空を溶かした氷の指輪
彼女は瞳を潤ませ、肩で熱い息をしている。そんなに俺のキスがよかったか?
「ラムズ……私……。やっぱり……」
「やめるはなし。あの宝石見てお預けって、そりゃねえだろ」
最後まで言い切るとは思えなかったが、万が一にも気が変わったらまずい。既に選択肢は与えてやったんだから、もう好きにしていいだろ?
いくら唾液や唇が冷たくても、俺のキスは彼女からすると心地がいいらしい。お望みのままに、“熱い”キスを繰り返した。場合によっては魅了魔法でも媚薬でも使おうかと思っていたが、愛に酔った彼女は既に麻薬漬けの吐息を零している。
幾許かして顔を上げてみると、意識を朦朧とさせた彼女が呼吸を整えていた。
「っは、ハァ……ま、待って……」
こんなんでやれんのか? 少し長く遊んでやっただけだろ。
ラピスフィーネはとろんとした視線を送りながら、息も絶え絶えに話す。
「私、初めて、だから、……もう少し……」
「優しく?」
「……そ、そう……こんなの、知らなくてよ……ど、どうしていいか……」
キスが嫌なら魔法で濡らしてやってもいい。だがまさかそれを求めているわけじゃないだろう。
「十分優しくしてやってるけど。入れて終わりにしたっていいんだぜ?」
「だ、だけど……」
普段やり慣れていない俺に、これ以上のスキルは求めないでくれ。重々陶酔を誘うキスだったろう?
「大丈夫だって。そんな下手じゃねえから」
俺は彼女の首筋に舌を這わせる。そこでふと思い立って、彼女に問いかけた。
「血吸って、飲んで、そのあと食べていい?」
「……へ? は?」
「いいよな。俺のこと好きなんだから」
痛みに泣き叫んでもらっても一向構わないが、誰かに聞かれるのは面倒だ。痛みを和らげる魔法をかけながら、彼女に甘い言葉を落とした。
「痛くない、痛くない。魔法かけてあげるから。何しても痛くないように。痛くても気持ちいいように。──お前はお姫様だからな」
俺を好きだという人間を多少傷つけるくらい、大した問題じゃない。既に心はずたずたなんだから。
ラピスフィーネの皮膚を刺し抜いて少し血を飲めば、感覚と感情が戻ってきた。宝石がいただけて、体も食わせてもらえるなら言うことはない。欲求が満たされるわけではないが、久しぶりに趣味を味わうのは気分がいい。
「っね、ねえ……なにして……」
「……美味しい」
快感も与えているせいか、彼女は痛がるよりも甘美に喘いでいる。俺の手の内で|享楽《きょうらく》に|耽《ふけ》るのも悪くない、悪くないが──
ちとつまらん。
俺は喉に指を添えて、爪痕が残るまで押し込んだ。
「ッは、はぁっ、ハァ」
この爪で彼女の血管を引き裂けばいい。抵抗も叫び声も上げる間もなく、殺して食ってやるのに。
宝石だって悪くない。だが、|今日《きょう》|日《び》宝石に対する欲求は満たされているせいか、余計に加虐心が疼いた。
「っや、やあ、ラム、……ずっ……い、ぃたぁっ」
痛いか、そうか。
「本当ならこんな優しくしねえよ」
芸のない遊びはやめて、俺は彼女を抱き起こした。
ラピスフィーネの寝衣は普段のドレスより質素な作りでいて、赤らんだ肌が透けるような作りになっている。わざわざこんな服を着る必要なんぞ、露ほどもない。どうせ脱がしてしまうのに。
「俺のために着てたんだ?」
「……気付いてた、の?」
「当たり前」
俺は後ろに手を回し、彼女の服のリボンを外した。魔力を載せて指先で服を切っていく。ワンピースの上部が切れてしまうと、肩からするりと服が脱げ落ちた。
「見ない……で……」
彼女が腕を交差させて胸を隠している。下着、いや、裸を見せたくないらしい。
「俺はそれでもいいけど」
下を脱がせようと思ったら、彼女が俺の手を止めた。
「や、やっぱり、ちゃんと、して……」
「ちゃんとってなんだよ」
俺は笑って言って藍の髪を横に流し、コルセット、ドレス、ショーツを外した。痛々しいくらい、華奢に見える体だ。
「……ラムズ、は?」
「俺も脱ぐのか」
まあその方がいいだろうな。
