破瓜

 下から改めて彼の肢体を見れば、こんな人にキスをされ、下腹部を弄られていたのかと顔が火照ってきた。自分の手で頬を摩る。
 私の体型や容姿も人間の中ではいいほうだと思っていたけれど、彼のは比較にならなかった。均整の取れた肢体、ほどよい筋肉が胸や腕を膨らませ、綺麗に六つに分かれた筋が美しい。鎖骨の線が浮き彫りになり、腸骨筋の線が股にかけてくっきりと影を作っている。臍から首にかけてある括れが色っぽく、白磁の肌をさらに際立たせている。
 視線に気づいた彼が笑い、その顔の良さに今度こそ目を逸らした。いつも見ていたのに、あの冷たく表情のない顔が柔らかく微笑むと、その破壊力で脳が痺れそうになった。それでも視線の青が寒々しく、どこか冷たい感じがするのが余計にそそられる。
 ぎし、と寝台が軋み、彼がこちらに体を近づけた。脚を掴んで股を広げる。恥ずかしい、こんな格好、嫌だ。だが私が何か言う前に上半身を倒してしまう。
「は、えと。はい、る?」
「大丈夫、入るようにするから」
 こくこくと首を下ろす。緊張する。硬く目をつぶって彼の腕を握った。ラムズがその瞼にキスをする。
「そんなに怖がらなくても大丈夫だから」
「……お、おおきい?」
「ふつうだよ。大丈夫」
 割れ目に肉感を感じた。棒状の硬い魔羅が擦られている。花芯を掻くように擦られるたび、その気持ちよさともどかしさにまた声が上がってしまう。
「ぁん……や。だ……ぁ。は、ぁ……」
 やわやわとソレが行ったり来たりする。淫茎が蕾や花唇を撫で付け、快をぐちゅぐちゅと植え込み染みわたらせていく。はぁ、はぁ、と私の呼吸が荒くなり、快感に溺れて視界がぼやけて潤んだ。
 ラムズは私の髪を撫で、そっとキスを落とした。屹立が秘部にあてがわれ、ぐちゅ、とその先が沈んだ。
「ぁ!? んっ、んんん……!?」
 腟内を押し広げるような感覚に頭がくらくらする。膣壁をぞぞぞと肉棒がなぞり、押し寄せる快美とちくちくとした痛みに思考がめちゃくちゃになった。
「ぁ、ら。らむ、ず……、ぁっ! や……」
「ちょっとだけ我慢して」
 甘い囁き声に、必死に小首を縦に振った。柔らかな口吸が落ちて、互いの唾液を交わせた。唇から零れた粘液を舌が掬い、喉の奥まで柔く撫でられ犯される。
 ずず、と肉杭が体の中心部に迫っていく。キリキリと燃えるような疼痛が走り、痛みに顔を顰めた。でも嫌な痛みじゃない。痺れが下腹部を覆ったあと、ぐちゅん、と奥に何かが突いた。
「ぁ、あ……!」
「入ったよ。大丈夫?」
 顔を上げて彼を見る。かっこいい。こんなに大事に抱いてくれるのに……。この人が……私を攫った人じゃなかったらよかったのに。
「ん。うん。平気」
「お前の体質上、すぐ痛くなくなると思う」
「うん……」
 破瓜の痛みとは言っても、怪我と同じ部類になるんだろう。彼の言葉どおり、膣周りで燻っていた疼痛はもう消えている。代わりに、彼のモノに意識が回り、きゅんきゅんと下腹部にいやらしい欲が滲んできた。
「ぁ、は……あ」ラムズの腕を掴み、上目遣いに見上げる。熱っぽい吐息が零れる「これ、で……おわり?」
「あー……」
 ラムズは視線を揺らしたあと、首を傾げ、悪戯げに言った。
「もう少ししよっか。せっかくだから」
 私の腰を掴むと、ぐぃと自分のほうへ引き寄せた。
「ぁ!? ぁん、ッ……! やぁ!」
 彼はくつくつと笑い、形を植え込むように重たくゆっくりとしたストロークをした。襞がぐちゅぐちゅと絡みついて引き摺られていく。とめどなく溢れる愛液がいっしょに擦れ、重厚感のある悦が重く全身を揺らす。
「ぁ、は、ぁ! や、ぁ……ん、あぁ。は、ぁ……」
 内側をなぞり、すぅと引き、ズンっと奥へ穿ち押し付ける。子宮口を何度か欲棒が擦り、掻き、でもすぐに引いて襞を愛撫するほうに変わってしまう。ナカが痙攣して、重圧的な抜き差しに体が虜になった。
「ぁ……あ! はぁ、あ。やぁ、ら。らむ……ね、あッ」
「ジュアナ」
 彼の声は変わらず美しいままで、目がとろんと落ちていく。甘ったるい欲感が下腹部を刺激し、容赦なく体を突き上げる。じゅるじゅると肉杭が壷を擦り、全身が快で蹂躙されたようにおかしくなっていく。
「め。だ、ぁ……だ。め。やッ……あ」
 おかしくなっちゃう。壊れちゃう、だから、だめ。やめて。必死に目で訴えようとしても、すぐに視界が蕩け口からは甘露に埋まる嬌声が落ちるばかりだ。
