毒を喰らわば地獄まで

「まあ、もういいか」

 腕を取られて立ち上がらされた。床に降りていたラムズと目が合う。

「可哀想に。髪に埃が付いてる」

 彼が自分の髪に手を伸ばす。体が強ばって全身に鳥肌が立ったが、抵抗するわけにもいかない。口を噤んだまま、されるがまま彼を待った。
 何度か髪に指を滑らせただけで終わり、無意識に息が零れる。

「でも、上手にできたとは言えねえよな」
「それは……え、と……」

 頬をなぞっていくラムズの指の腹は、どこか虫が這っているような感覚がした。

「努力は買ってあげる。だが三回するって言ったのは俺だし……念には念を入れないと」

 彼は聖堂の遠い扉のほうへ目を細める。

「っえ、どうして……!? 嫌よ。頑張ったのに、なんのためにやったのか──」

 ラピスフィーネの顔を覗きこむように目を合わせる。

「俺のためにやったの。俺を楽しませるために。違う?」
「ちがッ……本当に私はやめてほしくて」

 ラムズは彼女を祭壇のほうへ押しやると、破れたスカートをどかしショーツを鋭い爪で切った。自分の腰に巻いた服を少しずらすと、布の隙間から黒々とそそり立つそれを覗かせる。

「やめ、やめて! ねぇ! お願いしたでしょ!?」

 ラムズは曇りない笑みで答えた。

「お願いはしたが、俺は受け入れなかった。ただそれだけ。わかる?」
「や、いやだ! 酷い! っツ、ねえ!」

 ラピスフィーネの腰を掴み祭壇に座らせると、片足を無理に開き男根を押し付けた。入口に硬い陰茎が割り入ろうとして、裂けるような痛みが走った。

「った、たい、痛い。痛い痛い。やめて、入らない!」
「たしかにこのままじゃ入らねえな」

 ラムズは軽く笑って答えると、少し腰を離した。彼女がほっと息をつく間もなく、今度は秘部に細い指のようなものが刺さった感覚がした。

「いッ?! た、やめ。なに、なに入れたの。痛い……」
「濡らすの面倒だから。細けりゃ入んだろ」
「は、は?」

 細くとも、乾いた腟内を異物が擦るのは痛い。むしろ、細いせいで内部を突き刺しているような痛みが走る。

「やめて、やだっ。……変なもの、入れないで!」

 彼女は体をよじって抵抗する。

「変なものって、陰茎だけど」
「こ、こんな細いの。なわけ……ないでしょ!」

 入口を破った細い異物は力任せに奥まで侵入してくる。内臓を掻き抉るような痛みが突き刺さる。

「った、痛い。ぁあ。ぁああぁあい、痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い!」
「るせえなあ」

 ラムズが手を振ると、どこからともなく茨が彼女の上半身を伝い口元を覆った。頬や唇に棘が刺さる。ふつうの猿轡よりずっと酷い。

「ん、んんんんッ! っらぁ、ぁ、あああぁああ」

 からからの膣を細い棒が力づくで二回三回と抉り刺し入る。皮膚と皮膚が擦れて、火が出るように下半身がきりきりと疼いた。

「形は変えられるんだって。心配しなくてもちゃんと大きくしてあげるから。今だけ、な」

 背中に腕が回り体を引き寄せられる。抱きしめると同時に、ぐぃんと奥を刺された。

「った、あい! いあい! いあい……あ……」

 あまりの激痛に涙がとめどなく流れていく。
 こんなの情交でもなんでもない。痛いだけだ。
 入っているのも彼のものだとは思えない。長く細い指……それより酷い。一瞬捉えただけだが、下半身と同じく不自然にごつごつとイボができていたような、そんな物体だったはずだ。

 腕ごと上半身を固定され、ラムズが何度か腰を打ち付けた。そのたびに腟内の壁が剥かれ爛れてしまいそうになる。さっきより太くなったそれは、内臓を引っかき剥がすように出し入れを繰り返した。

「いぁッッ! いぁい! おえあい……! いあい……」

 あまりの大きな叫び声に、ラムズは酷く鬱陶しそうな顔で彼女を見た。入れたときと同じように乱暴に引き抜く。口を覆っていた茨も外してくれている。
 ラピスフィーネがおそるおそる下を見ると、陰部の周りが赤黒く染まっていた。
 血だ。
 初めてしたときだって、こんなに痛くなかったのに。見たことのないくらいの血の量に意識を飛ばしそうになり、慌てて目を背ける。
 訴えるようにラムズを見ると、彼は蔑むように笑った。

「これくらい、自然治癒で治んだろ」

 ラムズは彼女の手をむずと掴んだ。

「っつ?! なに?!」
「うるせえって。いちいち口答えすんな」

 彼女の手のひらを表に向けると、その上でラムズが口を開けた。長い舌が伸び、唾液を零していく。ふつうの唾液より粘着質なものがだらだらと流れていった。指の隙間から零れるくらい唾液を出したあと、それを自分のものと、ラピスフィーネの秘部へ押し付けた。