騎士のコートを魔法で切るわけにはいかないので、俺は順に外していった。そばの机に甲冑やらシャツやらを置いていく。身に付けていた宝石に別れを告げるのは、暫しのあいだとはいえ寂しい。悩んだ末にピアスだけは残して、彼女の座るベッドに戻った。
ラピスフィーネはぼうっと上裸の体を見て、何かに操られるように胸元へ手を伸ばしてきた。
「かっこいい?」
「……ええ、まあ」
「そうしたからな」
人間の体はそう難しくない。均整の取れた体となれば、歪んだものよりさらに容易い。芝居がかった動きで彼女の手を掴み、甲に優しくキスをした。
「お姫様の体を見るのが、俺が最初でよかったのか?」
「……今更でしょう?」
「たしかに」
キスをしようとすると、彼女が弱々しく俺の胸を押した。
「……だめ? 私のからだは……かわいく」
「かわいいよ。綺麗だな。人間の男が好みそうだ」
ラピスフィーネは俯いた。期待している答と違うのだろう。だが明け透けに虚を飾っても、お前を徒に傷つけるだけだ。
「意地悪な質問するな。自分にも俺にも」
「だって……」
「お姫様は何をお望み?」
「ラムズが、何を考えてるのかなって」
また難しいことを聞く。見え透いた嘘も行き過ぎた本当も言えまい。
「さっきも言った。おかしいと思ってるよ。面白いってな」
体をベッドに沈めた彼女が、つぶらな瞳で問いを繰り返す。
「……どういう意味?」
「誰もが望む体を、俺は対価をもらった上で弄ぶんだから。まあ、俺にはもったいないくらい、綺麗な体だと思うぜ」
これより軽妙な返しはできない。返事代わりに彼女の胸をなぞり、思考する力を失わせた。
「まっ、まって……おねがい……」
余計なことは言わなくていいし、考えなくていい。
キスをしながら彼女の秘部をくすぐり、快感に酔わせる。少し力を込めれば壊れそうな体だ。彼女に対し感情はなくとも、慈しむような手付きで致した。
「んっ、や、やぁっ……」
少しこねて愛撫をすれば、彼女の秘部がわずかに痙攣し、体が達しようと疼くのが分かる。焦点の合わない瞳孔が、俺の視界で行き来する。
「イキたい?」
「ッハ、ハァ。わか、わから、ないッ……。こわい、わ……」
彼女の太ももから膣液が流れ、思いなしか俺は掬って舐め取った。やはり味はしない。怯える彼女を痛ましげに撫で、甘露を添えて囁いた。
「愛してあげるから、安心して」
彼女の腰がびくりと跳ねる。時間をかけて中を弄ってやると、膣液が溢れ切ない嬌声が何度も上がった。
単調な動作は|手遊《てすさ》みにもならん。彼女も宝石のピアスくらい付けていてくれれば、俺も|無聊《ぶりょう》を|慰《なぐさ》めたのに。
恥ずかしいのか、彼女は脚を閉じようとして体をねじった。
「ゃ、やだっ……あ、」
だがすぐに脚を押さえ、より熱い快感を与え続けた。外側や内側を満遍なく撫で上げて、柔らかく優しく、ときに細やかな疼痛を送る。
彼女の髪は乱れ、頬は上気したように赤い。快楽で余裕がないのか、俺が冷ややかに行為を続けていることには気付かない。まあ、その方が有難い。彼女が可愛らしく喘ぐのに、愛おしいと思わせる目付きを作らなくて済むのだから。
「んんっ、や、やぁ……。だ、だめっ……」
彼女が腰を浮かせ、俺の指から逃れようとする。魔法で縛ろうかとも思ったが、やめた。
「行くなって」
言葉だけでラピスフィーネはついと動きを止める。秘部を摘むように遊んでやると、高い嬌声を上げて達した。
「ん、ん?! や、やあっ……、ゃ……! あぁあ……!」
懸命に俺の腕を掴み、胸元に顔を埋める。泣きそうな目でこちらを捉えた。
「なっ、なにした……の……?」
「イカせただけ。気持ちかった?」
「わ、分かんないっ……」
彼女は自慰行為をしたことがないらしい。この調子だと、やり方すら知らないのかもしれん。
「大丈夫? まだあるのに」
「す、する……」
「そりゃお利口さん」
俺は起き上がって彼女の脚を開いた。ラピスフィーネは布団を掴み、耳まで赤い顔をそっと隠した。
