無敵の夜に

「サボってないって正直に言えばいいのに」
 勢いよく後ろを振り返れば、拗ねたような表情をした我らが園長ちゃんが佇んでいた。
「こんばんは、園長ちゃん」
「こんばんは。今日もですか」
 整備の邪魔にならないように、視界の一歩後方に園長ちゃんがしゃがむ。会話する意思がある一方で作業に集中させてくれる気遣いが見えるから、本当こういうところが狡いよなぁと苦笑する。
「言ってもめんどくさいから」
 こうやって黙ってやるより小言は少なくなるだろうが、その時その瞬間に小言をもらうこと自体嫌なのでこの先も言わないだろう。
「ちゃんと言えばわかってくれると思います」
「じゃあ園長ちゃん。俺と一緒に啓二に怒られてくれない?」
「え」
 ちょっと無茶ぶりだったかなと肩をすくめる。
「なんてね。言ってみただけだよ」
「夏月! いつもいつも貴方は!」
「おっ、噂をすれば何とやらだね」
 タイミングが良すぎるガミガミ眼鏡の登場を尻目にいまだ座り込む園長ちゃんをちらりと窺う。彼女のことだから戻ったほうがいいですよとか言うんだろうなと、逃走経路を頭に浮かべながら膝に手を当てた。
「夏月さん、逃げますよ!」
 だから予想外のことに俺は勿論、追いかけてきた啓二も唖然としてしまった。まさか彼女自らが手を引っ張って脱兎のごとく走り出すなんて誰が予想できただろうか。
「ふはっ!」
「笑ってる場合ですか!」
 必死に抑えていた笑いがとうとう漏れる。
 こちらの想像を超えて、それでいて優しさを持ち合わせた彼女に絆されない男がいるのならお目にかかりたい。どれだけこちらを夢中にすれば気が済むのだろう。
「園長ちゃんこっち!」
 握る手を強めて、夜の遊園地を一気に駆け抜ける。
 園長ちゃんといれば無敵になれる気がした。


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