二巻あらすじ


 ハローハロー。俺の名前はラムズ・シャーク。俺たちの世界を愛する読者様へ、その愛を称え、ちっとばかし手を貸しに来た。
 むかしむかし、あるところ……間違えた。これは御伽噺の書き出しだ。なに、それでもかまわないって? そりゃあそうか。遠いどこか、見も知らぬ世界の歴史なんぞ御伽噺と大差ない。
 さて、あれは何年前の話だったか。俺が海賊をやっていたころのこと、おかしな波がガーネット号を襲うと疑心を抱いたのが始まりだったか。お相手側の船には、なんと人魚の尾を剥奪された可哀想なメアリが乗っていた。
『メアリ、俺たちの船に乗らないか?』
 そんな口ぶりでシャーク海賊団に誘い、まんまと彼女は運命に乗せられてしまった。どの神にとっても俺たちが会うことは必須事項だったんだろう。つかの間の友好を交わす神が目に浮かぶ。
 ともあれ、これが愛を巡る冒険のはじまりはじまり―。
 俺は『海賊の王子様』と呼ばれ、宝石のために命を惜しまない船長だと揶揄されている。だが、ガーネット号が有名なのはそんな狂った船長のせいだけじゃない。ルテミス、そう名付けられた化系殊人のおかげだ。彼らは赤髪赤目、強靭な肉体と運動能力という神力を神に依授されて、戦闘を好むような性格に変わってしまった。
 矮小な人間どもからすりゃあ最恐のシャーク海賊団も、悲しいかな、最強ってわけじゃない。だから俺たちはさまざまな危機に見舞われた。
 クラーケンとの戦いでは、思惑どおりメアリの人魚の力《操波》が役に立った。それでも危うかったが、幸か不幸か、彼女は歌で他者を操る神力まで持っていやがった。神もやってくれる、人魚の神力持ちとは、そうそうお目にかかれない代物だ。
 そのあとガーネット号は、かつてパーンの島と呼ばれていた無人島に立ちよった。船員は何人か犠牲になり、俺たちもあと少しで島ごと消えるところだった。だがその甲斐あって、石板に書かれていた言葉を手に入れる。
『滴り落ちた雫の輪 
 肆龍 壱精 弍極 壱中
 薄板の畳船 零使』
 はて、これはいったいいつどの神が寄越したものだろう。此度の愛憎劇を巡ってか、はたまたなんの気なしに記したものをたまたま俺たちが見つけてしまったのか―。
 メアリが人魚であることは、トルティガーに着く前に暴かれてしまう。件の神力を使ったり、波を操ってロミューを助けたりしていたせいだろう。優れた力は大いなる犠牲の上に立つ。彼女だけじゃない、俺も含め、なにもかもがそうだ。
 俺はメアリの鱗を剥がそうとする気違いの愚図の戯け者を殺したあと、彼女から甚く麗しい鱗を見せてもらった。えも言われぬ美しさ、あれを愛玩するのは至福の時だ。そのうえ俺のために鱗を一枚贈ってくれたのだから、この恩に報いない話はない。もとより手放す気はなかったが、改めて彼女のために生きてやると約束を交わした。
 だが護符代わりの魔石を渡した直後、扉の罠にかかってメアリは気を失ってしまった。本気で死ぬかと思った。メアリもだが、ほかならぬ俺自身が。ロミューたちがいなければ、おそらくあの場で数年は悲観していただろう。彼らを仲間に引き入れた過去の俺に拍手を送るよ。
 ジウやロミューが獣人たちを先導し、かくして彼女を治すため、ガーネット号は海賊島へ舵を切ったのであった。

 それでは長い前置きもほどほどに、この物語の主役≠ナない俺はこの辺でお暇させていただこう。まだわからないこと、気になることがあっても用心する必要はない。だってこれはすべて物語で、御伽噺で、お前の夢なのだから。な、そういう約束だったろう?