本当の目的
先程対峙したナルトを狙う暁の二人組が、木ノ葉にも来たと言う知らせを届けに来たガイが突っ込んでくるなどのハプニングはあったが、俺たちは旅を続けることになった。
というのも、この旅行の「本来の目的」は取材でも無い。
もっと言うならば、旅行でも何でも無く、伝説の三忍のうち一人である綱手を探すことだったらしい。綱手という忍は医療忍術のスペシャリストで、中忍試験の際に傷付けられたリーの足を治せるかもしれないんだとか。
リーに思い入れが人一倍強い故に、自来也に向かって「頼みます」と綺麗に腰を曲げたガイに背を向け、俺達は今度こそ本来の目的を果たすために歩き出した。
∞
螺旋丸の修行をつけてもらいながら綱手を探しているものの、現状どちらも困難を極めていた。
腕は痛いし、ナルトはあんまり修行に付き合ってくれない。
日中は自来也に付いて回っているのかとも思えばそうでもないようで、アイツは何処をほっつき歩いとるのかのォと自来也がボヤいているのを聞いた。
何故か俺が自来也の弟子のようになっているが、自来也が本当に弟子として取りたいのはナルトなんじゃないのか、と思う。思うと言うよりは、様々な事柄がそれを事実だと知らしめていた。それはいっそ自来也が哀れに思えるくらいに一方通行な感情だった。
しかし、四代目火影が考案した高等忍術なだけあって、螺旋丸という術は会得するのは本当に難しい。
(ナルトのやつ、いつの間にこんな術を学んだんだ?)
また一つ、ナルトに対する疑問が増える。
近くに居たはずなのに遠い存在のナルトに、どうしようもなく心がむしゃくしゃとした。
そんな状況のまま数日が経ち、夜に寄った居酒屋で存外にもあっさりと目的の人物が見つかる。
三忍の一人という事は自来也や大蛇丸と同じ年齢という事だが…目の前で飲んだくれている女はとても50には見えなかった。驚いた様子で自来也を見ている綱手の下へ歩を進めた自来也に並んで、俺達もその席に邪魔になる。
一瞬だけ腰を浮かそうとした綱手に不思議に思いながら座った。
「今日は懐かしい奴に良く合う日だ」
「……大蛇丸だな…何があった」
「別に何も、あいさつ程度だよ」
直ぐに嘘だと分かる。
大蛇丸にとってお遊び程度の刃を交えただけだったが、あの男が用も無しに誰かに接触するわけがない。偶々立ち寄ったこの町で偶然顔を見合せたなんて、もっと考えられない話だった。
「お前こそ、私に何の用?」
流石の三忍というべきか、酔っぱらってはいても眼の鋭さは鈍らない。
一瞬の沈黙の後、自来也は静かに口を開いた。
「――率直に言う。綱手…里からお前に五代目火影就任の要請が出た」
「なっ!?」
驚愕が喉を突いて出る。
声を出してしまったのは俺だけだったけど、ナルトと自来也以外は驚愕の視線を自来也へ向けた。
三代目が亡き今、代わりの長が必要なのは周知の事だったが、この綱手という忍はわざわざ探されるほど火影にぴったりな器だと言うのだろうか。
さらなる話によれば、三代目火影を殺したのは大蛇丸らしい。
驚愕の連続で、先程まで口に入れていた魚を食べ続けようとは思えなかった。
しかし、綱手はその申し出を突っぱねた。
そしてあろうことか、歴代の火影を馬鹿にするような言葉を口に並べる。自分の爺さんでさえも。
里の為だなんだと命を賭けて死んでいった大馬鹿野郎どもだと。
「アンタ…ほんとにそう思ってんのかよ」
「あ?」
酔っ払いの凄みを押し返す勢いで、テーブルに並べられた料理などお構いなしに手を叩きつけて、立ち上がる。
「大事なものの為に戦って死んだ奴らが馬鹿だって…ほんとにそう思ってんのかよ!!!!!」
「落ち着け、サスケ」
なんで止めるんだと横で大人しく座っているナルトへ目を向ける。
――俺は、ナルトの顔を見て言葉を引っ込めた。
俺が見た瞬間、その顔には強烈な憎悪の色が宿っていたからだ。
それも一瞬の事で、すぐにいつも通りの顔に戻ったナルトは、口端を少し吊り上げながら綱手を見た。
何かに気付いたのか、目を見開く綱手。
「この子供は…」
「ああ。こいつはうずまきナルトだ」
「…」
「…」
自来也が告げたナルトの名前に、口を閉じた綱手。
黒髪の女とブタが、沈黙の中で不安げにしている。
挑戦的な目を向けるナルトを睨むように、綱手は顎を引いた。
俺もナルトが一体どうしてそんなにも好戦的なのかわからず、先程の勢いも忘れたまま二人を見比べる。
「アンタ、賭け事は得意か?」
「何故そんなことを聞く?」
「俺達がアンタを連れて木ノ葉に帰るか、それともアンタがこれまで通り誰の干渉も受けずに放浪を続けるか、賭けるのはどうだ」
「はん、アンタみたいなガキが私と何で勝負しようって?」
「残念だが、勝負すんのは俺じゃねぇ」
「…………なに?」
何を言っているのかと、その場に居る全員がナルトを見た。
視線の中心でふんぞり返っているナルトは、その手の親指を、横で座っていた俺へと向ける。
――――――ん?
「コイツはうちはサスケ。今は螺旋丸を取得するために修行をしている。コイツが一週間以内にこの術を完成させられれば俺達の勝ち。できなきゃアンタの勝ちだ」
「はぁ!?」
突然話の真ん中に引っ張り出され、当惑する俺を置いて、話が進む。
「コイツの将来の夢は火影になる事だからな」
「誰がいつそんな事を言いましたか!?」
「歴代の火影たちを馬鹿にされてムカついたんだろ。あんだけ啖呵を切って大声出したんだぞ。―――な、サスケ」
その微笑みに、全身を鳥肌が巡った。
不気味なくらいに綺麗な笑い方。昔は満面の笑みも可愛いとひっそり心の中で愛でていたが、今の性格でそれをされても可愛いなどと到底思うことが出来ない。
凍り付く俺を他所に、何故か話に乗ってしまった綱手。
賭けに勝ったら首にかけてるネックレスをやると言われたが、どんだけ値の張るものでも別に欲しいとも思わない。
違う。
俺の夢は火影になることじゃなくて。
横に座って話を進めるナルトに、それが届いているのかわからなかった。
俺の夢は、一生涯を掛けてお前の傍に居る事だって、大声を張り上げて言いたかった。
だけど。
もし、火影になる事でそれを叶えることが出来るとするのなら?
「――やってやる。三忍だかなんだか知んねえけどなァ、一週間で螺旋丸取得してぶっ飛ばす!!」
「言うじゃないか、うちはのガキ」
八つ当たりに近かったが、俺も覚悟を決めた。
そして、この些細な決意によって未来の行く先と世界の行く末が決まろうとしている事を、俺は知らなかった。
TOP