 ラムズは顎を掴み、ちゅうと音を立ててキスをした。噛み付くように唇を当て、角度を変えて何度もキスの雨を降らせる。息も声も出せない。彼が全部呑み込んで、体が苦しいのと気持ちいいのでいっぱいになった。
 ずっちゅ、ずっちゅといやらしい音が聞こえる。途中で引き潮のごとく抜かれると、すぐに混濁した劣情を連れて体を嬲る。ぐりぐりと奥を擦られ、津波のような快美に目を白黒させた。
「ッ! っは! ぁ……! んんん────ッ!」
 漏れだした喜悦の声は、最後彼に塞がれた。体が壊れるみたく痙攣し、洪大な絶頂に意識が持っていかれる。甘美な疼きを湛えた倦怠感が一気に襲い、肩で息をして逸る鼓動を抑えつける。
 ラムズはキスをやめると、体を起こし一物を引き抜いた。じゅる、と愛液が這いなぞり、その感覚にさえぴくぴくと膣がうごめく。二人の体をまとめて浄化魔法で洗うと、彼は寝台から降り、私の手首を取った。
「い?」
 血を取るつもりなのだろう。朧気な視界の中、なんとか首を振った。彼は長く伸ばした爪で傷を付けると、滲んだ血の塊を雫のように固めた。彼の掌の上で浮いた三滴は、ラムズといっしょに部屋を出ていった。

 体を動かす気配に意識が戻った。いつの間にか気絶していたらしい。目を開けば、さっき出ていったと思ったラムズが私を抱きしめていた。
「契約書、は?」
「間に合ったよ」
 不意に嫌なことを思い出し、小さな声で尋ねた。「……王を……殺した件は、どうなるの?」
「なんとかする」
「なんとか……。どうするの?」
「俺が殺したことにする」
「……国に追われるわよ?」
「それがいちばん手っ取り早い」詳細を待つ私に気づいたのか、彼は言葉を続けた。「侮辱されて腹が立ったとか、てきとうに言っておくよ。あいつらに俺は殺せねえし、敵が一人や二人増えたところで変わらん」
「……一人というか、一国、だと思うけれど」彼はくつくつと笑った。「まぁ酷いことを言われていたものね。やっぱり怒っていたの?」
「え?」彼は本気でわからないという顔をしたが、すぐに思い出したように頷いた。「あれか。いや、そもそも気にしてねえ」
「そうなの? 謝っていたわよね」
「よく見てるな」嫌でもそれは体に染みついていることだ。彼は続ける。「あの場が収まるなら謝るくらいどうということもねえだろ」
「……そう、なのね」
 ラムズはどこか支配的な人のように見えたし、誰かの上に立つような人物だと思っていた。でも、たしかに私に対しても必要以上に高圧的な態度を取るというわけではなかった。
「私の罪を……被ってくれるのね」そっと顔を上げる。「でも、いくら貴方にでも無実の罪を着せるのは──」
 体を引き寄せ、ラムズは優しく答える。「安心して。これも俺のためで、宝石のためだから。ジュアナのためじゃねえよ。お前のせいにするほうが俺にとって都合が悪いだけ」
「……そう」
 彼がそう言うのなら、そうなのかもしれない。ラムズの鼓動が聞こえる。規則的な音が心を穏やかにさせる。
「もう終わったでしょ? こんなふうに……しなくていいから」
「抱いた女の子を放っておくほど非情じゃねえよ」
「その基準、よくわからないわ」
 しばらくのあいだ、彼の胸に耳を傾けていた。あまりそれ以外のことは考えないようにして、むしろさっきの行為を思い出していた。
「ねぇ。私……ちゃんとできてた?」
「ちゃんと? 何が?」
「えっと……」彼の胸の中で小さく手を握る。「いろいろ、困らせたかなって。変じゃなかった? 大変だった?」
「お人好しだな。困らせるのは別にいいし──、大変ではなかったよ」
「そう……」
 なんとはなしに自分の秘部へ手を伸ばした。洗ってくれたというのもそうだけれど、彼が精を吐きだしていたような感覚がなかった。私に気を使ったのかな。正直ここまできたら、どっちでもよかったのに。
「なんで……出さなかった、の?」
「出してほしかった?」
「そうじゃなくて……。ふつうはその、出すものなんでしょう」
 男たちがそれで汚したいとか、かけたいとか、そんなことを言っていたのを思い出した。不快な気分になって、顔を胸に埋めた。
「俺のはあってないようなものだから。それに、それが目的でしてないだろ」
「……ん、うん」
「余計なこと心配すんな。十分背負ってるんだから」
 貴方のせいで背負うものが多くなったのに。睨むように上を向くと、悪びれのない顔で笑うのが見えた。
「腹は? 喉乾いた?」
「え……。喉は乾いてる、かな」
 また血を飲みに行かないといけない。そう思って顔を曇らせると、彼に顎を掴まれた。形のいい唇が迫り、咄嗟に目を閉じる。
