いつだって彼は神様だった

「フィーネ、知ってるか? ヤるって、キスだけじゃねえんだぜ?」

 ラムズは妖しい微笑を|纏《まと》わせながら、乱れた彼女の髪を触った。
 ──そんなの知っている。ちゃんとお母様からこれからすることを習っている。だけど……でも、本当にキスってこんなものなのだろうか? 今もうこんなにどきどきしているのに、実際の行為ができるんだろうか。

 ラピスフィーネは熱を帯びた荒い息を|堪《こら》えながら、ラムズの腕を弱々しく掴んだ。

「ラムズ……私……。やっぱり……」
「やめるはなし。あの宝石見てお預けって、そりゃねえだろ」

 彼はまたラピスフィーネに覆い被さると、冷えたキスを繰り返した。それほど激しいキスだとは思わない。だってその証拠に、ラムズは全く息が荒れていないし、唾液が口から零れているわけでもないのだから。
 でも、粘り気のある舌が口内を蹂躙し、至る所を這うたびにラピスフィーネの唇から湿っぽい吐息が漏れた。
 絡まった舌がぬると上顎をつつき、粘膜を探るように吸い取っていく。頭を動かして逃れようとしても、しかと顎を掴まれさらに激しく求められた。角度を変えて唇が重なり、|惚《ほう》けた甘い交わりに意識が麻酔を打たれたように沈んでいく。

「っは、ハァ……ま、待って……」

 顔を上げたラムズを見ると、その薄い唇がラピスフィーネの唾液でてらてら光っている。見ていられなくなって、目を伏せながら必死に懇願した。

「私、初めて、だから、……もう少し……」
「優しく?」
「……そ、そう……こんなの、知らなくてよ……ど、どうしていいか……」
「十分優しくしてやってるけど。入れて終わりにしたっていいんだぜ?」

 吐息と一緒に涙まで零れそうになる。彼女は掴んでいた手を強くして、また言った。

「だ、だけど……」
「大丈夫だって。そんな下手じゃねえから」

 ラムズはラピスフィーネの首筋に顔を埋めると、温度のない舌でつうっと舐め上げた。ぞわりと体がわななく。耳元でラムズの囁き声が漏れた。

「血吸って、飲んで、そのあと食べていい?」
「……へ? は?」
「いいよな。俺のこと好きなんだから」

 ラピスフィーネが答える前に、ラムズの鋭い牙が彼女の首筋を割いた。痛みに体が硬直したが、ラムズの色声が耳をくすぐるように響いた。

「痛くない、痛くない。魔法かけてあげるから。何しても痛くないように。痛くても気持ちいいように。──お前はお姫様だからな」

 喉の奥で笑っている。低い掠れ声に脳内が犯され、心臓ごと揺さぶられる。

 そのあと彼は、喉を鳴らして血を飲み始めた。どくんどくんと心臓が打ち付け、血が流れているのを感じた。
 血を吸われるたびに鋭い痛みが込み上げた。でも、彼が傷の周りをちろちろ舐めて、鋭利な辛苦のすぐあとに、|蕩《とろ》けるような甘い享楽が襲う。気持ちがいいのか痛いのか分からなくなってくる。彼の牙が柔らかく肉に食いこみ、痛みで心がぎゅうと絞められる。唇が|耳朶《みみたぶ》を|食《は》み、水気を伴って舌がゆっくりと|這《は》う。

「っね、ねえ……なにして……」
「……美味しい」

 彼は吐息とともにそう耳打ちをしたあと、水音立てて耳を|弄《もてあそ》んだ。|凍《し》みた手爪を首筋に沿わせ、鎖骨部分でしなやかに手を広げると鋭い爪が首の肉に沈んでいった。

「ッは、はぁっ、ハァ」

 血管を押し込まれ、息が苦しい。肩にできた傷を|抉《えぐ》るように舐められ、ずきずきと焦がれるように傷んだ。撫ぜて這い回る舌が甘美な疼きを与え、血肉をほじくって愛撫される。

