「アラック、土方十六夜……お前のことだろ、荒月」
目の前の子供の表情は動かない。
「鬼の副長――土方十四郎の生き別れた兄弟に成りすまして真選組に潜入し、近藤勲局長を暗殺した……ように見せかけた」
「……」
灰原が荒月に感じていたというアラックの面影。当然だ、だって本人なんだから。
「その後、組織に戻って……何らかの理由でアポトキシン4869を飲み、身体が縮んでしまった」
ごくり、と唾を飲み込む音が聞こえた。後ろで見守っている真選組のうちの誰かだろう。
「アラックの“あら"で"荒"、“真”は真選組から取ったんだろ?」
「……そうだとしたら何だ? お前に何の関係がある」
なァ、高校生探偵?
ヒュ、と喉が鳴った。安室さんから聞く限り、アラックは完全に組織を裏切ったわけじゃない。組織に俺が生きていることがバレたら。名前まで変えて、幼馴染の家に転がり込んで、おっちゃんを名探偵に仕立て上げたのが全てパアだ。どころか、みんなを危険に晒してしまう。
「俺が見たのは“工藤新一”の項が裏切者であるシェリーの手で“生死不明”から“死亡確認”に書き換えられた報告書と、街中を歩いていたシェリーと同じ顔の少女、それからマウスによるアポトキシン4869の投与実験の報告書だけだ」
荒月は嘲笑うように顔を歪める。
落ち着け、まだ荒月は組織に俺のことを報告していないはずだ。だって、それは自分の首を絞めることにもなるから。
「……十六夜」
「言っただろ。土方十六夜は俺が殺したよ」
沖田隊長の言葉を否定する荒月。けれどもその眼にはどこか寂しさが浮かんでいるように思えた。
「……お前は、殺そうと思えばいつでも、簡単に近藤さんを殺せたはずだ。それをわざわざ、みんなが寝静まっている夜を選んで……その上で殺さないことを選んだ。それは少しでも俺たちに情を抱いてくれたからじゃねェのか」
「バカバカしくなったんだよ。お前らがあまりにもアホだから。望むなら今からでも積んでやるさ」
土方さんの言葉をも否定し嗤う。けれどもその笑顔はどこかぎこちない。
「今日はお前に、組織からの離反を提案しに来た」
「ハ、離反? ンなもんするわけねェだろ。できるわけねェ。俺はこの生き方しか知らねェんだ」
「できるだろ。“土方十六夜”として江戸で過ごした時間も、“荒月真”として東京で過ごした時間も。お前はもう、組織以外での生活を知っているんだから」
ここにはいないが、安室さんは以前からアラックを組織から解放できないかと考えていたそうだ。今回の作戦に必要な情報を集めてもらうように頼んだときは力強く頷いてくれたし、FBI……赤井さんとの協力も嫌そうな顔はしたものの受け入れてくれた。
「組織は江戸での取引から手を引くらしい。今なら真選組に保護を頼める」
「お断りだ。どの面下げて真選組に下れと?」
「俺たち――真選組は問題ねェ。今までの生活に戻るだけだ」
「戻る? オイオイ冗談じゃねェや。何度も言ってんだろ、俺は土方十六夜を殺してるんだぜ? 副長の身内を手にかけた相手を受け入れるなんて……頭イカれてんのか」
そうだとしても、荒月は逃げ出さずに俺たちと相対している。その身体能力をもってすればいつでも逃走できるだろうにそうしないのは、それが本音なのだろう。
「お前は土方十六夜を殺してない」
俺の言葉に、初めて荒月の表情が揺れた。