 食むように唇を覆うと、首の後ろに手を回し冷たい液体を流し込んだ。
「ん、ッ、あ……ん」
 思わずごくりと喉に通した。唾液にしては水っぽく滑らかで、まったく癖のない液体だ。彼は絶え間なく私にそれを流し、されるがまますべて飲み込んだ。
 しばらくして胸を叩くと、ラムズが体を離した。
「……それ、なに?」
「体液なら飲めんだろ」
 微妙な気持ちになりながら顔を胸に擦りつけた。
「喉はマシになった?」
「……ま、まぁ」
「血飲む?」
「でも、他の人の……」
 今更貴方のは嫌だとこだわる必要はないような気がしたけれど、|体《てい》だけでも断りたい。彼はわざとらしい棒読みで答える。
「俺疲れちゃったから、今日は出かけたくない。俺ので我慢して」
「……ん。うん……」
 彼は頭を撫でると、自分の胸に爪で真っ直ぐの線を引いた。がっと下側の皮膚を引っ張れば、白百合の肌の中でグロテスクな肉壁が現れる。鮮やかな血が溢れていく。口を近づけ、いつかぶりの彼の血を舐めた。啜るようにじゅる、じゅると音を立てて口に入れる。
「なんか……甘い」
 ぺろぺろと舌でなぞっても、彼は擽ったそうにしない。甘くどろりとした液体が流れ込む。血の味というよりは蜂蜜のようで、少し美味しい感じがする。
 ひとしきり飲み終わると、彼はまたまとめて浄化魔法で洗った。顔を上げ、なんとはなしに彼の耳についたピアスへ手を伸ばす。彼は少し身を引き、小さく眉を顰めた。
「触っちゃだめ」
「どうして? 悪さすると思ってる?」
「いや……手垢が付くだろ」
「手垢。貴方のもついてるじゃない」
「俺は垢なんてねえから」
「……へぇ。そうですか」
 手を引っ込めて、不機嫌そうに頬を膨らませた。髪を撫でられる。
「触らせないのは誰にでもそうだから。怒らないで」
「怒ってないわ。そういうフリしただけ」
「かわいくねえやつ」
 彼は笑ってそう言うと、また強く体をかき抱いた。私に合わせてくれているのか、上半身はラムズも服を着ていなかった。布団を肩の上まで引っ張り覆ってくれる。
「このまま寝るの?」
「疲れたろ」
「……まぁ。貴方と寝るなんてい」
 最後まで言い切らないうちに、唇で蓋をされる。「まあそう言わずに」
「そうやってキスするの、やめてよね。許してないわ」
「お前に許されなくても勝手にやる」
「どうして」
「挨拶みたいなもんだろ」
 唇にするのは違うわ。
 彼は本当に腕を放す気がないらしく、仕方なく私はそのまま目を瞑った。柔らかな香りが心地よく、本当に好きな匂いだった。なんの香水だろう。明日起きたら聞いて、今度取り寄せてもらおう────。

 次の日目が覚めると、まだ彼の腕の中にいることに気づいた。体に回されていた左腕を剥がし起き上がろうとすると、腰を引き寄せられた。
「どこ行くの」
「……ん、いや。うがい、したいし」
「あの血で?」
 水を使うことはできなかった。むしろ息が臭くなるのだ。だから保管してあるボトルの血で洗っていた。しないよりマシというだけで、私もこのやり方を気に入ってるわけじゃない。
 彼は後ろから抱きしめたまま、右の爪で自分の左手首を切った。
「はい」
 手首を口元に寄せられ、仕方なく血を舐める。甘いのも嫌なのにな、と思ったのに、今日は甘くなかった。最初に味わったのと同じ、ほとんど水のような味、感触がする。口を離すと全身が魔法の水に浸された。すぐに消えて体がさっぱりとする。浄化魔法を使ってくれたらしい。振り返って彼を見れば、たしかにラムズは昨日とまったく変わらない容姿をしていた。本当に汚れとか……汗とか、かかないのかしら。
 ラムズは私の背に腕を回し、そのまま自分のほうへ近づけた。「もう少し寝かせて」
「嫌」
「知らねえ」
 私が抵抗すると彼の体のほうから魔法のツタが現れ、腕以外でも固定された。こんなことにも魔法を使うなんて、魔力がもったいない。
 呆れながら見上げても、ラムズは目を瞑っているみたいだった。長い銀の睫毛が美しい。きめ細かい肌は毛穴のひとつも見当たらず、雪を塗りこんだみたいに綺麗だった。
 頬をなぞる。こんなにいい顔をしているのに、どうして悪い人になっちゃったんだろう。滑らかな肌触りが癖になって、するすると指で摩った。首筋まで手を移動させ、そのあと少し体を浮かせ耳のそばに顔を寄せた。首筋の肌に噛み付く。彼が私の背中を撫で、吸いやすいように頭を近づけた。
 思い切り噛み付けば皮膚が裂け、血が流れはじめる。無駄な味のない血は彼と同じ澄んだ海みたいだった。