「っや、やあ、ラム、……ずっ……い、ぃたぁっ」

 首を絞めていた手が離れ、冷ややかな艶声が脳に落ちる。

「本当ならこんな優しくしねえよ」

 どきりと心臓を刺し抜く声に、ラピスフィーネは彼の服を掴んだ。焦点の合わない視界でラムズを捉える。ひりひりと焼け付くような、それでいて心が|竦《すく》み上がるほど無機質な眼差し。
 ラムズの掌が頬を滑らかに移ろえば、激しい動悸で体がばらばらになるような錯覚を覚えた。

 ラムズは体を起こすと、彼女を抱き上げた。服を脱がすつもりらしい。
 元々今日ラムズに抱いて欲しいと思っていたのだ。普段着ているドレスではなく、一応夜伽にも使えるものを選んでいた。
 胸元が少し露出された真っ白なドレスは、普通のドレスよりもボリュームが少なく、腰元の布が心もとない。あしらいを載せた深い青のリボンが腰に巻かれている。

「俺のために着てたんだ?」
「……気付いてた、の?」
「当たり前」

 彼は後ろに手を回し、ラピスフィーネを抱きしめた。するりと服のリボンを外し、指先が背中を撫で降りる。彼が魔力を伴って指を這わせたところから、つうと服が切れていく。腰まで指を伝わせたあと、肩から服を落とした。
 艶やかな藍の長髪が蝶の舞うように広がり、下着が見え隠れする。ラピスフィーネは今更恥ずかしくなって、胸元で手を組んだ。

「見ない……で……」
「俺はそれでもいいけど」

 ラムズはなんてことのないという顔でそう言うと、腰元に手を伸ばそうとした。

「や、やっぱり、ちゃんと、して……」
「ちゃんとってなんだよ」

 彼は笑いながら、彼女の髪の毛をよけると、コルセットを外した。体を持ち上げ腰を浮かせると、滑らかに全てのドレスが落ちていく。ラムズは痛ましげに脚を撫で上げ腰まで爪指を這わせ、ショーツの端を魔法で切ってしまった。

「……ラムズ、は?」
「俺も脱ぐのか」

 面倒くさい、そう言いたげな声が帰ってくるが、彼は言う通りに全て脱いでいく。
 ニュクス王国の騎士は、着飾る目的の|甲冑《かっちゅう》が多い。彼がそれらを外す度にかちゃりと金属音が鳴って、ラピスフィーネは心が|掬《すく》われる思いがした。

 上半身の服を脱ぎ終わって、ラピスフィーネは恐る恐る彼の肢体を覗き見た。
 傷一つない白い肌。顔と同じように、青白い大理石のような皮膚が張り付いている。鎖骨は浮き彫りになって、ほどよい肉付きの腕、胸板、脚。体力はないはずだが、くびれた腰に無駄な肉のない筋肉質な体だった。

 隣にラムズが座る。ラピスフィーネが思わず手を伸ばして肢体に触れると、ラムズの笑みの潜んだ声が耳を|攫《さら》った。

「かっこいい?」
「……ええ、まあ」
「そうしたからな」

 彼女の腰元を引き寄せ、手の甲へ愛おしげに口付けをした。色気のある視線がこちらを捉える。

「お姫様の体を見るのが、俺が最初でよかったのか?」
「……今更でしょう?」
「たしかに」

 ラムズはくくっと笑って、また唇を閉ざそうとした。ラピスフィーネは彼の胸元に手を当てて、上目遣いで彼を見やる。

「……だめ? 私のからだは……かわいく」
「かわいいよ。綺麗だな。人間の男が好みそうだ」

 ラムズの感想を聞いているのに。ラピスフィーネが俯いたのを見て、彼は彼女の顎に手を添わせた。

「意地悪な質問するな。自分にも俺にも」
「だって……」
「お姫様は何をお望み?」
「ラムズが、何を考えてるのかなって」

 彼はこくりと首を傾げたあと、彼女を抱きかかえて優しくベッドに横たえた。

「さっきも言った。おかしいと思ってるよ。面白いってな」
「……どういう意味?」
「誰もが望む体を、俺は対価をもらった上で弄ぶんだから。まあ、俺にはもったいないくらい、綺麗な体だと思うぜ」

