01
「セス、セスはどこだい……?」
「ここにおります、お父様。」
目の前で弱々しくベットに横たわるお父様はもう見えていないだろう目で彷徨うように手を伸ばし私を探していた。
伸ばされた手をつかめば骨と皮以外ないのではないかというほど細く、冷たい。
死が近づいているのがまだ幼い私にも充分すぎるほどわかった。
「セス、セス、可愛いセス。
……私はもう時期死ぬだろう。
そうすれば、すべての家督はお前に継がれる。
……誰も、誰も信じるな。弱みを見せるな。強く、気高くありなさい。」
「お父様……、私、私には……」
「……ノーザンバランド家の誇りを忘れるな。我らノーザンバランド家の名に恥じぬ人になりなさい。」
私が無理と言う前に捲し立てるようにお父様は続けた。視界が滲んでどうしようもないくらい涙が溢れる。私はまだ7歳だ。家を継ぐなんて重すぎる。
無理だ。と、言葉にしたかった。私には出来ないと叫びたかった。
でも、目の前で弱々しく息をするお父様にそんな事を言えるほど私は強くも傲慢でもない。
「………わかったよ。私、頑張るから。お父様の分も全部全部頑張るから。」
ゆっくりとお父様は目を瞑り、それから動くことはなかった。
溢れる涙を拭ってくれる父はもういない。私の人生はこの日、急激に変化する。
嫌な夢を見た。私が夢見る少女からノーザンバランド家当主、セス・ノーザンバランド伯爵となったあの日の夢。
女という性を捨て、男として家を継いだあの日のこと。
11歳になった今でもあの手の感触は忘れられない。私は父の望む当主としての過ごせているだろうか。
「おはようございます、旦那様。お食事の準備が整いました。」
「あぁ、今行こう。
この前購入した紅茶があっただろう、あれを淹れてくれ。」
「畏まりました。」
屋敷しもべのシャルロッテはそういうと大きな目を伏せ一礼し、部屋を後にする。用意されているシワのないシャツに袖を通し、身なりを整えた。私のクローゼットにはもうあの頃のようにワンピースやスカート、ドレスは1つもない。高級なことには変わりがないが燕尾服が並べられていた。
もう慣れてしまったそれを身に纏い、短く切り揃えられた髪を整えて私は部屋を後にした。