自分の体勢に羞恥心を覚えたのだろう。まあ、分からなくもない。俺が言うことじゃあないが、何者、何物であれ欲を剥き出しにする行為はえてして見苦しい。
「初めてでも、痛くないようにするから」
「ま、魔法、かけるのっ……?」
「ああ」
彼女は布団から顔を見せると、俺の脚の方へ手を伸ばした。小さく首を横に振る。
「い、いい……っ。痛くて……」
「なんで? 痛い方がいいの?」
「……だって、それが初めてって、お母様が……」
「わかったよ」
痛みを和らげることはできても、彼女の痛みを知ることはできない。体の様子が分からないまま行為をするのは抵抗があったが、断るのも花がない。
宝石のついたベルトに手を伸ばす。丁寧に外してそばの机にそっと置いた。スラックスを脱ぐ。ラピスフィーネはじいっと俺の腰元に目を寄越したあと、躊躇いがちに口を開いた。
「まってっ」
「なに?」
「あの、その……私も、えっと……」
彼女ははにかみながら視線を逸らす。ああ、口淫のことを言っているのか。そういえば昔もされたことがある。
「やんなくていいよ、いらねえから」
「だ、だけど……」
言葉の歯切れが悪い。できるだけ優しく尋ねた。
「したいの?」
「そうではなくて、だって、それがそういうものって。きっとラムズとしなくても、あの人とは……」
「あー、全部俺が初めてがいいのね」
彼のものを咥えるくらいなら、俺の方がマシなんだろう。王子が初夜からそんなことをさせるとは思えないが、彼女が望むなら止めまいよ。
「いつでもできるから、やりたいだけやって、やめたくなったらやめな」
男性器含め、全ての部位を俺はどうとでも操れる。本来性的刺激を受けない限り勃起しないらしいが、俺としてはこれが腕や足と何の差異があるのか分からない。逆に、人間の体は陰茎の伸縮に刺激の条件が必要とは、なんとも面倒な仕様だ。
「……それで、いいのかしら」
「いいよ。それ以上やらせる男なら、俺が殺しておいてやるよ」
リジェガルはそう常識外れな男には見えなかった。だがまあ、彼女が助けを仰ぐなら手を貸してやらんことはない。
ラピスフィーネは体を起こしたあと、戸惑いを孕んだ視線で陰茎を見つめた。
「これを、その……」
「舐めたら?」
「わ、分かったわ」
彼女は髪を耳にかけ、怖々と唇を近づけた。温かい唇を押し付けたあと、ちろちろと舌で先を舐める。白い手が赤黒い陰茎に添えられ、口を開いて喉の奥まで咥え込んだ。頭を上下に動かしながら、舌を這わせて柔らかくなぞっている。
「ん、んっ……ふ、はぁッ……」
そこまでやらなくてもいいのに。
髪が邪魔になると思い、俺は彼女の頬から髪を掬った。嘔吐くくらいに喉へ押し込んでいる。苦しいだろう。俺が「もういい」と止めようとして、彼女が顔を上げた。
「こ、これで合ってる?」
「ああ」
「……気持ちいい?」
「いや?」
「え? それは、ダメということ?」
不意を付かれたような顔だ。お前は、俺に感覚がないのは知っているだろう。
「最初から何も感じないよ、フィーネ。だからやらなくてもいいって言ったんだ」
「そう、そうね……でもそうしたら……」
「悪いが、俺はお前がそうやって舐めるのを上手いか下手か教えることはできねえな。どうすればいいかは分からん」
「分かったわ。いいの、ただしたかっただけだから……」
女王制の国だからかもしれない。夜の相手も、なるべく女性優位に進めるという方針でも取っているとか。なんにせよ、俺は練習台にはなれない。
そっと体を重ねて、落ち着いた声で言った。
「これはお前が無理してやることじゃない。やりたくないならやらなくていい。相手に任せればいい」
「……リジェガル王子に?」
「ああ」
「ラムズにしても、何も感じなくて?」
「舐められてることは分かるぜ? だが、『気持ちいい』とかはねえからな」
どこを舐められても変わらない。どの場所をどんな風に触れられているかという事実が分かるだけだ。あれで快感に浸れるとは、人間はたいそう雅な道楽をお持ちでして。
「そうしたら、どうやって終わらせるの?」
「好きな時に終わらせられる」
「えっと……それは……、あの……」
