微睡

 気絶するように倒れ眠っていたのに、彼は容赦してくれなかった。無理やり薬を口移しで飲ませ、魔石を使って体の倦怠感を飛ばし、睡魔すら魔法で消して、頭をすっかり冴え渡らせたうえでもう一度犯した。眠気や疲労感が消えたせいでより情欲ばかりを感じるようになってしまって、初めに言われたとおり、麻薬みたいな姦淫の虜になっていった。
「上乗って」
 初めてそう言われた。がくがくになっている体で必死に首肯し、彼の上に跨った。濡れた肉棒に手を添え、秘口にあてがう。ぬるついた淫花は悦んでそれを咥えこみ、締め付け、くちゅ、と小さな水音を立てる。虐使された肢体を必死に持ち上げ、ゆっくりと腰を落としていく。焦がれるような疼きが肉壁を這いのぼるにつれ、持て余した倦怠と催淫が力を奪っていく。がくんと膝が折れた瞬間、膨張した肉杭がズンッ、と体ごと貫いた。
「んぁッ、あぁぁあああ! んぁああ!」
 爪先がぴんと張り、電撃が走ったように仰け反った。びくびくと奥が震え絶頂する。気持ちよすぎる。もうだめ、死んじゃう、おかしくなっちゃう。ぐたりと肩を落とす。それでもまだ脳はさらなる快感を求めていて、よれよれになった身体を起こし、彼の腰に手を添えた。震えたままの腰を懸命に揺すりはじめる。
「っは。ンッ、ぁあ〜、……きも、ち。ィあ、ん」
 せっかく私も彼のことを気持ちよくさせようと思ったのに、全然うまくいかない。短く上下に揺らしただけのはずが、ぴったり嵌った肉棒が絡みつくように襞をめくり、撫で擦り、下腹部から背筋までぞくぞくと悦を送りこむ。灼ける快感があまりに強烈で動かすどころじゃなかった。下ろす瞬間は太く硬い筒先がずちゅりと奥を突き、腰が砕けるくらいに重く響く。ひどく緩慢なストロークに彼は呆れて笑い、私は涙目になって彼に縋った。
「……ん、ねッ……。ぁ……ん。らむずぅ、ぁん、……ゃあ」
 遅くすればするほど、ずるずるとナニカが肉襞をなぞっていくような感覚に襲われる。最早生きた触手か何かで犯されているみたいだ。気持ちいい、本当に気持ちいい。彼が動いているわけじゃないのに、ただ入れてるだけで気持ちいいなんて絶対おかしい。
「ぁあん……すき。だい、すき。しゅ、きぃ。ぁ〜ん、……ぁあ……ッ。ん〜……」
 腹の裏側をグチュグチュと肉棒がなぞり、白く濁った愛液が泡立ち、結合部からだらだら零れ伝う。快楽で使いものにならなくなった腿が震え、ばちゅんと臀部が落ちる。
「ッあ! んんッ!」
 また……イっちゃった。びくびくと体が震え、とろけた瞳の視界は潤み、だらしなく開いた口から唾液が零れる。懸命に前後に振り、淫花を擦り付けた。
「ぁは……ハァ。あ……。しゅき、ぁ……。だいしゅ、き……」
 うっとりするような悦楽が脳を浸していく。気持ちいい。気持ちいい。ずっとしていたい。やめられない。気持ちよくておかしくなっちゃう。
 私が手を伸ばすと彼はそれを掴み、上半身を起こした。腕ごとそっと抱きしめる。首筋に唇を当て、冷たいそれを這わせる。微かな刺激が呼び水となって、下腹部で主張する重い極楽の塊にまた胸がきゅうと苦しくなる。
「っあ……。だい、すき。すき……。しゅき、ね……ぁん……」
「飲んでい」
 湿った声が耳朶に触れ、びくんと肩を震わせた。
「ぁ……ん、ん〜……」
 惚けた声で返事をすると、彼は嗤い首筋に歯を突き立てた。びりりと鋭い疼痛が走り、一瞬肩が跳ねる。傷口を抉るように舌で弄られ、痛みに体を強ばらせた。
「動いて、ほら」
「ぁ……ん、ん」
