どっちもひとつ




「もし、バレーか私を選ばなあかん時が来たら迷わずバレー選んで欲しい」

 なんの流れか、そんなことを言えば侑の箸からはぽろりと米が滑り落ちる。
 バレーと向き合っている侑の事が、割と好きだ。高校時代からの長くは無い付き合いだけど、彼がいちばん輝いている時はバレーをしている時だと思っている。

「ちょ、えっ。俺、どっちも諦めんけど」
「もしもの話しやし、そんな中途半端にして欲しい無いわ。どっちかにひとつ。バレーか私か、な」
「……涼香は、俺が、バレー選んでもええん」

 しょんもりとした侑に苦笑いの治。もしかすると、こんなところでする話ではなかったかもしれない。

「治、次梅食べたい。あんな侑。私、バレーしとる侑が好きやねん。せやから、バレー選んでもなんも言わへんよ。寧ろ、応援する」

 黙りこくってしまった侑をよそに、目の前に置かれた握られたばかりの梅おにぎりに箸を伸ばす。

「うーん……涼香ちゃん、それくらいにしといた方がええと思うで。あと痴話喧嘩は家でやってや」
「喧嘩はしてへんけど……。まあ、今そんな岐路に立たされてるワケちゃうし。……そもそも、バレー選んで言うたけど、私の事選んでもらえへんかったら落ち込むよ。一応、付き合ってるわけやし」

 梅の甘酸っぱさに思わずきゅうと目を細めながら続ける。

「私、我儘やから。どっちにしろ応援はするけど影で文句は言うやろな」
「……面倒な女。なんも言わん言うて、結局文句言うとるし」
「そんなんにめげずプロポーズし続けたんは侑やろ」

 「惚れた弱みやな」なんて治はケラケラと笑っている。そうだ、侑がこんなのに惚れた方が悪いだろう。

「言うとくけど、俺はどっちも諦めへんから」
「それで上手くいくんやったらええけど、どっちも疎かなったらどつき回すで」
「そん時は証人の俺も助太刀するわ」
「なんでや!サムぐらいは俺の味方でおってくれや!」

 わはは、なんて貸切のおにぎり宮で響く笑い声。こんな穏やかな日が一生、続けばええのにね。


────────


 大歓声の中試合が終わって、未だ夢見心地。
 ぼんやり、今思い出すだけでも心がじわじわ温かくて熱くなってくる。バレーなんてからっきしで、正直説明されてもルールはあやふやなくらいだけど、侑の姿は誰よりも輝いて見えた。

 一緒に関係者席へと通されていた治と今回の試合の話でもしながら帰ろう。そう治の方を見れば彼は悪戯っぽく笑う。

「ツムに頼まれてん。まだ帰さへんで」
「えぇ、帰らん?お腹すいたし」
「それは同意やけど、もうちょい待ってやって」

 ……まあ、治のお願いなら……と席から動かず出口へと流れていく観客を見つめる。暇だ、なんて気持ちが伝わったのか試合の話を始めてくれて助かる。
 あの時のあれがよく分かんなくて、でも凄くて、家帰ったら解説付きで録画見んねん!なんてやたらめったら興奮気味に話したのは覚えている。因みに解説は侑だ。

「……おし、そろそろ行こか」
「どこ行くん?」
「下」

 こいこい、と手招きされて着いていけばついた所はアリーナへと入る扉だった。
 えっ……なんて顔で治を見るけど、にまりと笑っているだけで何も分からない。

「ほな、気張ってき」
「何を?えっ、これ靴のまま入ってええん?」
「色々。コート入らんかったいけるやろ」

 こわ……なんて怯えつつ扉を開ければ少し先に見慣れた姿。まだ着替えていないのかユニフォーム姿で、何か抱えている。
 一歩一歩、そちらに向いて歩けば手にはでっかい花束を持って緊張した面持ちの侑にプッと笑いが漏れてまう。

「さっきまでかっこよかったのに、何?その顔」
「涼香」
「ん?」
「俺、バレーも涼香ちゃんも同じぐらい愛してる。あの時、涼香はどっちかにひとつ言うたけど、俺にはどっちも大事な人生や。……俺と、結婚してください」
「……あはは、六回目やなぁ。ほんまに、諦めへんしどうしようもないわ。……どっちも一生諦めんならええよ。結婚、しよ」

 こっちから手を伸ばすのは初めてだろうか。可愛げも無いけれど、「ん」なんて両手を侑に向かって伸ばせば意図を察した侑は大きな花束を持て余しながらもぎゅうと抱き締めてくれる。

「絶対幸せにする。選んでくれて、ありがとう」
「当たり前やろ。幸せにせんかったらどつきまわしたるわ」

 ちょっと目が合って、ふたりして笑い合う。
 花束を渡された後、差し出された指輪は私の左手薬指にピッタリだった。いつの間に、なんてじぃっと見つめていれば侑はまた笑う。

「やっと横で大人しく寝てくれるようになったやろ」
「……私、野良犬かなんかなん?」
「似たようなもんやろ」
「早まったかな、結婚」

 手は大きな花束で埋まって出せないから、ローキックで攻めればそれでも侑は幸せそうに顔を緩ませている。
 今日という日は、多分。一生忘れないだろう。幸せな日はまだまだこれからも続くはずだ。侑となら。……知らんけど。
 



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