「分かってると思うが、妊娠はしねえから安心しろ。あと──あれか。精液は出すこともできるし、出して欲しくないなら出さない」
「ど、どのように出して?」
「涙を流すのと同じだよ」
俺は彼女から体を離すと、三滴の涙を零して見せた。さほど意識を凝らさなくても自在に操れるという意味じゃ、魔法と変わらんな。
悲しい時に泣き、嬉しい時に笑い、驚いた時に──ごく当たり前の仕草だが、それを初めから自然に行う使族は神秘的、神が創ったというのも頷ける。俺も宝石を失えば泣けるかもしれないが、それは体にそう覚えさせたからだ。自然に流れる涙じゃない。いやそもそも、涙なんて持ち合わせていないのだ。
「ラムズって、泣くのね」
「泣こうと思えばな。これと一緒だから、気にすんな」
彼女はおもむろに体を倒し、俺の胸元で沈んだ表情を見せた。
「お前が気にすることじゃない。フィーネはただ俺に愛されてればいい」
彼女を優しく押し倒し、覆い被さってゆっくりと脚を開いた。濡れた秘部に陰茎をあてがう。ラピスフィーネはとぎまぎした顔でこちらを見やった。
「ら、ラムズ。い、痛い……かしら……」
「痛いよ、大丈夫」
入口に押し当てると、滑らかな膣液に沿って割り入れた。ラピスフィーネは眉をきゅうと縮める。痛いんだろう。
じわじわ鋭い痛みを与え続けるより、一気に入れてしまった方が早い。
「んっ、んんんん?!」
奥まで刺したせいか、ラピスフィーネが白目を剥いて体を硬直させる。治癒魔法をかけてやろうと思ったが、彼女の言葉を思い出して留まった。
彼女の首筋に手を差し当て、柔らかい口付けを落とす。同時に胸を優しく弄び、痛みから意識を奪った。
「やぁっ、んんっ……」
少しのあいだ口内を犯したあと、緩やかに腰を動かして引こうとした。
「あっ、んやぁっ……いた……い……」
「すぐ楽になる」
十分乙女の痛みは味わっただろう。俺は彼女の額に唇で触れ魔法をかける。ラピスフィーネは目元のシワをなくし、鮮やかな蒼の瞳を開いた。
「ら、らむず……」
「何?」
「……すきよ」
彼女は俺を愛しているんだったな。
「ああ」
その愛に答えるように、俺はゆっくりと腰を動かした。ストロークを繰り返すたびに、彼女から甘い声が漏れる。
「ん、あっ……あぁっ……」
彼女の顔が歪み始めたが、もう辛苦に悶えているわけではないようだった。膣液が零れているのに気付いて、動かすスピードを少し早めた。細い腰に手を添え、引き寄せ、さらに激しく突き始める。
「っね、だ、だめぇっ……や、っやらあ」
だが彼女が快楽に溺れているのを見ていると、俺の心では労ることより煩わしさの方が勝っていった。これがラピスフィーネじゃなければもう少し演技をするんだが、──まあ彼女は俺の使族ごと愛しているんだから、多少冷たくても気にしまい。
俺は彼女に唇を押し当てると、冷たい唾液を流し込んだ。無益に毒を混ぜたから、少し喉が焼け付くかもしれない。
「や、んっ……ねっ……はぁっ」
俺が彼女を突き上げるたびに、嬌声が耳を穿った。多少意地悪をしても気付かないくらいには、快楽に支配されてしまっているらしい。
わざと強く打ち付けると、彼女が腰をひねった。
「っや、やあ……、あぁっ、や、あ……!」
逃げんなよ。馬鹿みたいによがってるくせに。
俺は腰を押さえつけて、虐めるように最奥まで押し込んだ。体を壊すように膣の壁を掻く。彼女の瞳から涙か汗か分からないものが流れていった。
「っあ、ああああっ! んやぁっ! やああ!」
なんて阿呆らしい時間だろう。
俺はラピスフィーネの口に尖らせた指爪を差し入れ、口内を無茶苦茶に|嬲《なぶ》った。不自然に口を開かせているせいか、彼女は呼吸を探すように喘いだ。
指先で魔力を送って顎を開かせたままにすれば、普段の凛とした姫には遠く及ばない顔で鳴いて見せる。
そんなに気持ちいいか。愛のない俺と致して。嘆かわしいな。
「っあん、ゃ、や……やぁ……!」
「なあ」
これが神秘の生命を育む営みだと言うのなら、さぞかし幸せな時間なんだろう?