 言われたとおり、ゆるゆると腰を動かしはじめる。ぐちゅ、ぐちゅ、と淫らな水音が立つ。小さな痙攣がナカで繰り返され、小刻みに跳ねては肉壁がぐにぐにと性棒に絡みつく。短いピストン運動でさえ陰部は絶えずひくつき、降りた子宮が亀頭に吸い付き重いキスをする。
 鋭い噛砕感はとっくに快感に裏返っていた。じゅくじゅくと傷口を弄られ、血を吸われるたびに何かが搾り取られたように体がきゅうと縮んだ。白濁液でたぷたぷの胎を肉棒が掻き撫で、体を縮こめるのと同時に蜜口がその側面でぞぞと震えた。
 生暖かい血が鎖骨を流れていく。じゅる、と長い舌でそこを舐められ、背筋がびくつく。
「すき……しゅ、き……んぁ、あ……。ね、ぁ……きもち、ぁん……」
 甘ったるい快事に脳が痺れ、中毒みたいに求めつづけた。気持ちいい、痛い、痛い、でも気持ちいい。もっと飲んでほしい。彼の全部がほしい。もっと虐めてほしい。痛くしてほしい。気持ちいい、気持ちいい。
 ほとんど縋り付くように彼の首周りに腕を回し、とろんとした目尻から涙が零れる。
「んぁ、……あ。気持ちい、イッ。ぁ、ね……。すき、す、き……。ら、ムズ。ねぇ……」
 彼は顔を離すと、今度は首の側面に噛み付いた。牙がざくりと入り、激痛がびりびりと全身を襲う。固まった私の体を彼が抱き寄せると、膣内の肉竿がぐちゅんとナカをなぞった。
「っあ! んん〜、ぁ……あん。ヤ、ぁ」
 血を吸われたまま何度か下から突き上げられ、すぐさま痛みが快楽に塗り潰された。陶酔に脳がかき乱される。体をねじり声が枯れるまでよがった。子宮口をぞろろと先が何度か擦り、体が痙攣しはじめる。
「っち、ぁ。ィッ、ちゃう、やん、ぁ! ィ、ねぁ!」
 接合部がぴたりと重なり合い花芯が潰れ、暴力的な法悦の波に堕ちる。白い絶頂がまだぱちぱちと明滅しついるあいだも、彼はぐちゅぐちゅとナカを掻き乱した。すぐに快楽の波が戻り、連続でイかされる。
「ぁあぁああぁあああぁあ! ん〜、ッ。やぁ……!」
 体の震えを逃がすように、彼を強く抱いた。
「だぁ、や。ねぇ……す、きぃ、あ……」
 彼は少し体を離し、こちらを見た。真っ赤な舌が唇をじゅると舐める。歯を汚す鮮血にときめき、背徳的な容貌に惹き付けられる。顔を背けたいのに目が離せない。
 ちゅうと吸い付くように唇を合わせ、喰われるようにキスされた。舌を飲まれ、ぎちぎちと噛まれる。息が苦しくなり腕を強く掴むと、さらに頭を引き寄せられた。口蓋の裏をざらりと舐められ、甘い舌が咥内を犯す。ひとしきり虐めたあと唇を離すと、妖しく嗤う唇が声を落とした。
「なあ、もっと言って」
「え? ん、す、すき。だ、んッ! い、すき」
 下腹部の甘い刺激に再び腰がくだけそうになる。首の傷口を舐め上げられ、微かな疼痛に体が悦ぶ。
「すき……ぁッ。だ、いすき。しゅ、き……。らむ、ずぁ。ぁん……」
「お前ほんと美味しい」
 頬に短いキスが落とされる。零れている血を舐めたあと、綺麗な手で頬を包まれる。
「全部食いたいくらい」
「し、しんじゃ、う。よ」
 手首にちゅうとキスをする。「いいだろ。俺のなんだから」
「ん、ん……」子宮を突く濃厚な肉感と、彼の透きとおった声が脳に溶けていく。
「なあパメラ、もっと好きになって」
「んぇ、あ。すきだよ。だぁ、いしゅ、き。いちばんすき」私は彼の手をそっと掴んだ。少し迷ったあと、ふるふると首を振る。
「なまぇ、ほんとは。ちが、ぅ」
 言うつもりなかったのに。どうしても本名で呼んでほしくて、上目で彼を見つめた。お客さんと同じなのが嫌だった。「んッ、」と短く喘ぎながら彼の首に顔を埋める。