 どこまで本当か、どこまで嘘か分からない。でももうラムズはお喋りをやめて、ラピスフィーネの白く細い首、しなやかな鎖骨を通って、柔らかい膨らみに手を添えていた。冷たい指骨に焦れったいほどゆるりゆるりと甘い刺激を与えられる。
 たまに|啄《ついば》むように先端を潰されると、腰がびくりと浮くように疼いた。頭から足の先まで痺れるような痛み、快感が襲う。

「まっ、まって……おねがい……」

 ラムズはラピスフィーネの口を塞ぎ、しっとりと甘い舌で彼女の口の裏を撫でていく。舌が這う度に喉の奥まで舐められているような気がして、息ができなくなる。掻くように口内を混ぜられ、歯茎が順に撫でられる。彼女がラムズの腕を掴むと、もう片方の手が太腿をひやりと伝った。
 ぞくぞくとと全身に鳥肌がまわったあと、すぐに蜜壷の中を指の腹がくすぐった。既に濡れていた割れ目をやわやわとなぞられ、ひくついた愛粒を柔らかく押される。

「んっ、や、やぁっ……」

 一瞬離されたと思うとまた押し込まれ、ぬるりと指先が中に埋もれる。溢れていく愛水も吐息も恥ずかしい。指がつうと割れ目を這い、びくんと体が小さく揺れた。

「イキたい?」
「ッハ、ハァ。わか、わから、ないッ……。こわい、わ……」

 指は冷たいはずなのに、体はどんどん熱を持って行く気がした。艶めいた銀糸が太ももから流れ、ラムズはそれを指で掬う。不自然に赤い舌でそれを舐め取ると、|蠱惑《こわく》的な低音が|嗤《わら》って言う。

「愛してあげるから、安心して」

 濡れた指先がくにくにと粒を弄る。蜜を掬うように愛粒に撫で付けたあと、上下に優しく擦られる。蜜の中に指を沈ませると、中で折って掻くように動かした。こりこりと刺激され、そのたびに熟れた嬌声が上がる。時折指を抜くと、潤んだ粒を摘み、揺らし、愛液をこね回した。
 ぷっくりと膨らみ始めた粒を弾くように触られ、疼痛と快楽が迫ってくる。同じ場所を何度もくねられ、もう少しと思ったところで指先が蜜壷の中へ入り込んでしまう。くちゅくちゅと音が立ち始めて、恥ずかしくて足を閉じてしまいそうになる。

「ゃ、やだっ……あ、」

 だがもう片方の腕ががっちり彼女の脚を押さえ、彼の指先から感じる快感に捕らわれてしまった。絡まった愛液が何度も割れ目をなぞり、震えるように粒が疼いた。ぬる、ぬると生き物がくすぐるように動いている。

