通学路でも






6時頃になって日も傾き、私たちは喫茶店を後にした。



途中までは園子と一緒だったけど、
先ほどメールで母に洗剤買ってきてと
言われたので私はスーパーの2階へ向かった。





母のお気に入りの洗剤を見つけた。

でも、ギリギリ手が届かない。



くっそ、なんであんなに高いところに置いたんだ!



ぐぬぬ、とつま先立ちで手を伸ばして、
ギリギリちょっと手が触れるくらい。




いける!と思った時には遅し。


洗剤を上手く掴めずよろけて、転ぶ上に洗剤がぶつかる
という事態を予測して思わず目をぎゅっと瞑った。








が、いつまで経っても衝撃が来ない。



なんだ?と目を開けば、知らない男の人が私を支えて
さらに洗剤を上手くキャッチしてくれていた様だった。




「大丈夫ですか?」




細い目に茶髪、眼鏡のその人に声をかけられて、
ハッとした私は頭を下げた。




「あっ、ありがとうございます!」

「いえ……あまり無理をしては危険ですよ」

「うぐッ……そ、そうですね、すみません……」




そう言って洗剤を受け取り、
思わずしょぼんとしてレジへ向かう。





三日月や鶴丸は触れるものと触れないものがあるらしく、
彼らの作られた時代にあったものには触れるものの、
無かったものには触れないらしい。


だから例えば、本には触れるけどテレビには触れない。

陶器には触れるけど、ガラスには触れない。


私たちが出会った博物館ではガラスケースに
座っているように見えたが、実は浮いていただけ
らしい。なんだそれすごい。


だからとにかく、今の洗剤も慌てて見ているしか無かったのだ。

それでせめて私をと思ったらしいが、
なるほど、あの男の人が素早かったらしい。





ふ、と笑うように息を洩らす声が聞こえてそちらを見上げると、
先ほどの男の人が私の頭に手を伸ばしてくしゃくしゃと撫でた。


なぜだ、解せぬ。



そう思ったが、あまりそんなに落ち込まないでくださいと
言われて私がしょんぼりしてたからか、と思い付く。


慰めてくれたらしいその人にもう一度お礼を言って、
私は会計をすると家へと向かった。





(あの男も何か隠しているな。なぁ三日月)
(そうだなぁ……だが、千紗に関わらなければよい。
あの男とはもう関わることも無いであろうよ)





そんな会話も知らないし、そんな三日月の考えが
割りとすぐに砕かれるなんて私はもっと知らない。





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