「パト、ーニャ。そっちが、いい」
 彼は頭をゆるゆると撫でた。優しい手つきに心が落ちつき、息が少し楽になる。
「パトーニャね」
「すき……。だ、ぃすき。すき。すき」
「ああ」
「ん、ん〜」
 彼はゆっくりと私の体をベッドに落とした。柔らかに目を細め、頬を細い指が撫でおりる。
「好きだよ、パトーニャ」
 私は彼の指に自分のそれを絡ませた。甘えるように掌に頬を擦り付ける。「ん、だいすき。しゅき。ずっとすき。すき」
 微かな笑みが見えたあと、再び快楽の海へ堕ちていった。

 私がねだったせいで結局彼はもう一度抱いてくれて、そのあとは隣で体を横たえた。くたくたの私の体を労り綺麗にして、腕枕をして、抱きしめ、頭も撫でてくれる。それにあんなにつれない態度を取りそうな見た目のわりに、「好き」も「大好き」も言ってくれた。むしろ「もっと好きになって」なんて、愛されたいようなラムズの発言が愛おしくて、もっと好きになった。
 ベッドで向かい合わせに寝転び、彼はする、と髪をすくった。
「パトーニャっていうんだ」
「そぉなの。本名は店では一応教えないことになってて」
「苗字は?」
「パトーニャ・ルガニルアだよ」私は突然閃き、彼の胸を軽く叩く。「ラムズは? 愛称あったよね?」
「あー……リジュー?」
 こくこくと首を下ろす。目をきらきらさせて尋ねた。「そう呼んだらだめ?」
「まあいいが、愛称ってほどじゃねえぜ。ジュエリーを文字ったってだけ」
「ん〜。そっか。仲間の内のあだ名、みたいな?」
「そう」
「どっちで呼ばれるほうが嬉しいの?」
「どっちでも。まあリジューは、お前に呼ばれるとちと違和感あるかな」
 少し考えたあと、そっと呼んでみる。「ん〜……。リジュー?」
「なあに」
 青い瞳に写っているのが私だけなのも、優しく「なあに」と答えてくれるのが私だけなのも、すごく幸せで頬が緩んだ。えへへと笑い顔を埋める。
「……ね、次いつ会える?」
 おそるおそる尋ねてみる。彼の規則正しい心拍が耳を打つ。
「いつがいい」
「今日仕事終わったら!」
 彼は笑って髪をくしゃりと乱した。「またやんの」
「やらなくても……いいけど。一緒にいたい」
「毎日は無理だが、会いに行くよ」
「お店に来るの?」
「まあ、てきとうに」
 彼を見上げる。「私からは会いに行けないの?」
「『がらん堂』の店主に言いな。会えるようにしとく」
「このお城はどこにあるの?」
「違う街にある」
 私は目を瞬いた。「え!? そんな移動してたの?!」
「ああ。だから教えてもふつうにじゃ来れねえだろ」
「ん、うん……」
 そしたらお店に行くしかないんだ。少しへこむ。彼は背中を撫でた。
「『異端の会』って宿、覚えてる」
「うん」
「あそこの道順覚えれば、会いやすいかな。よく行くから」
「でもいつも全然違う道を通るからぁ……」
「まー、そうだな。他にも使うやつがいるから、まだ教えるのはまずい」
 頬を膨らませたのを見て、彼は頬を抓った。「じゃあ俺が会いたいと思うようにして」
「え〜。んん……」
 ラムズが好きなのは宝石だよね。宝石買っておけばいいのかな? たしかにお金はあるから買おうと思えば買える。だけどそういうのって自分で選びたいだろうし……かといって他に……。
「あ!」
 私はベッドから降り、鞄の中からアクセサリーを取り出した。小粒のピンクダイヤモンド、花に象ったゴールドのぶらさがったピアスだ。最近お客様にもらったもので、家に持って帰ろうと思っていた。
