誓い

教室に入ると、見慣れたオレンジのジャージを見つけて走り寄る。
一度だけ此方に睨み付けるような視線を寄越した後、アイツ―うずまきナルト―はそれ以降目を合わせようともしなかった。

「……」
「………」

弟のような存在のその可愛らしくない行動にムッとしつつ、隣に座る。
鬱陶しそうに睨まれたが気にしても居られない。
三年間この調子なのだ。今更どうこう言う事でもない。
そう思っていると、深いため息を吐いたナルトが徐に立ち上がる。
まさか其処まで避けられると思わず、無意識に手を掴めば、ウザったそうに視線を向けられる。

これが中々に精神ダメージが凄い。

何とか引き止めたくて、震える唇を必死に開いた。

「ま、待てよ。どこ行くんだ」
「…あ?どこだっていいだろうが」
「態々席替える事ないだろ!」
「オメーが居ると女どもがきゃーきゃーうっせェんだよ」

はた、と瞬きをする。
確かに、周りに集まった女子たちが赤い顔を此方に向けて黄色い悲鳴を上げてはいるが。


今のナルトの言葉が聞こえたのか、女子たちが一斉にキッ、とナルトを睨み付けた。

「なによ!ナルトのくせに!!」
「ドベの癖に偉そうな態度とらないでよね!!!」
「サスケくんが可哀想でしょ!?」

好き勝手に言う女たちを睨み付けるも遅く、ナルトは俺を横目で見ると鼻で笑った。

「ふん、モテモテみてーで良かったじゃねェの、サスケちゃん」
「な、ナルトっ」

そのまま別の席に移っていくナルト。
そのオレンジの後姿を静かに見送る。
やり場のなくなった手を握りしめて項垂れるしかなかった。

(…くそ、話をすることすら出来ねえ)

自業自得なんだけれども。




あの日、ナルトが俺の家を出て行ったとき、酷く裏切られたような気持ちになった。

どうして俺に何も言わないまま、急に家を出たのか。

ナルトを裏切り者だと糾弾し続ける俺は、酷く我儘なガキだった。
今思えばとんだ醜態を晒したものだ。
しかしそれで写輪眼を開眼出来たのも事実。
けれど、いつまでもナルトに罵詈雑言を吐き続ける俺を見兼ねて、イタチや父さんが事情を話してくれて、俺は自分の無知を恥じた。

それからはアカデミーでナルトに冷たく接していた態度を改めようと思ったが。
…まあ、ナルトからすると今更の話なわけで。

既に後の祭りであった。

(……はぁ、)

ここ三年間、ナルトは俺をどんな目で見ていたのだろう。
考えるだけで、胸が締め付けられた。









「サスケ」
「…イタチ、」

縁側でぼんやりと夜空を眺めていれば、後ろから声を掛けられる。
昔から変わらない優し気な目を此方に向けるイタチに、気恥ずかしさを覚えると同時に苦しさを感じた。
自分は家に帰ると、こうして家族に迎え入れられ穏やかな時間を過ごすことが出来る。

――けど、アイツは?

「…悩み事か」
「…」
「……その様子だと、ナルトの事だろう」

ドキリ、と心臓が跳ねる。
自分は兄に隠し事すら出来ない。
…いや、兄故というのもあるのだろうか。

昔、俺とナルトが喧嘩をしても、兄さんがすぐに何かを察して間を持ってくれた。

イタチは…兄さんは、色々な事を知っている。

頭を撫でられる感覚に、自然と口から言葉が溢れ出す。
ぽつぽつとした小さな声だったが、イタチは聞き漏らすまいと真剣な顔で聞いてくれた。

「…なあ、兄さん。ナルトは、…うちは の事が嫌いだと思うか?」
「……」
「…俺は、ずっとナルトに裏切られたと思ってた。アイツも俺達をうちは という枠組みに入れたから突然家を出たんだと。この家に居ることが嫌になったんだと…。でも、実際は違った」

腹の立つ事実ではあるが、ナルトによってうちは が救われたというのは本当で。
アイツが居たから俺達が救われたんだ。

だというのに、何故かナルトを恨む連中は里の中に幾らでもいる。
それはうちは も例外では無くて、そんな奴らのせいでアイツは傷を負った。
これ以上問題を起こさないようにとナルトはうちは を出て行ったというのが、事の真相だった。

「そんな事、知りもせずに俺はアイツを追い詰めて傷つけた…」
「……サスケは、ナルトの事が好きか?」
「はっ?」

突然の質問に思わず頬が熱くなる。
しかしイタチの目はいたって真剣で、茶化す様に聞いてるわけでは無いことが見て取れた。

数秒の時間を要したが、なんとか頷く。
ふいに微笑を浮かべたイタチは、いつものように俺の額を二本の指で小突いた。

「ならば諦めるな。お前がナルトの事を心の底から友として好きだと言うのなら、どれだけ邪険にされ、どれだけ無碍にされようと、決して諦めるな」
「――――、」
「例えナルトがお前を許さなくても、お前だけはこれから何があってもナルトの味方で居てあげなさい」

イタチとは、兄ながらに不思議な存在だ。
その目で全てを見通しているかのように、常に正しい言葉を渡してくれる。


何があってもナルトの味方で居るという行為が、どれだけ難しい事なのかわからない。
それでも、俺はそれをしてあげたいと心の底から思う。


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