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地下牢を使用している魔法薬学の教室は他に比べ異様なほど肌寒い。適当な席について手持ち無沙汰に教科書をめくる。

「この教室、寮と比べ物にならないくらい寒いな。」

「まぁ、魔法薬の材料の保管や調合を考えると妥当な配置だともうが流石に少し肌寒い。」

たわい無い会話をセオドールとして授業開始を待つ。暫くするとセブルス・スネイプが真っ黒なローブを靡かせて入って来た。

点呼が始まり、生徒たちが返事をしていく。
「セス・ノーザンバランド」

「はい。」
静かに返事をして黒ずくめの彼を眺めているとハリーの順番でピタリと止まり背筋を撫でるような優しい声で

「あぁ、さよう。ハリー・ポッター。我らが新しいスターの登場だね。」
小馬鹿にするようなその言葉にドラコをはじめとするスリザリン生たちが冷笑を浮かべる。私はつまらないと、そう思いながらハリーを一瞥した。いきなりの仕打ちに困惑を隠せないハリーは私が見ているのを見つけると目を見開いたあと、そっと目を伏せた。

「このクラスでは、魔法薬調剤の微妙な科学と、厳密な芸術を学ぶ。」
ささやくような声なのに、冷たく張り詰めたこの教室では驚くほど声が響いた。
スネイプの演説は止まらない。

「このクラスでは杖を振り回すような馬鹿げたことはやらん。そこで、これでも魔法かと思う諸君も多いかもしれん。」

カツカツとスネイプの革靴のおとが教室に響く。
「ふつふつと沸く大鍋、ゆらゆらと立ち上る湯気、人の血管の中を這い回る液体の繊細な力、心を惑わせ、感覚を狂わせる魔力。」

毎年話しているかのような演説に生徒たちが息を飲んだ。仄暗い教室は今やスネイプの独壇場だ。
「諸君らがこの見事さを真に理解するとはとうてい期待しておらん。我輩が教えるのは、名声を瓶詰めにし、栄光を貯蔵し、死にさえ蓋をする方法である。」

私の前まで歩いてきたスネイプは、ニヤリと笑い続けた。
「これまで教えてきたウスノロたちより諸君がまだましであればの、話だが。」

その言葉にセスは微笑み返し、となりのセオドールは当たり前だと言わんばかりだ。しかし、スネイプの興味は既にセスには無いらしい。


「ポッター!!」