ロマンチックよりサイレンが先に来る
一回目は、ボヤ騒ぎだった。
卒業式も終わり、ひと段落着いた頃。今日こそ、自分の気持ちを伝えて「付き合ってください」と伝えよう。なんて心に決めて、デートに誘ったはずだった。
この前出来なかった買い物の続きをして、夜はお洒落なディナーでも食べてロマンチックに告白するつもりだった。なのによぉ!
「萩!避難誘導手伝うよ!早く!」
「お、おう!」
デパート内でのボヤ騒ぎ。涼香ちゃん、この前の米花水族館でも避難誘導してなかった?悲鳴の聞こえる中、ぼんやり、そんなことを考えていた気がする。
誘導中気づいたら離れ離れになってしまっていて、避難も完了し火が消し止められ、合流して一息ついた頃には予約の時間は過ぎていてディナーはぱあになった。
色気もムードもないラーメン屋で、並んで麺を啜ったのは悪くなかったけど。
で、二回目はひったくり。
ようやく合った休みだった。今回はのんびりと散歩をしていた。休日の公園でのんびりと歩いて、近くでフリマがやってるだの散歩してるワンちゃんが可愛いだの。穏やかな休日だった。
……はずだった。背後から聞こえた「ひったくり!」なんて声。
反射的に、振り返るのが早かったのは涼香ちゃん。ちょうどこちら目掛けて走ってくるひったくり犯は、「どけ!」なんて今にも涼香ちゃんを突き飛ばそうとしていて。
犯人も、びっくりしただろう。そうだ、相手はふんわりとした可愛らしいワンピースを見に纏い、お淑やかな雰囲気を持つ若い女性……だった。けど、相手が悪かった。
突き飛ばそうとした相手は、最近交番勤務を始めたばかりとはいえ警察官で、学校時代には男の同期を相手取って、逮捕術の授業でボコボコにしていたのだから。
腕を捻り上げられ、その場に突っ伏したひったくり犯は苦しそうに呻き声を上げている。うわ、痛そう……。というか、これ痛ぇんだよな。
「萩、通報お願い」
「いや、危ねぇし抑えるの代わるよ」
「あ、ほんと?ごめん」
「……ったくよ……デートの邪魔してくれちゃってさぁ……なあ?」
「いででででで!」
若干、恨みを込めたけど流石に許して欲しい。代わりに通報をしてくれている涼香ちゃんの後ろ姿をぼんやりと眺める。まあ……コイツも、涼香ちゃんが棒持ってなくて良かったな。
と、まあ。そんな事があったら事情聴取に現場検証。真面目な涼香ちゃんはしっかり付き合って、今回もそんな雰囲気になる気配もなく涼香ちゃんを家に送って、デートはおしまいだった。
ところで、三度目の正直という言葉があるが……。残念ながら、二度あることは三度ある、という言葉もあるように。
三回目は、爆発騒ぎ。もうここまで来たら俺らが呪われてんのか、この米花町が呪われてんのかどちらかだろう。
今回はほんと、本当にいい所までいった。途中までは完璧だった。
というか、変な事が起こる前に!なんて、待ち合わせ場所だった店で、ランチをした後すぐ実行に移そうとした。今回こそはいけると思った。
「涼香ちゃん、俺。言いたいことがあって」
「な、なに?急に改まって……」
お互い真っ赤な顔をしていたはずだ。何となく、涼香ちゃんも雰囲気で察していたのかもしれない。ああ、やっと。やっと想いを伝えれる……。
「……俺。涼香ちゃんの事が、す」
「好きだ」そんな、たった三文字。言い終わる前に、けたたましい爆発音。好きだ!なんて声はそれに掻き消されて涼香ちゃんには届かなかっただろう。
「え、えぇ!?」
「嘘だろ!?」
少し離れたところから煙が上がっている。あれ、どの辺だ!?お互い告白なんてそっちのけ。
どうするべきだなんて考えていたら俺の携帯が鳴って。こんな時に誰だよ…!確認すれば職場の番号。
『よォ、萩。デート中申し訳ねぇけど、ご指名だぜ。△△で爆発事件で、まだ残ってるかもしれねぇって。出動要請だ。今どこいる?』
「……っそだろぉ……?今、現場の近くいっけどよ……」
『オウ。早くしろよ。じゃあな』
相手は陣平ちゃん。嘘だろ、なんて頭を抱えていれば涼香ちゃんは心配そうに俺の顔を覗き込む。ああ、次のデートはお祓いが良いかもしれねぇな。
「萩……送ってこうか?」
「……頼むわ……」
ちゃり、とバイクのキーを見せる涼香ちゃん。というかこの子、待ち合わせ近くまでバイクで来たんだ……。
会計をすぐ済ませたあと、涼香ちゃんの愛車に跨りヘルメットを借りる。
「用意周到だねぇ」
「バイク乗りたかったのもあったんだけど、なんか……今日はこうした方がいい気がして……」
「嫌な虫の知らせだな……」
「ね……」
因みに、その後出動したわけだが特に他に爆弾も見当たらず爆発した場所も、廃ビルで死傷者もゼロ。
