鈍感な彼へ気持ちを伝える方法

もんもんと処理しきれない気持ちを抱えながら、事務所の階段をリズミカルに上がっていく
担当アイドルとの待ち合わせ時間には随分と余裕があるけれど、それまで事務所で山村くんにでも相手をしてもらって気持ちを落ち着かせようという狙いもあった
とにかく仕事の時間までに少しでも冷静にならなくてはと考えながら、冷えた事務所の扉を開いて通いなれた職場へ足を踏み入れる

「おはようごさいまーす」
「おはようございます。プロデューサーさんも早いですね〜」
「うん、ちょっとね…?」

昼間だろうと夕方だろうと「おはようございます」の業界挨拶をお互いに返しながら、事務員の山村くんから気になる言葉を聞いた
『も』ということは、もしかして誰か既に来ていたり?
少しの期待を込めながら事務所内でアイドルの待機場所、たまり場と化している待合室へ顔を覗かせてみれば
何かゲーム機をカチャカチャ操作している担当アイドルの鷹城恭二がそこにいた

「恭二、おはよう。はやいね」
「ん。プロデューサーか…はよう。家でゲームしてると時間忘れて遅れそうだったから」
「なるほど…」

会話をしながらも、ゲーム画面から目を離さない恭二をみて
確かにこの集中の仕方なら時間を忘れてプレイしていそうだと恭二の判断に納得する
でも折角担当アイドルがいるのなら、何かインタビュ−やサイン等してもらえる仕事はなかったかな、なんて手持ちの仕事を思い返していると
ゲームがひと段落ついたのか、こちらへ視線を向けて意地悪く笑った恭二から内心をつく一言を投げれる

「みのりさんじゃなくて、残念だったな」
「…………………」

恭二の一言にわかりやすく全部の機能を停止させて、固まってしまった
そんな私の反応に、彼も慌てたのか気まずげに頭に手をやりながら

「別に…誰かに言ったりするつもりないし。反対とかもしてないからな?ちょっと、からかっただけ…」

なんて可愛らしい事を言ってくれる
そんな恭二の言葉を受けて、私のみのりさんへの気持ちを知られた!だとかプロデューサーが担当アイドルへそういう気持ちを持っているなんて申し訳ない!だとかそう考えるより何より

「私がみのりさんをそういう風に好きってやっぱりわかりやすいよね」

だった
私の問いかけに、そんな返答が来ると思わなかっただろう恭二が端整な顔立ちを歪ませながら「はあ?」なんて返してくる
それアイドルの時にやったら怒ろうだとか内心考えつつ、ずっと胸のうちに燻っていたものが我慢できず垂れ流される

「自分でもさ〜隠しておかなきゃとかは思ってたんだけど、ど〜しても無理でさ〜。これ絶対にバレてるなーとは思ってたりしたんだけど」
「……まあ、アンタ全部顔にでるから。現場の人とかはともかく俺はみのりさんと同じグループだし、分かるだろ」
「そうでしょう?わかるでしょう?」

こういう話の苦手そうな恭二は、気まずげに視線を彷徨わせながら居心地悪そうにしている
申し訳ないと思いつつ腰をすえて話を聞いてもらおうと私も応接間の椅子に腰掛けながら恭二のほうへ身を乗り出す
我ながら隠し事、特に気持ちなんかを隠すのは苦手なほうだという自覚もある
仕事上の一瞬の嫌悪感やら上がりすぎたテンションをおさえるだとかは何とかなるものの、こと恋愛上の好意だとかを隠すのがめっぽう下手くそでどうしようもない
過去、好きになった人には片っ端から気持ちがバレて進展したり後退したりを繰り返してきたわけだけれど

「……みのりさん、私の気持ちわかってない気がする」
「…いや…それは……………」

恭二が何かを思い出すように視線を上に流したと思うと、口もとに手をあててじっくりとみのりさんの行動言動を吟味し始める
彼とおそらく一番行動を共にして仲も良い恭二の言葉なら信憑性があるだろうと私も恭二の見解を黙して待つ

「………有り得る…かも」
「でしょう!?」

難しい顔をして、メンバー内バレしている私の気持ちを当の本人であるみのりさんだけ局地的に気がついていない可能性に同意を得る
未だに何か唸りながらも「あの人、天然はいってるからな」と呟く恭二に首を縦に振る
そのふわふわした所も、キュンとくるのだけど今はとりあえず置いておいて

