来ちゃうなんて







「増えた」



帰宅直後の第一声がこれだった。


それを聞いた父と兄は狂喜乱舞()し、母はあらまあ、と一言
言っただけですぐに別の話題へと移ったので、
相変わらず我が家は超絶マイペースです。




夕飯も食べ終えて部屋へ戻り、入浴の準備をしていると声を掛けられた。

相手?言わずもがな、鶴丸です。



「千紗、どこへ行くんだ?」

「え、お風呂ですけど」

「ふーん、そうか」



……え、何だろうこの会話。

そこまで思って、ハッとした。


まさか、着いてくるってんじゃないだろうな、この鶴じい。


そう考えてじろりと見れば、本人は慌てた様子もなく、
ただただ不思議そうに私を見返した。


「何をそんなに警戒しているんだ?
……あっ、まさか、俺が君の湯浴みまで着いて行くかもしれない
とか考えているだろう!?」

「違うの?」

「違うに決まっている!着いて行くわけ無いだろう!
そんな無粋な真似はしないぞ、誓ってもいい」



真面目な顔で必死に訴えてくる鶴丸は嘘を言っているとは
思えないので、とりあえず信じてみる。

……あれ?三日月のじじいは着いて来かけたけど……


そう言えば、三日月は若干だが人の常識に乏しいから、との事。

じじい、あなたがリビングへテレビを盗み見に行ってる間に
この鶴じいなかなか言うこと言ったぞ。


まあとにかく鶴丸に行ってきます、と行ってお風呂へ向かう。
今日は鶴丸がついて来たり鶴丸がついて来たりして大変だったから
早くお湯に浸かってリラックスしよう。







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お風呂から帰って来ると、そこは戦場だった。


と言うのは言い過ぎだけど、
聞けばどっちがどこで寝るかで揉めているらしい。



いやどっちでもええわ。



なるほど、じじいはふかふかのベッドから退きたくないらしい
(今まで普通に二人とも同じベッドで寝ていた)

しかし鶴丸も来たからにはふかふかのところで寝たい、と。



そもそも神様なんだから寝る必要あるの?とは
当初三日月のじじいに聞いた質問だが、その答えは是だった。


曰く、霊体でも疲れるものは疲れるらしい。
しかも一応人の形をしているから、とのこと。


じゃあ空腹やなんかはどうなんだ、とも聞いたけれど、
物理的な食事はしないぞ、と言われた。


へえ、とその時はそれで終わったが、それがここで問題になるとは。




そうなんだよね、問題なんだよ。


普通なら霊体だし今だって霊体である事に変わりはないんだけど
私の場合は触れることができてしまうからつまり、
隣にいると普通にその質量分のスペースを取られるんだよね。



何が言いたいって、安眠妨害だけは止めてって事なんだけど。






私は宿題をやって30分も待ってみたけど、
二人とも皮肉嫌味合戦から帰って来ないので声を掛けた。



「ねえ、それならもう3人で寝るで良くない?」



私だってベッドを譲る気は無いし。


そう言えば、鶴丸は嬉しそうに良いのか?とルンルンし出すし
じじいはえっ、と目を見開いて、仕方ない、と溜め息をついた。



そんなこんなで寝床争奪戦は幕を下ろし、
ベッドには奥から鶴丸、私、じじいの並びで寝ることになった。

鶴丸が奥の理由は、ただただ落ちたら大変だから。
(鶴丸はなんだか寝相が悪そうだと思った)



ああ、これ夏じゃなくて本当に良かった助かった。



そんなことを思いながら、私はいつも通りに横(じじいの方。
この体勢が昔から一番しっくりくるのだから仕方ない)に体を向けて
寝る体勢になり、おやすみ、と二人に言った。





すると、前からにゅうっと手が伸びて来て、
なんだ、と思う前にじじいに抱き締められていた。


ぎゅぅぅう、と効果音が聞こえるくらいの力で締められ、
思わず腕をタップしたのは仕方がないと思う。



そうしてじじいの力と格闘していると、
後ろから腰に回ってきた白い細腕に気が付いた。


この腕は、っていうか一人しかいないけど鶴丸か。



腰を後ろに固められ、上半身を前に固められて
ちょっと変な体勢になる。あの、ちょっと、苦しいです。


しばらくどうにかできないかと格闘していたけれど、
だんだんと瞼が下がってくる。



くあ、と欠伸をひとつして今度こそおやすみと言えば、
おやすみ、とどちらからともなく返ってきた。










(鶴丸も増えたというのに、なんと無防備な……
これだから、千紗、お前は心配になるのだ)

(三日月は過保護だな……まあ、解らなくもないが。
兎に角、明日から新しい驚きが楽しみだな!)






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