「な、なに……これ……」

 ラムズはそれには答えず、再び彼女の中へ太い肉棒をずぷりと押し入れた。

「っツ、んんっ……」

 先程ラムズが口から出したのは、潤滑剤のような働きをしているらしい。蜜壷からねっとりと熱い淫水が流れていくのがわかる。
 ぐちゃ、ぐちゃ、となだらかなストロークで腹の裏をなぞっていく。快感を植え付けるように繰り返し突き上げられ、嫌でも体の奥がきゅんと疼きはじめた。熱を帯びた体が脈打ち、つま先がぴくぴくと震える。傷ついた膣内は今もまだひりついているが、見知った快感に痛みが和らいでいく。

「は、はぁ……」

 ぱん、ぱんと皮膚の重なり合う音が聞こえる。聖堂で音が幾重にも響きわたり、ラピスフィーネは今更羞恥心で死にそうになった。

「っは、ぁん……、はァ、んっ……」

 ずぷずぷとナカを広げるように男根が埋まり、体に形を刻まれるまで犯される。ついさっきまで酷い扱いを受けていたはずなのに、何度も突かれるたびに濃厚な肉欲の波が心を揺らしはじめた。
 悪魔の翼、角を付けていてもラムズはラムズだ。せめてもの救い、顔や体つきは自分の知っているものだ。
 均整に整った白く端正な顔立ちは本当にかっこよかったし、幼いころから見ている彼が好きだった。初めて体を許してからも、何度かラムズにもう一度抱かれることを夢見ていた。
 でももうかっこいいだなんて思いたくなかったし、気持ちいいだなんて認めたくなかった。

「あ、んッ……は、はぁ……」

 そんな自分の気持ちを知ってか知らずか、とろとろに溶けた蜜壷に歪な陰茎がいっそう激しく抜き差しされる。ぴちゃぴちゃといやらしい音がする。膣を擦るたびに鋭利な痛みが走るが、もはやそれさえも悦楽な刺激となって体の奥へ沈んでいく。

「あ……やッ……ら、ラムズ……」

 彼女は力なく腕をのばす。全身が麻酔を打たれたように倒錯し、甘ったるい肉感に夢見心地だ。ラムズに抱きしめてほしい、そう思って体を預けようとした。

「さっきまであんなに騒いでたくせに、入れた途端これかよ」

 吐き捨てるように言う。

「ほんと、なんのために“お願い”したの?」

 ラムズはそう嗤った。
 冷ややかな声で意識が戻った。抱きしめてほしいだなんて馬鹿だ、なにを考えていたんだろう。ラピスフィーネはわざと爪を立ててラムズの腕を掴んだ。
 急にストロークが遅くなり、焦らすように腟内をなぞっていった。ナカを熱い凹凸が擦り、濃密な快楽が染みこんでいく。

「や、っ、や、ぁ……」

 ラピスフィーネは思わず手を口を抑えた。ラムズはそれを見て嗤い、腰をぐい引き寄せた。一気に奥まで太いそれが貫かれる。

「あッ! あ、ぁあ……ん、ん……」
「気持ちいいか?」
「き、きもちく……」

 ヒダをかき分けるように肉棒が体を圧迫する。初めより大きくなった気がする。貪るようにぐりぐりと中へ入り込み、子宮をずん、ずん、と重く突かれた。

「な、ない……。気持ちく、……ハァ、ない」

 汗か涙かわからないものが額から頬へ流れていく。腰や胸元が汗で濡れているのがわかった。
 座ってただ快楽によがるだけのラピスフィーネがこれほどだらしなく乱れているのに、その甘い官能を植えつけている当のラムズはまったく美しいままだった。気怠そうに冷えた眼差しを送るだけで、一滴の汗すら流れていない。

「あ、ぁ、あぁッ……や、や……」

 手で抑えた口から甘い嬌声が漏れてしまう。出したいわけじゃないのに、我慢しているのに。痛かったはずなのに。法悦な熱に浮かされ、蕩けて現実との境界が見えなくなっていく。

「んあッ! や、やぁ……! ぁあぁ、あ……」
「どこが『気持ちくない』だよ」

 すうと抜かれたと思うと、淫猥な音を立てて欲棒に深く犯される。熱い甘露に脳がくらくらして、酷い恍惚に体が支配されていく。体に重たい快感が穿たれるたびに全身が痙攣したようになって、知らず知らずにラピスフィーネも腰を動かしていた。

「は、っはぁ……。気持ち、い……」

 惚けた頭の中で、どう喘いでいるのかもうわからなくなった。リジェガルに抱かれているときはこんなに気持ちよかったっけ。手放しそうになる意識のなかで朦朧とそんなことを考えた。彼の冷たい手が腰に回り、ぐっと近づけられた。

「んッ?! んんッ……!」

 すぐそこまで白い絶頂が迫っていることに気付いた。彼の体にしがみつくように腕を回した。気持ちいい。気持ちいい。なにも考えられない。ほしい、もっと気持ちいいのがほしい。甘い麻薬漬けになった体が、痺れるほどの悦楽に蹂躙されていく。
 ぞくぞくと何かが這い上がってくる。内臓ごと突き上げる快感に身を任せ、達しようと中をきゅうと締めつける。だが、そこでふいにストロークがやんだ。

