Cランク(?)任務
「ああ! 私のかわいいトラちゃん。死ぬほど心配したのよォ〜〜〜〜」
そう叫びながら、火の国大名の妻であるマダム・しじみは、飼い猫のトラへ頬ずりを繰り返す。
トラと呼ばれた猫は心底嫌そうに鳴き声をあげている。
迷い猫を探すという依頼だったが、猫を思うならば見つけてあげないほうが良かったのかもしれない…。
「アホらし…」
「逃げんのも無理ないわね。アレじゃ」
ナルトとサクラががそれを眺めながらポソリと呟く。
俺も同感なので、静かに頷いておく。
やがてマダムが出て行くと、三代目は書類を見ながら気を取り直したように喋り始めた。
俺達に任せる次の任務を探しているらしい。
しかし口にするのは"おつかい"や"お手伝い"や"子守り"などの程度が低いランクばかり。
イタチは日々の積み重ねが大事だと言っていたが、これでは成長してるのかすら測れない。
もどかしい思いで、しかし我儘をいう訳にもいかないと黙って聞いていれば、意外な人物が口を開いた。
「もっと手応えのある任務くれよ、三代目」
表情は至って無だが、その声音には懇願のような色が含まれている。
三代目は笠下からナルトを見遣ると、しばし何かを考えた後にパイプを吹かした。
隣に座っているイルカは驚いたように目を見開いている。
…いや、理由はわかる。
ナルトが誰かに何かを頼むなど、聞いた事も見たことも無いからだ。
俺も、もの珍しさに隣に立つナルトを凝視する。
…ナルトには見向きもされなかったが。
「…ふむ。ならばこの任務はどうじゃ?」
そう言って火影が告げてきたのはCランクの任務。
ある人物の護衛任務だと言う。
「入って来てもらえますかな…」
火影の言葉に後ろの扉が開き、一人の男が姿を現す。
酒を飲みながら入ってきた男は、不躾な視線を俺達に向けた。
「なんだァ?超ガキばっかじゃねーかよ!」
あ?
ぞわっとするような冷たく小さな声が隣から聞こえてきた。
無表情だが、そこから滲みだすオーラは少し黒い。
その場に居た全員が慌てる素振りを見せたが、依頼者は気にした様子も無く言葉を続けた。
肝が据わっているというのか、図太いと言うのか、はたまた鈍いだけなのか…。
「わしは橋作りの超名人 タズナというもんじゃわい。わしが国に帰って橋を完成させるまでの間、命をかけて超護衛してもらう!」
班を組んで初のCランク任務は、前途多難なようだ。
∞
サクラとカカシとタズナが、五大国や隠れ里の忍者について話しているのを聞きながら、足を進める。
ナルトは話に興味が無いのか、先程から何回か欠伸を零す。
ちらちらと見てしまうと、何見てんだとガン付けられるので、すぐに横に向きそうになる眼球を抑えるのは至難の業だった。
ナルトに話しかけたいけど、これ以上嫌われるのは勘弁なのである。
そんななんて事の無い、穏やかな旅路が不穏なものに変化したのは直後の話。
突然辺りに響き渡る鎖の音。
その音の出所を探るよりも早く。
唐突に現れた二人の忍の手にある鎖に、カカシがあっという間に捕えられた。
「え…!?」
サクラの驚きの声を合図にしたかのように、敵がその長い鎖を勢いよくお互いの方に引き合う。
「一匹目」
――そして、カカシは呆気なくバラバラになった。
「キャー!」
サクラの悲鳴が辺りに響き渡った。
なんのリアクションも取れずに、息つく間もなく、耳元で低い声。
そして、現れる気配。
「二匹目」
間一髪で避ける。
髪の先が何本か切れ、はらりと宙を舞う。
咄嗟に投げたクナイが相手の頬を掠るが、追従を掛ける前に体制を立て直さなければならない。
(くっ…)
倒れかける身体で敵の姿だけでも捉える。
此処からどう反撃に出るかを頭で考えるよりも早く、敵の上から降ってきた影が俺に掛かった。
高い位置から落ちてきた"それ"は、二人いた内の片方を重力に逆らうこと無く叩き潰す。
クレーターと共に沈む敵。
飛沫を上げる、赤。
残されたもう一人は、不意を突かれたせいか動揺を隠せていない。
撓んだ鎖を何とか持ち直そうとするが、それを行うより早く、敵の前に躍り出た影が身体を弾き飛ばす。
ヘッドロックをかまされた敵は、あっという間に意識を失った。
「!」
それぞれの敵を捕まえているのはナルトとカカシ。
二人は、目にも止まらぬ速さで敵を伸してしまった。
「カカシ先生、無事だったのね!」
変わり身の術を使ったらしいカカシは、サクラに笑い掛ける。
ナルトはいつもと変わらない表情で、吐血したソイツをカカシの方へ投げ捨てた。
(ひでえ…)
敵のぞんざいすぎる扱いに、流石のカカシも苦笑いである。
いつもの空気は一瞬の事で、カカシは険しい顔でタズナを振り返った。
いつもはやる気の無さそうな瞳が、今は鋭く光っている。
俺達が初めて見る、カカシの相手を責め立てる非難の視線。
「タズナさん」
「な…何じゃ…!」
「ちょっとお話があります」
「ナルトは、さっきの敵二人に気付いてたの…?」
カカシとタズナが何やら話している間、サクラが恐る恐ると言った感じで尋ねる。
縛り付けられた敵の忍二人を眺めていたナルトは、横目にこちらを見遣ると只頷いただけだった。
沈黙がその場を支配するかと思われたが、珍しくもナルトは口を開く。
「…道端にあんなに雨が降ったみたいな大きな水溜まりがある癖に、草木や土には水に濡れた様子が無いのは明らかに不自然だろ」
「…確かに」
何処を見ているかわからない目をしている癖に、やはりナルトは色んなものを見ている。
その姿がイタチに通ずるものがあって、サスケは無意識のうちに手を握りしめた。
俺も負けていられない。
武者震いのような震えに、奥歯を噛み締めた。
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