顔合わせ

沈黙が、その場を支配していた。

明後日の方向へ目を向け、頬杖をついているナルト。
そんなナルトの横で、偶に横を見ながら座っているサスケ。
教壇の前でそんな二人を眺めるサクラ。

誰も喋り出さないし、身動ぎも制限されてるような気がする。

何というか、空気が重い。
吸い込むたびに体の中に鉛を埋め込まれていくような、そんな感覚。

サスケはナルトに何か言いたい事があるのか、何度か口を開閉させているが、それきり何も言えないまま黙り込んでしまっている。

「………」
「…………」
「…………はぁ、」

思わずと言った様子で、サクラの口からため息が零れた。

早く担当上忍が来てくれないものだろうか。
そしてこの気まずい空気をどうにかしてほしい。

(こんな空気、流石の私もサスケくんにキャーキャーなんて言ってらんない…)

自分たちと同じ下忍の子達は、それぞれが担当に連れられて教室から出て行ってる。
つまり、自分たちの上忍がこんなにも遅れてるのはおかしいのだ。
外れくじを引いてしまったという事なのだろうか。

サスケがナルトの腕を取ろうとした瞬間に、教室の扉は開かれた。


「やー、悪い悪い。そこでお婆さんが迷ってて…………って、なに?この重い空気」


片目を額当てで隠し、顔の半分を布で隠した男。

(怪しい…)

そんな感想が真っ先に浮かび、サスケとサクラは眉を潜めた。
遅れてきた上に適当な理由付け、素顔を見せないその姿。不審者と言われても納得できる。

「うーーーん。これは前途多難だな………、ま、いいや。じゃ、ちょっとお話しましょうか」

そんな言葉と共に、三人はその上忍に連れられて外へ出た。









「まずは自己紹介してもらおう」
「…どんなこと言えばいいの?」
「…そりゃあ好きなもの、嫌いなもの…将来の夢とか趣味とか…ま!そんなのだ」

そこまで言って言葉を切ると、カカシは三人を――いや、主に二人へと視線を向けた。
サクラに関して言えば今のところ問題があると思えない。
問題は残りの二人。

うずまきナルトとうちはサスケ。

数年前、イタチと共にナルトを監視していた際は仲睦まじい様子だった二人が、どうしてこうなったのか。


(…いや、どうして等と言うのはおかしいか)


理由など知っている。
ナルトが一体どういう扱いを受け、うちはを出ることを決めたのかも。

ただ、ナルトは絶対にうちはを嫌っていない事はわかるのだ。
でなければ、事件の後に三代目に頭下げてまで「うちはを一括りに断罪するのはやめてくれ」なんて言わないだろう。

カカシとしては、任務に支障が出なければいいとは考えていたが、ここまで陰鬱とした空気を纏っているとは思わなかった。

(イタチが偶に悲痛な表情を浮かべるのも当たり前だな…)

「先生?」

サクラの問いかけに意識を戻す。

訝し気な三人の視線を受けている事に気付いたカカシは、慌てて笑みを浮かべた。

「あー…まずはオレが自己紹介しよう。オレは はたけカカシって名前だ。好き嫌いをお前らに教える気はない!将来の夢…って言われてもなぁ……ま!趣味は色々だ」
「…ねえ、結局分かったの名前だけじゃない…?」
「適当だな…」

サクラとサスケがコソコソと、ジト目でカカシを見ながら言い合う。

「はい。じゃ、次はお前らだ。左から順にどーぞ」

「…私は春野サクラ。好きなものはあんみつ。嫌いなものは激辛料理。将来の夢は…まだ決まってません!好きな人は……」

ちらり。
サクラが横目にサスケを見る。
見られたサスケはというと、怪訝そうな顔で瞬きを繰り返していた。

(…あ、言わないのね)

てっきり好きな人はサスケくんです!とでも言うのかと思ったが…まあ本人が居るのに言わないか。

カカシは苦笑を零しながらサスケへと視線を遣る。

「…うちはサスケ。嫌いなものならたくさんあるが、好きなものは別にない。夢なんて言葉で終わらす気はないが、目標はある。兄、イタチを超える事。そして――…、」

サスケは、今まで横目で見ていたのは何だったのかと問いたくなるほど真っすぐに、ナルトを見ていた。
黒と、仄暗い碧がぶつかる。


「俺のせいで無くした友人を、取り戻す事」
「……」

ナルトは何も言わないが、一瞬だけ瞳孔が開いた。
しかし無表情を崩す事無くサスケから視線を逸らす。

カカシは、最後にナルトを見た。

「――うずまきナルト。好きなものはない。嫌いなものもない。将来の夢は――覚えていない。趣味も特にない。…ただ、探しているものはある。それを見つけるまで、俺は絶対に死なない」

探しているものがあると口にした瞬間、ナルトの目に一瞬だが強い光が差した。
それが捕らえた獲物を絶対に逃さない獣のようで、カカシは自分の身体に鳥肌が立つのを感じた。

「…ふむ、なるほどね。よし、自己紹介はそこまで。明日から任務やるぞ」
「早速なんですね」

サクラの言葉に相槌を打って、カカシは立ち上がる。
指を一本立てると、にっこり笑った。

「まずはこの四人だけであることをやる」
「あること…?」

「サバイバル演習だ」

「演習だと?」

三者三様の反応に、カカシは読み取れない表情で説明する。

曰く、卒業生27名中下忍と認められる者は9名しか居ないらしい。
演習でふるいに掛けるそうだ。
では何の為の卒業試験なのか、とサクラが焦燥感を隠さずに訪ねる。

「あれは下忍になる可能性のある者を選抜するだけだ」
「そんな…」
「とにかく、明日は演習場でお前らの合否を判断する。忍び道具一式持って来い。それと、朝めしは抜いて来い……下手したら吐くぞ」

三人にプリントを配りながらそう言うカカシ。


その日は、それで解散となった。


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