「んんっ、や、やぁ……。だ、だめっ……」

 そのとききゅうと割れ目を抑えられ、愛粒がひくついた。腰をくねらせて甘苦から逃れようとしたが、薄氷を秘めた息遣いが心臓を掴んだ。

「行くなって」

 愛液の絡みついた指が奥をそっと掻き撫で、電流の走ったような白が瞬いた。

「ん、ん?! や、やあっ……、ゃ……! あぁあ……!」

 彼女は必死に彼の腕に縋り付き、胸に顔を寄せた。潤んだ瞳がラムズを見上げる。

「なっ、なにした……の……?」
「イカせただけ。気持ちかった?」
「わ、分かんないっ……」

 彼女にそっと腕を回すと、指爪で髪の毛を撫で付ける。

「大丈夫? まだあるのに」
「す、する……」
「そりゃお利口さん」

 横で彼女の体を抱いていたラムズは、起き上がって彼女の脚を開いた。あられもない姿にさらに恥ずかしくなり、彼女はそばの布団で目を覆う。

「初めてでも、痛くないようにするから」
「ま、魔法、かけるのっ……?」
「ああ」

 ラピスフィーネは僅かに布団から顔を出すと、ラムズの脚に触れた。

「い、いい……っ。痛くて……」
「なんで? 痛い方がいいの?」
「……だって、それが初めてって、お母様が……」

 ラムズは軽い笑みを落とし、「わかったよ」と口にした。宝石で飾ったベルトを外している。それを手に取って机に置くまで、別人かと思うほど優しく美しい表情をしていた。本当の意味であの笑みを向けてもらえたら──虚しい願いにラピスフィーネは心の中で首を振った。
 ズボンを脱ぎ終わり、ラムズが自分の脚を押し広げていく。布団の隙間から覗けば、彼の体にも男のソレがついているのが見えた。赤黒い脈が猛々しく竿を這う様子は、冷たく白いラムズの肢体とはどこか不釣り合いに思える。

「まってっ」
「なに?」
「あの、その……私も、えっと……」

 母親に教わったことを思い出したのだ。初夜であればこそ、自分も相手に尽くすことが必要なのだと。
 たしか男の人の持っているソレを──ラピスフィーネは母親が言っていたことを思い出し、ごくりと唾を飲んだ。

「やんなくていいよ、いらねえから」
「だ、だけど……」
「したいの?」
「そうではなくて、だって、それがそういうものって。きっとラムズとしなくても、あの人とは……」
「あー、全部俺が初めてがいいのね」

 ラムズは彼女の肩を掴み優しく起こすと、「いいよ」と笑みを見せた。

「いつでもできるから、やりたいだけやって、やめたくなったらやめな」
「……それで、いいのかしら」
「いいよ。それ以上やらせる男なら、俺が殺しておいてやるよ」

 そう笑って言ったが、どうせこれも宝石と引き換えなのだろう。ラピスフィーネはラムズの顔から、彼の腰元にある一物へ目を移した。喉が乾いた音を立てる。

「これを、その……」
「舐めたら?」
「わ、分かったわ」

 ラピスフィーネは髪を耳にかけると、恐る恐る唇を近づけた。
 怖いし、歪だし、醜いような気がする。でも、ラムズのものであればよかった。ラムズのものは、きっと他の誰よりも美しい。

 彼女は唇を先につけ、そのあと小さく舌を出した。端だけ舐めたあと、優しく手を添えて口に含む。顎を大きく開かなければ全部は入らない。|嘔吐《えず》きそうになりながら喉の奥まで入れ込むと、舌で味わうように舐めていく。

「ん、んっ……ふ、はぁッ……」

 息がしづらい。彼の冷えた手がラピスフィーネの髪を撫で、落ちていくストレートの青髪を戻す。
 彼女は顔を上げて、ラムズと目を合わせた。

「こ、これで合ってる?」
「ああ」
「……気持ちいい?」
「いや?」
「え? それは、ダメということ?」

 ラムズは儚い笑みで言った。

「最初から何も感じないよ、フィーネ。だからやらなくてもいいって言ったんだ」
「そう、そうね……でもそうしたら……」
「悪いが、俺はお前がそうやって舐めるのを上手いか下手か教えることはできねえな。どうすればいいかは分からん」
「分かったわ。いいの、ただしたかっただけだから……」

 彼女が体を起こして、ラムズは引き寄せて肌を重ねた。耳元でトーンの低い声がゆっくりと零れていく。

「これはお前が無理してやることじゃない。やりたくないならやらなくていい。相手に任せればいい」
「……リジェガル王子に?」
「ああ」
「ラムズにしても、何も感じなくて?」
「舐められてることは分かるぜ? だが、『気持ちいい』とかはねえからな」
「そうしたら、どうやって終わらせるの?」

 男の人もイくという感覚があるはずだ。それが終わりの合図だと教えられた。

「好きな時に終わらせられる」
「えっと……それは……、あの……」
「分かってると思うが、妊娠はしねえから安心しろ。あと──あれか。精液は出すこともできるし、出して欲しくないなら出さない」
「ど、どのように出して?」
「涙を流すのと同じだよ」

 彼はそう言うと、ラピスフィーネから体を離して目を瞬いた。すぐに青の瞳から透き通った涙がこぼれ落ちていく。三粒ほど美妙な雫が頬を伝う。
 はっとするほど美しかった。瞳や涙に惹き付けられそうになって、ラピスフィーネは感情を誤魔化すように告げる。

