エプロンの向こう側



 焼けた肌色に目を引く金髪。見覚えのあるそんな姿に、警ら中なのも忘れて思わず近くへバイクを停める。ヘルメットを脱ぎつつ目当ての人物に近付きながら、もう三年ぶりになるだろうか、彼を見るのは……なんて。

「降谷くん!」

 名前を呼ばれ、ポアロなんて店名の書いたエプロンをつけた彼は驚いたように顔を上げて目を丸くしている。
 パチリと目が合い、降谷くんは何かを言いたげに薄らと口を開いたかと思えば、突然後ろの扉が開いて出てきたのは同じエプロンをつけた女性。

「安室さん!……って、あら?警察の……もしかして、また何かあったんですか?」
「さあ……。お巡りさん、どうされましたか?」
「……いえ。すみません、その…友人に、似ていたものでつい……声を掛けてしまって……」

 「安室さん」そう呼ばれた人の、さっきまでの余裕のなさそうなびっくりした顔は何処へやら。不思議そうにこちらを見ながら首を傾げている。
 しどろもどろになりながらそう答えれば「そうだったんですね」なんて微笑んですらいる。

 記憶の中の、彼と何ら変わりは無いはずなのに。「久下さん」ではなく「お巡りさん」なんて呼ばれてしまったのに、薄らショックを受けてすらいる。
 特徴的な容姿ではあるし、記憶の中の彼と一致している。だけど、名前が違うなんて。そっくりさんって、この世に似た人は三人いるっていうし……でも。

「……すみません、人違いだったみたいですね。最近、事故や事件が多いのでお気を付けください。それでは、失礼します」

 未だ自分の中では答えの出ないまま。このままここで油を売っていても仕方がない。謝ってその場を離れるのが得策だろう。
 挨拶をしてその場を離れようとすれば「あの!」なんて私を引き止める声。その声に振り向けばにっこりと『安室さん』は笑っていて。

「ここのハムサンド、絶品なんですよ。是非、良かったらまた食べに来てください」
「そうなんですね。是非、またお伺いします」
「お仕事頑張ってくださいね」
「……っ!は、はい。ありがとうございます」

 完璧な答礼、記憶の中の彼と重なって。ああ、やっぱり。やっぱり降谷くんじゃないか。間違いなんかじゃなかったんだ。
 なんだか嬉しくなりながら業務へと戻る。確か、三年前……最後に、同期みんなで集まったあの日。降谷くんと諸伏くんは公安だと言っていた気がする。名前が違うのには、なにか理由があるのかもしれない。……それにしても、エプロン姿が妙に似合っていた。

 だけど、偶然。こんなところで出会えるなんて思ってもみなかった。
 是非食べに来て欲しいなんて言われたけれど、お世辞じゃないだろうか。行きたいけれど、行っていいのかな。……次の休み、いつだっけ。なんて久々に休みにお出かけの予定を立てて、ひとり嬉しくなって。
 ああ、楽しみが出来てしまった。これで今日の残りの仕事も頑張れそうだ。


────────────


 本当にびっくりした。こんな偶然が起こるなんて思ってもみなかった。
 彼女が、久下さんが昨年の春に事故で休職したことも、冬前に無事復職したことも。そして、確か今春に。高速道路交通機動隊から、方面こそ分からないものの交通機動隊に異動したとは聞いていた。
 だけど、まさかここ、米花町方面が管轄の場所に異動していたとは驚いた。

 元気そうでなによりだった。最後に見た時は、確か萩の墓参りの時だったか。あの時はまだ松田も生きていて、班長だってヒロだって……生きていた。
 班長が亡くなってから、事故の他にも精神的にも参っていたと聞いていたから、昔と変わらないあの笑顔で彼女がこちらに向かってきた時は、夢かと思った。
 ぼんやり、思いを馳せていれば傍で名前を呼ぶ声。

「安室さんっ!聞いてます?!」
「ああ、すみません。ぼーっとしていて。明日の事ですよね」
「聞いてたなら、良いんですけど……。というか、さっきの警察の方やっぱりお知り合いですか?」
「いえ?」
「でも、なんか安室さん嬉しそうだし……。あ、分かった!もしかして、タイプだったとか?」

 にんまり、そう言って笑う梓さん。……嬉しそうに見えていたらしい、まあ。同期と久々に会って嬉しくならないわけがないだろう。
 それに、タイプって。思わず苦笑いをしてしまう。遠からずなのが、なんとも言えないのだけど。

「ふふ、さあ?どうでしょう」
「え〜っ!?どうなんですか!教えてくださいよ〜」

 そう言って有耶無耶に濁しながら店の中へと戻っていく。さて、彼女はいつ来てくれるだろうか。来てくれたその時には、いつもより腕によりをかけて料理を作るとしようじゃないか。
 


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