下心を添えて




 今日も相変わらず黙々と手を動かしているのだけど、それにしても視線が痛い。ちらりと視線の方を盗み見れば、手を動かしながらこちらをチラチラと盗み見ているのは久下さんだ。

「……そんなに見つめられると照れるな」
「ひゃ、あ…ごめん無意識だったかも」
「どうかした?最早睨みつけるの域だったけれど」
「いや……その、」

 久下さんは口篭りながら手元の紙を忙しなく弄り、ぽつぽつと話を続ける。

「合コン……行ったんだって…」
「ああ、そうだね。凄かったよ、萩の独断じょ…う、で……」

 あの日のことを思い出しながら感想を口に出してみるけど、よく考えればそうだ。好きな相手が合コンで人気者だった話なんて、好んで聞きたくはないだろう。僕もそんな話は聞きたくない。
 明らかに表情を曇らせた久下さんに、少し胸が苦しくなりつつも何か話を変えねばなんて頭をフル回転させる。

「えっと、それよりさ」
「……ふふ、ありがとう。大丈夫だよ、ほら…。大学生の時もそんな感じだったし、慣れてるから」
「……僕も迂闊だったよ」
「降谷くんが気にすることないよ!んふふ、降谷くんって優しいね」
「そんなことないさ」

 だって、下心があるから。なんてことは流石に口には出せないけれど。
 ぐぐっと大きく伸びをしながら大きく息を吐いた久下さん。「少し休憩でもしようか」なんて口に出しながら自分の身体を背もたれに預ける。

「…なんだか最近ね、我慢が効かなくなってるっていうか。隠せてたものが隠せなくなってる気がして、ちょっと」
「それは、萩に対する感情的なものかい?」
「まあ……率直に言うとそうかも。現にこうやって降谷くんにバレちゃったし…」

 少し前、松田から聞いた久下さんが色々な感情を隠す理由。隠してるみたいだし個人の事情だから、流石に深くは聞けなかったけど、幼少期にあった実父からの……所謂虐待が原因らしい。
 それでも、こうやって様々な感情を発露する様になっている事は良い傾向だと思うんだけど。久下さんの中でそれはまだ『悪い事』なんだろう。

 ……僕にバレた原因は、久下さんからそういう感情的なものが漏れ出ていたからではなく。ずっと彼女を見ていたから気付けたものなんだけど。
だから当事者の萩や久下さんと仲のいい京極でさえ、恐らくだが未だに知らない筈だ。
 つまるところ、久下さんは隠し事が非常に上手だったりする。

「まあ……こんなこと、降谷くんに言っても興味無いよね。ごめんね、なんか…降谷くんって少し、話しやすくて」
「そう思ってくれたなら光栄だ。……大丈夫だよ、良ければまた相談してくれたって構わない」
「ふふ、やっぱり優しいね」
「……下心があったらどうする?」
「下心?うーん…。あ、ご飯奢って〜の話?」

 思い付いたようにぽんと手を叩いた久下さん。
 どうやら、僕から彼女に好意がある上で優しくしているとは思い至らなかったみたいだ。そういう、少し抜けたところも魅力の一つだったりするのだけど。

「ふ、じゃあそういうことにしておこうかな。何を食べさせてくれるんだ?」
「え〜!?えっと…それじゃあ、少し前に駅前のカフェで食べたケーキが美味しかったから、食べに行く?」
「いいね、それじゃあ次の休みとかどう?」
「大丈夫だよ。あのね、ケーキもだけどご飯系も全部美味しそうでさ、」

 先程までの事なんてすっかり忘れたみたいにニコニコとしながら、あれも美味しそうだったなんて楽しそうに話している久下さんを見て少し安心。
 やっぱり、落ち込んでいる顔より笑顔の方が似合う。それに偶然とはいえ、出掛ける約束を取り付けられてこちらとしてはそれだけで大満足だ。







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