俺は爪を唇の裏から差し込んだ。柔らかい皮膚はあっさり裂けて、俺の魔力で彼女を縛る。声が聞けないことにもう気付いたのか、目をチカチカさせながらこちらを見ている。喘げないから辛いのかもしれない。
血で赤く染まった唾液を拭い、嘘のように優しいキスをした。
「フィーネ」
それなのになぜ、人の魅せる欲の果てはこうも哀れか。
「愛してるよ」
砂糖漬けの言葉を送ると同時に、彼女の膣がひくひくと縮み独りでに果てた。
俺は陰茎を差し抜いて浄化魔法で彼女と自分の体を洗い、横たわる彼女のそばに体を下ろした。腕の上に彼女の頭を載せ、熱い体を胸に押し当てる。キングサイズのベッドだ、絹の上掛けは二人で使うのにも申し分ない。
「っは……はぁ……らむ、らむず……」
しばらく彼女は息を整えていた。彼女の背中を撫でてやっていると、落ち着いたのかラピスフィーネはぼんやりと口を開いた。
「体が冷たいわ……」
「やだった?」
「いいえ」
ラピスフィーネはやんわりと首を振り、顔を埋めた。篭った声が聞こえる。
「これで終わり?」
「んー……フィーネがイきそうだったから、やめた」
「そう、なの……」
「まだ足りない?」
「違くてよ。その、えっと……」
「大したもんじゃねえだろ、セックスなんて」
言うんじゃなかった。言い繕おうとしたが、彼女は存外明るかった。
「私は……ラムズとしたから、嬉しいもの」
「そう? それならいいけど」
「どうして『愛してる』なんて……。それに、あんなに優しくしてもらえるなんて、思っていなかった」
そう言ってくれるなら、次はちと邪険にしてもいいか。
「俺が初めに言ったこと、もう忘れたのか?」
「覚えてるわ。……縋ったりなんてしなくてよ。別にこういうことが好きなわけでもないもの」
「でも、俺とヤれば優しくしてもらえるのに?」
「どうせ嘘だもの」
たしかに。だが、まあまあ本心で遊んでやったぜ? 煩わしいのに違いはないが。
俺はわざとらしい声色で低い吐息を漏らした。
「愛してるよ、フィーネ。ずっと俺の下で喘いでいればいい。俺のためにだけ鳴いて」
「な、なに言って──」
手でラピスフィーネの口を隠して、愛らしく笑いかける。
「心配しなくても、次はもっと良くしてやるから」
「もうしなくてよくてよ。一回であれ全てあげるわ」
それはそれで魅力的だが、いくらしち面倒な行為でも十回会うより一回やる方が手っ取り早い。
俺は逃げようとする彼女の体を掴んで、後ろから抱きしめた。口に任せて甘く囁く。
「そんな悲しいこと言うなよ。俺はフィーネと愛し合いたいのに」
「嘘ばっかり。初めてができたから、これでいいの」
「初めてだけじゃなくてさ、お前の全てをくれよ」
「ほ、宝石はそんなにたくさん集められないもの。世界には限りがあるって、知っていらして?」
それでも世界中の宝石を残らず手元に置きたいんだ。ゆっくりと彼女をこちらに向かせる。
「俺のためにならやってくれるだろ? 楽しみにしてるよ、俺のことを愛してくれるのを」
「もうしなくてよ──」
俺は彼女が言い終わる前に、口内を掻き回した。呆気ないほど簡単に堕ちる。
「っは、や、はぁっ……」
「哀れなフィーネ」
あとは俺の気分次第。やる気さえあれば、快感に酔わせて言いなりにできる。お前が行為中に同じ口を叩けるか、楽しみにしてるぜ。