじゃねーの?」
「いや。俺もナルトの実力を知ったのは班が結成されてからなんだ」
「…そういえば、リーさんはナルトが強いって噂を何処で聞いたの?」

サクラの言葉に、試験前にリーがそんな事を言っていたのを思い出す。
あの時は軽く流していたが、思い返せばおかしな話だ。

「い、いえ、僕も詳しく知っているわけでは無いのですが、昔、彼が一人演習場で訓練をしているのを見たことがありまして…その時にこの人は強いと思ったんです。あの時はあんな言い方をしましたが、実は彼が強いと言う噂を聞いた事が無かったんです」
「……ようは鎌をかけた、ってこと?」

ほんのり頬を染めたリーを無視して、サクラは首を傾げる。
そんな事をする必要があったのかはわからないが、リーとしてもナルトの強さを推し量りたかったのだろう。

そんな中、ナルトに走り寄ったヒナタが、小瓶を差し出していた。
ナルトは訝しげに見ていたが、ニ三言話すと珍しく笑みを浮かべていた。
頬を赤くするヒナタ。

…ナルト、お前も罪な男だな。

「それでは皆さん、試験を再開します」

困惑の漂う空間でも、試験は続く。
駄弁っているうちに五分が経ってしまったようだ。
俺は気合を入れ直す様に頬を叩いて、心配ではあるものの一旦ナルトの件を置いておくことにした。




その後の試合は順調に進む。

サクラといのの闘いは、派手な術などがあったわけでもないのに凄まじいものがあった。
あれを世間ではキャットファイトと言うのだろう。
俺の相手はキバだったが、リーの表蓮華という技を基に開発した「獅子連弾」でなんとか倒した。
その試合はナルトも見てくれていたみたいで、ほんの少し戸惑った表情をしていた。

俺の生み出した技に感動しているのだろうか。
兄さんと慕ってくれてもいいのに。

そんな調子づいた事を考えていれば、次の試合はネジとヒナタだった。

(――日向一族の闘い)

宗家と分家の闘いとは、運命も皮肉なものだと思う。
イタチから聞いただけだが、それでも二つの家の亀裂は凄いものだと知る。

相対したネジは、ヒナタに「諦めろ」と言う。

「ヒナタ様…アナタはやっぱり宗家の甘ちゃんだ」
「え?」
「人は決して変わる事など出来ない!」

優しさという名の弱さを手放せない自分を変えたいと言うヒナタに、ネジはきっぱりとそう言い放った。

「落ちこぼれは落ちこぼれだ…その性格も力も変わりはしない。人は変わりようが無いからこそ差が生まれ…エリートや落ちこぼれなどといった表現が生まれる。…誰でも…顔や頭、能力や体型、性格の良し悪しで価値を判断し判断される。変えようのない要素によって人は差別し差別され、分相応にその中で苦しみ生きる。――オレが分家で…アナタが宗家の人間であることは変えようがないようにね…」

白眼を発動させ、ネジは更にヒナタを言葉で追い詰めていく。

アナタはこの試合に負けると言う確信を得ている。
アナタは俺の言っている事を本心だと感じているから壁を作りたがっている。

体一つの動作をあげて、ネジはヒナタに言葉を投げ続ける。
それは事実の指摘というよりも、


「――惑わされるな!!」


隣から聞こえた大きな声に驚き、目を移す。

ナルトが、睨み付けるように二人を見ていた。

「お前にはお前のやりたい事と信念がある筈だろ。…なら、ネジの考えに惑わされるんじゃねえ!胸を張れ!日向ヒナタ!!」

一喝の声援。
ハッとした顔で、ヒナタは俯き何かを考える。
煩わしそうなネジの視線など気にした様子もなく、ナルトはヒナタを見ていた。

やがて、ヒナタは顔を上げる。

その顔には決意が宿っていた。

「…棄権しないんだな。どうなっても知らんぞ」
「………逃げたく、ない!!」

二人の白眼がぶつかり合う。
分家と宗家の、譲れない闘いが始まろうとしていた。









「…なんか、あんなナルト初めて見るかも」

サクラの言葉に頷く。
眼下では、勝利してなおヒナタに攻撃を仕掛けようとしたネジを止める上忍たち。
そして倒れかけているヒナタを支えるナルトが居た。

ナルトが何かを語りかけているが、ヒナタの方は意識が朦朧で、聞く余裕は無いみたいだった。
そのまま彼女は医療班に連れられてその場を後にする。

「…何故天才側のお前が、ヒナタ様を気にかけるような真似をする?同情か?憐れみか?優越感にしたりたいのか」
「―――その口閉じねぇと四肢をもいで二度と天才だの落ちこぼれだの口にできないようにしてやるぞテメェ」

酷い殺気だ。
思わず心臓部分や急所を抑えてしまう程の殺気が、風船が割れたみたいに辺りに四散する。
ナルトの碧い目はギラギラと燃えていた。
その中に赤い光がチラチラと見える気がして、見ている側の恐怖心を煽っている。
余りの殺気に見兼ねたカカシが、その肩を叩いて止めに入った。

「なんで、リーと同じ班なのにお前は何もわからねーんだ」

その呟きに一瞥を寄越しただけで、ネジはステージから降りる。
ナルトは複雑な表情で、その後姿を眺めていた。




最後の試合は我愛羅とリーだった。
忍術を使わないリーの八門遁甲による裏蓮華も凄かったが、しかし我愛羅の砂の力は異様だった。
砂を操る忍術も見たことは無いが、なんというか、正しく化け物級だったのだ。
それは中忍の闘いではなく、もし別の人間が当たっていれば死者が出たかもしれない程に。

リーは敗れ、担架で運ばれていく。
担当上忍のガイや、医療班の人間の顔色は悪い。
恐らく、それ程までに危険な状態なのだろう事が伺えた。

心配だったけど、俺達に出来ることは何もないのが事実だった。
助けてもらったのに情けない話だが、無事を祈る事しかできない。

様々なハプニングに見舞われながらも中忍試験予選は終わり、次に控えるのは本戦だ。

それもトーナメント形式で行われるらしく、俺達は順番にくじを引かされた。
そして決まった試合順。

"うずまきナルト VS 日向ネジ"
"うちはサスケ VS 我愛羅"
"奈良シカマル VS テマリ"
"油女シノ VS カンクロウ"

予選にて引き分けで勝者が居なかった試合もあったので、存外綺麗に分かれた。
サクラもそのうちの一人で、いのとの試合では両者ともノックダウンだったため本戦へは勝ち進めなかったのだ。

それにしても。

寄越した視線の先で、ナルトとネジが睨み合っているのが見える。
二人とも無言だが、そこには確固たる闘志が燃えているようだった。
普段は無表情でクールなナルトにしては珍しく、敵意の感情を顕にしている。

(…つっても、俺もナルトを気にかけている暇は無いか…)

相手はあのリーを苦戦したとはいえ倒した我愛羅。

負ける気などサラサラ無いが、今の強さでは叶わない事は理解できる。
何か策を練らなければ、俺はあの砂に一瞬で捻り潰されてしまうだろう。

それに、強くならなければナルトにも認めて貰えない。


新たな目標を抱えて、長かった中忍選抜試験は終わりを迎えた。


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