三回目のデートも、不発に終わった。……爆発事件は、起きたけど。
────────────────
多分、呪われてるだろこの街。色んなやつから何かしら事件の話聞くんだよなぁ。
ということで、米花町付近を離れて地元近くへと一緒に帰ることにした。涼香ちゃんが「お母さんの様子を見に行く」なんて言っていたのもあるし、ついでにお袋と親父の顔でも見ておこうか……なんて便乗した形ではある。
これで、何かあったら多分俺らが呪われてんだろうな。
「よっ、お母さん大丈夫だったか?」
「うん。腰痛めちゃったみたいだけど、まあ元気そうだったし大丈夫だとは思う。「研二くんと陣平くんによろしくね〜」って言ってたよ」
「そっか、元気そうなら良かった」
夕暮れの中、駅に向かって並んで歩く。ずっと三人で登下校した懐かしい道だ。
この近くには公園があって、小学生の頃にダチと遊んだりしていたなぁ。なんて。まあ、陣平ちゃんと涼香ちゃんは専らうちの工場で遊ぶ方が楽しかったみたいだけど。
懐かしいねなんて昔話で盛り上がる中、もしかして、今がチャンスなんじゃ……とふと思い至る。今しかないと「涼香ちゃん!」と声を上げようとした瞬間、後ろでガシャンと何かの倒れる音と男の子の泣き声。
涼香ちゃんはぱっと振り返ってそっちに向かって一直線。ああ、涼香ちゃんはそういう子だよなぁ。
「わっ、大丈夫…!?あ……膝。血が出てる……痛かったね…泣かないで。絆創膏あるし、そこの公園で洗おうか」
「おら、坊主。男だろ〜泣くなって。しゃーねぇから連れてってやるけどよ」
「ふふ…萩。ごめんね」
「いいってことよ。警察官として当たり前、だろ?」
坊主を抱き上げて公園の水道に向かって歩く。涼香ちゃんはその子の自転車を押して後ろを着いてきているようで。
「おじさん、お巡りさんなの?」
「んなっ、おじさんってなぁ!」
「あはは!そうだよ、おじさんもお姉さんもお巡りさんなんだ〜」
「おい!涼香ちゃんまで……!」
傷を洗って、カバンから出したハンカチでポンポンと傷周りを拭いてやっている涼香ちゃん。
絆創膏もきちんと持っているらしく、汚れることも厭わず屈んで男の子の膝に貼ってやっている。
「よし。一応これで大丈夫かな、傷口は綺麗にしておくんだよ。泣かないでえらい!」
「お姉ちゃんありがとう」
「うん、気を付けて帰るんだよ〜」
「お姉ちゃん!お兄ちゃん!ばいば〜い!」
「ばいばい〜!」
自転車に乗って帰って行く男の子の後ろ姿を見つめずっと手を振っている涼香ちゃん。
自分の思う通りに、警察官として。そして、人として正しく生き、困っている人がいたら手を差し伸べる姿。勿論、尊敬しているし涼香ちゃんの素晴らしいところだ。
やっぱり、そんな涼香ちゃんの事。好きだなぁ……。
「……えっ」
「え?」
「す、……えっ?」
横でなにか、顔を真っ赤にした彼女は処理落ちしたのか「すっ、す、」なんて壊れたように呟いていて会話にならない。
……まさか、そんなまさか。俺、声に出てた?
「あの……」
「わあ!は、はい!」
「声、出てた……?」
「……そ、その。す……すき……って、なっ、ん……」
「嘘だろぉ〜……?」
思わずしゃがみこんでしまう。俺ってばうっかりさん!まさか、こんな形で彼女に「好き」と伝えることになるとは思っていなかった。もっとムードのあるところで、ロマンチックな告白をするつもりだったのに。
結果は実家近くの公園で、ぽろっと口を滑らせる形になるなんて。
「涼香ちゃん、あのさ」
「……はい」
「……俺、涼香ちゃんのこと。気付いたらすげぇ好きになってた。だから、俺の負け。……俺と、付き合ってください」
こんなみっともない告白ないだろう。しゃがみ込んだまま彼女を見上げれば、今まで見た事ないくらい顔は真っ赤で口はわなわなとしていて。
「返事、欲しいな〜……なんて……」
「あ、あの……こ、こんな私でよければ……よろしくお願いします……!」
「……良かった、断られなくて。すっげぇ大事にするから、これからもよろしくな」
立ち上がって涼香ちゃんの小さな手を取れば、茹だりそうなくらい手は熱くって。初めて見る様子に少しだけ、嬉しさと物珍しさと。
「そんだけ挙動不審な涼香ちゃん、初めて見たわ」
「う、うるさい!ばか、ばか……っ、もう!」
照れ隠しなのか、ぶんぶんと繋いだ手を振って振り払おうとしているけれど、絶対に離してやらない。
これだけ俺を虜にしてしまったのだ。責任は最後まで、取ってもらうつもりだ。
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