「俺、お前にご褒美をやりたいわけじゃねえんだが」

 氷のような声色が耳を攫う。ラムズはすっと肉棒を引き出した。血と混じったピンク色の愛液が糸を引いている。飢餓感のような酷い欲求に襲われ、もどかしくはがゆい空虚が奥に取り残された。

「や、やだ……」
「なにが」
「ねが、おねがい……。足りな、足りないの……」

 ラピスフィーネは彼の肩に手を当て、縋るように目を潤ませた。

「リジェガルとよろしくやってんだろ? あとはあいつに頼めよ」
「や、……いや……」ラピスフィーネはふるふると首を振る。「らむ、ラムズがいい……」

 ラムズは軽く鼻で笑い、冷ややかに返した。

「言ったよな? 俺は気持ちくも楽しくもねえって。なんでお前のためにやんなきゃいけねえわけ?」
「おねがい、お願い……。あそこで終わりなんて、やだ。やだ」
「さっきまで抱くなっつったのはどこのどいつだよ。本当に嘆かわしいな」

 既にラムズは自分の一物を魔法で洗い、服の下に戻してしまっている。ラピスフィーネは転げるように祭壇から降りると、彼の体に縋りついた。

「お、お願い、するからッ……。いかないで、ね、ねぇ……」
「見ててやるよ」

 腰に右手を当てて、片足に重心をかけて立ち直してくれる。ラピスフィーネはラムズから手を離すと、そのまま床に倒れるように座りこんだ。

「だ、抱いてください……。最後まで、してください、お願い、お願いします……」

 視界にラムズの人外じみた足が見える。それさえもぞくぞくして、きゅんと心臓を締めつけた。もっとほしい、彼がほしい。あの快感がほしい。我慢できない、堪えられない。
 こんなことしている場合じゃない。そう咎める声がどこからか聞こえた気がしたが、脳の多くは先程までの快楽に支配されてしまっていた。

「お願い、です……。ラムズさま、ラムズ、さま……。抱いてください……。抱いて、ください……」

 迷いなく彼女は床に額を擦りつけた。何度も何度も同じ言葉を投げ続ける。

「お願い、お願い……、抱いて……抱いてください……」
「やりすぎたかな、二回で堕ちるなんて」

 軽い調子でそう独りごちた声が聞こえる。

「おね、おねがい……。します……」
「自分で哀れだと思わねえのか?」

 ラピスフィーネは泣きながら答えた。

「だ、だって……。どうしたらいいか、気持ちくて……。私だってこんなこと……したく、ないのに」
「はいはい、わかったよ。あと少しね」

 ラムズが彼女の片腕を持ち上げると、引きずられるようにラピスフィーネは腰を上げた。
 もう一度祭壇に座らされる。股が強引に開かれ、一切の躊躇いなく体を貫かれた。

「あ、ぁぁあぁああぁあ?!」

 呼吸ができなくなるくらい、荒々しく出し入れされる。きゅうきゅうと中を締めつけ、甘美な情欲が駆け巡っていく。さっきよりも気持ちいい、全身の力が入らない。脳が涎を落としてどろどろに溶けてしまいそうだ。溺れるような甘い痺れが腰から足のつま先にまで奔る。

「イっていいよ」

 その声を聞いた直後、膣の奥を肉棒が大きく擦り、真っ白の極みに包まれた。びくびくと体が痙攣し、昇天するような快感が押し寄せる。

「んんッ! ん、ァぁああぁ!」

 ラムズのモノが抜かれる。いつの間にか背に回していた腕をラピスフィーネは外した。

「は、ッ、はぁ、……ハァ」

 何度か息を整える。
 ぼうっとした視界で彼の陰茎を捉えた。射精したような形跡はない。前にするもしないも自在だと言われたことをおぼろに思い出した。

「あ、ッあ、りがとう……ござい、ます」
「いいえ」

 彼女は大きく体勢を崩し、祭壇から倒れ落ちそうになった。

「ッは、はぁ……。ハァ……」

 全身の皮膚という皮膚の奥にまで、まだ絶頂の感覚が残っている。

「見つかったら面倒だから、運んであげる」

 ラムズは彼女を横抱きにすると、ひたひたと聖堂の椅子のあいだを歩いていった。隠し扉から宮殿へ入ると、カモフラージュ魔法をかけ彼女の部屋まで運んでいく。

 扉の前に立ち、ぐっと目を細めて鍵穴に意識を凝らした。ややもすればがちゃりと音を立てて扉がひとりでに開く。足で大きく開けると、ぱっと腕を離し彼女の体を床へ落とした。
 背中を大きく打ち付け、半分夢を見ていたラピスフィーネが目を瞬く。

「ら、ラムズ……」
「じゃあな」

 彼女がもう一度口を開く前に、ラムズは部屋から出ていった。