五回目の正直




 桜舞い散る別れの季節。空は気持ちよく晴れ渡っており卒業式日和だ。
 そんな中、爆音の声に耳を塞ぐ。

「涼香ぁ!卒業せんとって!!……結婚しよう!」
「侑、うるさい」

 そんな謎プロポーズを受け周りの好奇の目に晒される中、キーンと鳴る耳に顔を顰める。それ、卒業せんとって!の次に来る言葉なん?なんて心の中で思わずツッコミ。
 珍しく半泣きの侑は「嫌や!」なんて駄々を捏ねてまるで幼稚園児みたい。嫌と言われても、進学は決まっているし今日は卒業式。卒業するな言うにしても遅いやろ。

「侑」
「……なんや」
「友達からで」
「俺、友達以下やったん!?」

 また大きな声を出す侑に「うるさい」なんて再度窘めながら脳天にチョップをかました。そうすればしょもりと頭を押えながら、ブツブツと文句を言っている侑。

「侑のことはうるさい後輩くらいにしか思ってへんかったし、そもそも十八にもなってないのにあんた結婚でけへんやろ」
「十八なったら結婚してくれるんか!?」
「そうは言うてへん。話は聞け」

 また、スっと手刀を構えれば学習したのか頭を隠しながらサッと距離を取っている。学習、できたんや。

「せやから、結婚しません」
「…………からな……」
「ん?」
「絶対に!諦めへんからな!!」

 完全に捨て台詞だった。そう叫んで逃げた侑から目を逸らし、彼の半身に目をやればなんとも言えない顔をしている。身内の恥を見たのだ、仕方がないだろう。


────────


「なあ、俺が涼香のこと養うし一緒に住まん?」

 ────あの謎プロポーズから何年が経っただろう。
 確か、二回目は侑の卒業式の事だった。部活の後輩だった子の卒業を祝うため花束を持って母校の稲荷崎に向かった。
 そんな中、一番最初に出会ったのは侑。別に私が卒業してから会ってない訳では無い。だけど、感動の再会と言わんばかりに目を輝かせ一言。

「逆プロポーズ!?」
「違うわ。後輩にプレゼントするやつやけど」
「期待させよって……!」
「勝手に期待した方が悪いやろ」

 はん、と鼻を鳴らせば悔しそうに地団駄を踏んでいる。こいつ、もう高校卒業するのに……。
 迷惑そうにじとりと眺めていればそれに気付いたのか、ごほんと小さく咳払いして姿勢を改めた侑。

「俺!十八なったし高校卒業もした!結婚しよ!」
「しません」
「なんで!?」
「なんでいけると思ったん?学業に忙しいので無理です」
「ぐ、ぐっ……。絶対諦めへんから!覚えとけ!」

 あるんだ、次も。去年も見た光景に少し頭痛がしたのは内緒だ。

 で、三回目もあったし、三回目があるなら四回目もあった。
 確か三回目は「彼氏おるから」で断ったら「俺が告白しとるのに!?彼氏!?」なんて顎が外れる程驚いていた。尚、この時の彼氏は侑の粘着により割とすぐに別れた。

 四回目は丁重にお断りしたあと、侑が遂にキレたんだっけ。「全然靡かん」なんてモニョモニョ言われて、なんて答えたっけ。
 ただ、侑はその答えに憤ったのか、

「ずっとお前のこと好き言うとるやろ!」

 なんて言った。

「ンなもん初めて聞いたわ!」
「エッ……?」
「はあ?」

 流石に私もキレた。一度も「好きだ」なんて言われた記憶なんて無かった。少なくとも、何度もあったプロポーズもどきの中で「好き」なんて二文字は出てきてすらいなかった。
 そう説けば、これまでの事を思い出したのか顔を青くして汗はダラダラ。侑のこと好きな女の子が見たら、絶対ドン引くだろう。

「お、俺が悪かったです……」
「ええねん、別に。謝る必要ないやろ」
「でも、俺言葉足りんかった」
「いつもやろ」

 そんな言葉にショックを受けたように目を丸くした侑。「俺、言葉足りひんのや……」なんてしょもしょもしている。なんだか、しょもりとした顔が可愛かった気がする。そんな四回目だ。

 大きなものを数えると四回。細々と会話の節々に混ぜ込まれたものは数えていない。スルーしていたから。

 そして冒頭の一言。これが、恐らく五回目。
 侑とふたりご飯に行った日の事だ。始まりは私の何気ない「就活嫌やな〜。誰かに養われたいわ」そんな言葉だった。
 本当に意味もない、夢見るような気持ちで呟いただけだった。例えば、宝くじで一等当たらへんかな〜みたいな。
 そんな言葉に、侑は真剣な顔をして言ったのだった。

「なあ、俺が涼香のこと養うし一緒に住まん?」

 今までのより、真剣さが増していて少しだけたじろいでしまった。この私が、侑相手に。不覚だ。
 もう、正直自分の中ではうっすらと決まっていたのかもしれない。

「あはは、ほなお付き合いからならええよ」
「そっか……お付き合いからならええんか……エッ!?」
「いや、うるさ」
「ほ、ほほ、ほ……ほんまに!?」

 答えを待つ間、弄んでいたグラスを机に置いて動揺したようにアワアワと手を動かしている侑。見ていて飽きない奴だ、本当に。

「私の負けでええよ、その内諦める思てたのに諦めなさすぎ」
「……幸せにする」
「気が早いわ」

 ぐびり、グラスに残った甘いお酒を飲み下す。酔った勢いなんかでは無いけれど、絆されていたと言えばそうだし、別に嫌いでもない可愛い後輩にこれだけ……四年くらいアタックされ続けたら、流石に負けてしまう。

 あとから聞いた話だった。侑、この時断られたらこれを最後にするつもりだったらしい。
 そんな言葉に「逃げ切れたかもなのに、惜しかったわ」とからかってやれば「俺の粘り勝ちやな」と笑った。

 私、侑の泣いてる顔も好きやけど。笑っとる顔も同じぐらい好きよ。本人には言わへんけど。



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