「ラムズって、泣くのね」
「泣こうと思えばな。これと一緒だから、気にすんな」

 本当に私としても何も感じないんだ。
 ラピスフィーネはする前よりも虚しくなって、彼の胸に顔を埋めた。ラムズのいつもより快い声が耳を震わせる。

「お前が気にすることじゃない。フィーネはただ俺に愛されてればいい」

 ラムズはそっと彼女をベッドに下ろすと、先ほどのように脚を開いた。もう乾いてしまっていたと思ったのに、彼の冷たい瞳で見下ろされるだけでどくどくと全身が疼いた。
 湿った蜜壷に硬いそれがあてがわれ、ゆっくりと秘部を割り入れてくる。

「ら、ラムズ。い、痛い……かしら……」
「痛いよ、大丈夫」

 ぐぃと腰が近づき、温かく柔らかい肉の中が裂けていく。電気が走るような疼痛を覚え、ラピスフィーネは思わず顔を顰めた。
 彼は彼女の腰元に手を添えると、最後まで押し込んだ。

「んっ、んんんん?!」

 ラピスフィーネが白目を剥いて体を縮こませた。ラムズは彼女の首筋に手を差し当てると、柔らかい口付けを落とす。ゆっくりと舌で唇を舐め、彼女の唾液を絡みとっていく。
 片方の手で円をかくように彼女の胸を掻き回し、こねるように先端をなぞった。口に含んでちろちろと舌を動かせば、彼女は腰を浮かして喘いだ。

「やぁっ、んんっ……」

 奥まで刺さった肉棒を抜こうとすると、彼女は苦悶の表情を浮かべた。

「あっ、んやぁっ……いた……い……」
「すぐ楽になる」

 ラムズが彼女の額に唇で触れると、嘘のように痛みが引いた。ラピスフィーネが目を開くと、銀髪のすだれのようになったそれから、青い瞳と目が合った。

「ら、らむず……」
「何?」
「……すきよ」

 彼の唇が弧を描き、「ああ」と声を降ろした。ゆっくりと腰が動かされる。引いて、押し込み──なだらかなストロークが繰り返され、徐々に愛液が絡まっていく。

「ん、あっ……あぁっ……」

 ラピスフィーネは顔を歪ませて吐息を零し、必死に彼の腕にすがりついた。ずんと重い質量が突かれるたび、膣奥を肉棒の先端がかき回し、甘い刺激が全身を回る。繋がった部分でくちゅくちゅと卑猥な音が聞こえ始めた。
 ラムズは彼女の細い腰を引き寄せ、さらに激しく突き始める。

「っね、だ、だめぇっ……や、っやらあ」

 何度も何度も打ち付けられ、脳を溶かすような快楽が明滅した。ときおり唇を奪われ、しっとりと舌で舐め上げられる。味のない唾液が彼女の喉に流し込まれ、焼け付くような痛苦と陶酔を飲み込んだ。

「や、んっ……ねっ……はぁっ」

 ラムズは気持ちよくない、最初はそう思って遠慮しようと思っていたのに、知らぬ間に思考は行為の快感でいっぱいだった。
 気持ちいい。なにも考えられない。
 頭と心臓がストロークに合わせて揺さぶられ、疼きが身体中を駆け巡っていく。

「っや、やあ……、あぁっ、や、あ……!」

 腰を浮かせて離れようとすると、すぐに冷たい腕が捕らえた。ぐいと彼女を近付け、奥までぐりぐりと押し込む。貪るように肉棒が彼女のナカを蹂躙する。

「っあ、ああああっ! んやぁっ! やああ!」

 ラムズは凍えるような眼差しで快楽に悶える彼女を見下ろしている。
 彼の指がラピスフィーネの口に差し込まれ、口内を悪戯に|嬲《なぶ》った。舌や頬の裏を二本の指が引っ掻くように|蠢《うごめ》き、声にならない淫声が漏れる。
 魔法のせいか彼の感情のない仮面のせいか、ラピスフィーネは為す術なくだらりと口を開けた。とろりとした喘ぎ声と唾液が滴り落ちていく。

