その名も






やがて警察と連絡回路が繋がったらしく、
強盗のリーダーとおぼしき人物が何やら電話で話し始めた。


「だから!!金だっつってんだろ!!今すぐ一億用意
できりゃあ人質は解放してやるって言ってんだよ!!
出来ねえなら一人ずつ殺してやるからな!!」



一億なんて、到底無理だろう。

機動隊と思われる人々が店の外で待機しているのが見えた。



携帯は没収されてしまったし、皆手を縛られて動けない。
警察も突入しかねているようだった。


「お前!来い!!」


急に肩を引かれてよろける。

しかし米神に銃をつきつけられれば、
殺される第一候補に挙がってしまったことは
嫌でも分かった。


ヒィ、と情けない声が漏れる。

コナン少年を見れば、焦った様子で何やらやっていた。
いや、焦っているのは皆同じか。





三日月はやはり据わった目で、殺気を放っていた。





あんな三日月、見たことがない。




その殺気は私に向けられているものでは無いのに、
ゾクリとして肩が震えた。



その時、三日月が問う声が聞こえた。


「千紗、少しだけ、動けるか?」


私にしか聞こえていないその声に、
強盗犯に気付かれないくらい小さくだが
首を縦に動かした。


「よし、ならば合図を出すから、
その時に相手と少しでも距離を空けてくれ」


その優しく言い聞かせるような声に、少し落ち着く。
そして真っ直ぐ、三日月を見返した。




うむ、と呟いて、強盗犯の隙を狙う。
犯人全員が違う方向を向いたとき、三日月の声が響いた。



「今だ!!!」



その声と共に、私は犯人の金的を蹴り上げた。


「ぐっ……」


犯人は蹲ったがすぐに銃を構える。

私は撃たれる、と身構えたが衝撃は来ず、
ふわりと抱き締められたかと思うとガシャンッと音がした。



見れば、リーダーの銃が真っ二つに斬れていた。


異変に気付いた仲間がこちらに銃を向けるが、
彼らの銃も真っ二つだった。


彼らが放心している間に警察が突入して、
私たちは無事に誰も殺される事なく助かった。







緊張が解けたからか気が抜けていて、
例の少年からの探るような視線には気付けなかった。



- 17 -

*前次#


ページ: