入隊試験とブラックトリガー(小貫)
(どうして、こんなことになったんだろうなぁ……)
小貫は、自分に向けられる鋭い視線と、申し訳なさそうな視線とに囲まれて、すっかり萎縮してしまった。誓って、なにも悪いことはしていないし、相手もまた、小貫が罪を犯したと思っているわけでもないのだが、こうずっと見られていては身動ぎもしづらい。小貫が耐えかねてちらりと一緒に来た火呑を見ると、火呑も居心地が悪そうに頬を掻いていた。
「その、本当に、ごめんなさい……」
そう小声で言うのは、ちょうど先程知り合ったばかりの少女だ。小貫は名前も知らない、ちょっと声をかけただけの彼女のために、この場所へ来たのである。
事の発端は、小貫と火呑が、新しく入隊したC級の様子を見に行ったことだった。
今のB級にはまだチームを組んでいない隊員は殆ど居ないから、自分達のチームに加わってくれそうな人を探したい。まだ専属のオペレーターもいない、単なる二人組だった小貫と火呑は、そういう目的でC級のブースを訪れた。
とんでもない秀才でなくていい。順調にB級になるくらい、欲を言えば、バムスターーを1分と少しで倒せるくらいだと嬉しい。そんな中に、もし自分達を気に入ってくれる人が居たら。二人が淡い期待を持って部屋に入ったところに、ちょうど突撃銃を持ちバムスターを睨んでいたのが、後に有馬紫苑と名乗る少女だった。
まだ中学生程の華奢な体には、突撃銃は大きすぎる。身の半分もあるような銃身を抱えつつ、どう体制を取っているのか、その体はピクリとも揺れなかった。
やがてタイマーのボタンが押されると、バムスターがその大きな体をもたげて、覆い被さるように傾いた。B級なら誰でも倒せるバムスターの動きはとても散漫だが、真下に立つと途轍もなく強大に見える。
どう動くのだろう、小貫が彼女を見詰めていると、思いがけず、その体躯が素早くサイドへと跳ねた。
体を反転させながら取り回し辛そうに銃口を相手の目に向け、引き金を引く。小貫には、それが外れると分かったが、彼女もすぐ分かったようで、数発外して、もう一度構え直した。
(……当たる)
飛び出た弾丸が全て吸い込まれるように1ヶ所に集まり、弱点である目に命中する。大きなダメージを受けたバムスターは、弓なりにのけ反ってそのまま倒れ、沈黙した。
「8.34秒」
「すごいな!」
試験官役の東と火呑が驚きの声をあげたのはほぼ同時だった。火呑は口笛を吹いて、小貫に向き直る。
「10秒切るっていうと、木虎とか緑川とかと同じくらいか」
「ですね。ああいう子がA級に行くんだろうなあ……」
同じC級隊員に囲まれる紫苑の姿を見て、小貫は自分があの場に立っていたときの事を思い出した。いつも持っている竹刀とは違った重さ、体の軽さへの違和感と緊張で、1歩目から転けてしまったのだ。倒れる小貫に上から襲い掛かってくるバムスターの攻撃を急いで避けたのは、まだほんの数ヵ月前の話でしかない。
「ちょっとしたら、声掛けてみるか」
火呑にそう問われて、小貫は内心、どうしようかと思う。正直、このままA級の隊に誘われるか、新しい隊の隊長になるだろう彼女を、気軽に誘っても良いものか。だが、銃を持っていることもあり、彼女ならすぐB級に来るだろうという期待もあり、結局、小貫は頷くことにした。
話し掛けてみた紫苑は、自分の力に強い自信を持っているが優しさもある、年相応の少女であった。これはどの隊員にも言える事だが、突撃銃を持たない紫苑は、ありふれた女の子にしか見えない。
「一回外してからの修正が、すごく早かった。すごいね」
小貫が遠慮がちに言った言葉に、紫苑は当然だ、という風に頷き、しかし不満げに顔をしかめて見せた。
「本当は、一発目で当てるつもりだったんです。それが、ふらついてしまったから…… 次は絶対、一撃で仕留めます」
袖を握り締めて語る紫苑に、火呑は口 角をあげて笑った。
「って言っても、10秒切りならB級隊員にだって勝てるぜ。今季の新人王はこれで決まりかもな」
その言葉に、紫苑もまた小さく笑う。
「それは当然です。だって私は、父のブックトリガーですからね! このぐらいは楽勝ですよ」