 ベッドに座り直し、起き上がっていた彼の隣に腰を落ちつける。私はピアスを明かりにかざした。
「これなに」
 見るからに輝きの増した瞳で、ラムズは食い入るようにピアスを見つめる。
「お客さんにもらって……。女の子向けだけど……たぶん付けてなくてもバレないしぃ……」
「くれんの」
 射抜くような視線に心拍が止まりかける。どきまぎと瞬きをして、小さく頷いた。
「ほしい? いいのぉ? かわいい……感じだよ」
「気にしねえ。宝石なら全部ほしい」彼ははっとして視線を外した。「悪い。魔法かけそうになるから、早く決めて」
「え、魔法?」
「魅了魔法」
「そんなことしなくても十分魅了されてるのにぃ」けらけら笑い、彼の手に落とした。「そんな意地悪しないよぉ、見せたのに。あげるね」
 ラムズは甘く蕩けるような優しい笑みを零した。「ありがとう。すごく嬉しい」
 額にキスを落としたあと、手に取ったそれを具に眺めはじめた。指でゴールドの彫刻を確かめるようにゆっくりとなぞる。宝石に目が縫い付けられ、自然に口角が上がっている。
「えと……。まだお家にあるから……」
 ゆっくりと首が回る。眼が合った。「それもくれんの」
「うん。あんまりお客さんにおねだりしたことなかったけど、そういうのでいいなら、またほしいって言ってみる。……だから、ちゃんと来てね? じゃないと渡せないよ?」
 彼は私の体を引き寄せた。頭の横で優しく囁く。
「会いに行くよ。心配しないで。お前が思ってるより、俺はパトーニャに夢中だから」
「……っは、ぇ……。あ、そう、なの。そんなに……好きでいてくれるの」
 ぐずぐずになった私に彼はくつくつと笑い、体を離した。顎を掬われる。眇めた目が妖しく微笑んだ。
「お前で遊ぶの楽しそうで」
「な。なにそれ。ばかぁ」
 ひとつそっと口付けて、頭を撫でられる。からかってるのか、本気で言ってるのかわからない。されるがまま髪を乱されたあと、彼はふと思いついたように零した。
「お前、客とトラブルになることあんの」
「まぁ……たまに? でも無理やり来させるようなことはしてないし、他の子みたいに恋させてるわけでもないから……。この前みたいに襲われることはあるかもしれない、けど」
 「へえ」と声を漏らし、軽い調子で言う。「おかしなことがあったら言って。助けてやるから」
「ほんと?」
 彼はからかうように言う。「なんで嘘つくんだよ」
「優しい、なって」
「他のやつに、お前が泣かされんのは嫌だな」
「え? そぉなの?」
「ああ。俺のことだけ考えててほしいから」
 胸に顔を埋め、くすりと笑った。「ラムズってけっこう、重いんだね」
「軽くしようか」悪戯っぽく微笑む。
「え、やだ」体に手を回す。「いっぱい愛されてるみたいで嬉しい。今のままがいい」
 笑みの滲んだ声が降りる。「だと思った」
「なにそれぇ。じゃあこれもわざと言ってるだけなの?」
「本当だよ。言うか言わねえか決めてるだけ。言わなくてもどうせそうするし」
「……そうするって? 自分のことだけ考えるようにするの?」
 一段トーンの下がった声が嗤う。「正解」
 どきどきした心臓を隠すように、ベッドに入った。「わ、私はもう寝る。誰かさんのせいで眠れそうにないけど!」
「あぁ、そっか」
 ラムズは私の額にそっと手を当てた。何か言う前に微睡みが脳を浸し、瞼が落ちていく。柔らかで温かな布団の中で、彼の「おやすみ」という青い雫が心に波紋を落とした。