 どれほど冷たく見下げられても、下腹部を刺激する脳を穿つような快感に嬌声を上げるのをやめられなかった。

「っあん、ゃ、や……やぁ……!」
「なあ」

 彼の尖った爪が唇の裏から刺し込まれる。鋭い痛みは、溢れていく快感ですぐに失せてしまう。
 だが喘ごうとして、口が聞けないことに気付いた。全身が凍ったように動かせない。ただひたすらに快楽のみが打ち付けられ、行き場のない恍惚が全身に行き渡る。

 ラムズは血で赤く染まった唾液を拭うと、|労《いたわ》るような口付けを押し付けた。と同時に、彼のモノが奥を深く深く貫くように掻き混ぜ、引き抜き──

「フィーネ」

 掠れた吐息が耳を攫い、彼女はかろうじてラムズを視界に映した。

「愛してるよ」

 生暖かい塊が奥を穿ち、痺れるような甘美が走った。膣がぎゅんと縮こまり陰茎を搾り上げる。痙攣を覚えたのち、ラピスフィーネは真っ白に果てた。

 ラムズはゆるりと差し抜き浄化魔法で彼女と自分の体を綺麗にしたあと、横たわる彼女のそばに体を下ろした。
 自分の腕の上に彼女の頭を載せてやり、体を引き寄せて肌を密着させた。ひんやりとした温度が、彼女の熱を溶かしていく。

「っは……はぁ……らむ、らむず……」

 しばらく熟れた吐息を漏らしていたが、ラムズが優しく背中を撫でてくれていた。

 息が落ち着いたころに、ラピスフィーネはぼんやりと言う。

「体が冷たいわ……」
「やだった?」
「いいえ」

 ラピスフィーネはゆるゆると首を振り、彼の胸に顔を埋めた。篭った声で尋ねる。

「これで終わり?」
「んー……フィーネがイきそうだったから、やめた」
「そう、なの……」
「まだ足りない?」
「違くてよ。その、えっと……」
「大したもんじゃねえだろ、セックスなんて」

 彼の冷えた肢体から、不自然なほど正確な心拍が聞こえる。ぎゅうと心が摘まれるような感覚がして、絞り出すように声を落とした。

「私は……ラムズとしたから、嬉しいもの」

 彼は口を緩ませて、彼女の頭を撫でた。

「そう? それならいいけど」
「どうして『愛してる』なんて……。それに、あんなに優しくしてもらえるなんて、思っていなかった」
「俺が初めに言ったこと、もう忘れたのか?」
「覚えてるわ。……縋ったりなんてしなくてよ。別にこういうことが好きなわけでもないもの」
「でも、俺とヤれば優しくしてもらえるのに?」
「どうせ嘘だもの」

 ラムズは笑うと、彼女の耳元に声を寄せた。

「愛してるよ、フィーネ。ずっと俺の下で喘いでいればいい。俺のためにだけ鳴いて」
「な、なに言って──」

 体を離した彼女の口を手で覆い、にこりと笑いかける。

「心配しなくても、次はもっと良くしてやるから」
「もうしなくてよくてよ。一回であれ全てあげるわ」

 ラピスフィーネはラムズから離れようと、布団をめくろうとした。だがすぐに体を捕らえられ、そのまますっぽりと収まってしまう。

「そんな悲しいこと言うなよ。俺はフィーネと愛し合いたいのに」
「嘘ばっかり。初めてができたから、これでいいの」
「初めてだけじゃなくてさ、お前の全てをくれよ」
「ほ、宝石はそんなにたくさん集められないもの。世界には限りがあるって、知っていらして?」

 そっぽを向いていた彼女を、ラムズはゆっくりと自分の方へ戻した。

「俺のためにならやってくれるだろ? 楽しみにしてるよ、俺のことを愛してくれるのを」
「もうしなくてよ──」

 ラムズにまた唇を奪われ、とろけるようなキスが送られる。少し舌で弄ばれただけで、彼女の息が上がった。

「っは、や、はぁっ……」
「哀れなフィーネ」

 ふっと笑うと、彼はベッドから体を起こした。