「まあ、気づかれてないなら良かったな」
「よーくーなーい〜〜」
「うわ、なに、何だよ」
「何も良くない!ここからが本題だから!私の気持ちがバレてないのはいい。それは置いておいて」

もう話を終わらせたいという体の恭二の肩に手を置いて揺さぶりながら、何とか話を聞いてもらう
聞いては貰いたいけれど、なんと言ったらいいのか迷いモゴモゴと言いよどみながら何とか現状を説明しようと口をひらく

「………あの、みのりさんて…こう、私に好意的でしょ?」
「…プロデューサーってだけじゃなくて、って事か?」
「あー〜………うん、そう」

自意識過剰な事を言っているのは解るから、思わず顔が赤くなる
勘違いならここで恭二にバッサリと切られて恥ずかしい思いをしてこの話を終えれば良い
このまま悶々としながら仕事を続けるよりも一瞬恥ずかしさに身悶えるだけのほうがよっぽどいい、はず
恭二からの死刑宣告をじっと待っている私の耳に届いたのは、彼の至極アッサリとした言葉だった

「何だ。気づいてたのか」
「ん!?」
「プロデューサーも気がついてないのかと思ってた」
「え?……私の勘違いとかじゃなく…?」
「いや、プロデューサーもだけど、みのりさんも大分わかりやすいだろ」

結構露骨だしとゲーム画面に視線を戻しながら、興味薄そうにそういう恭二
恭二に興味がなくとも私には正直大惨事で
いよいよ現状が行き詰っている事を確定されてしまった
ゲームを再開しようとしている恭二の腕をガシリと掴んで、藁にも縋る思いで目の前の美形に縋りつく

「みのりさんへのアプローチ方法教えてください!」
「…うそだろ……」

面倒くさい事に巻き込まれたと感づいた恭二がガクリとうな垂れる
可哀想に思うけれど、もう恭二しか頼れる相手がいない現状で逃がしてはあげられない
恭二も気がつく程にわかりやすい好意を示していた私と、私でも気がつく程に好意を示してくれているみのりさん
正直、みのりさん側がどういうつもりなのかが解らず、わかりやすいはずのこちらの気持ちも伝わっておらず、どうにも一歩踏み出せない

「…告白でもしたらいいんじゃないのか」
「告白とかしちゃってそういうつもりじゃなかったって言われたらお互いに気まず過ぎるよ〜!下手したら担当変え案件になっちゃうからそれが一番嫌なんだってばー!」
「まあ…それは俺も困るけど」

みのりさんが、私とどうこうなるつもりが全くないのであれば、現状維持が一番だろう
それを勘違いした私が踏み越えてしまったなら、一緒に頑張ってきたBeitから離れなければならなくなる
それがとにかく一番嫌だと頭を抱えた私を見ながら、恭二から可愛い事を言われた
思わず抱えていた頭を上げて「あら」とこみ上げる嬉しさを我慢できずに顔に出してしまえば、無意識の一言だったらしい恭二がハッと自分の発言に気がついて「ピエールも、寂しがるし。何て説明したらいいか困る!」と少し赤くなった顔をそらされてしまった
恭二のこういう不器用さもファンの心をひきつける魅力だなあと再確認しつつ、ならどうしたらいいかと提案を口に出す

「だから、こう…遠まわしにみのりさんに私の気持ちに気づいて貰えれば。みのりさん側からの何かしらのアクションで、こっちも対応変えられるかなと」
「……めちゃくちゃ面倒くさいこと考えるなアンタ」
「ハイ、自覚はあります…」
「あのみのりさんに遠まわしに気づかせるって、難易度高すぎだろ」
「…だからもう私1人では限界で…」

目の前の美形に呆れらて、身を小さくする
正直私とみのりさんの2人で話し合えば済むような気もするけれど。あまりとりたい手段ではないから、それは最後の最後にしておきたい
恭二を巻き込んで申し訳ないとは思うけれど、何とか知恵を拝借できれば。なんて期待をこめて「お願い!」と両手をあわせて懇願する
しばらく唸っていた恭二だけれど、ふか〜くため息を吐いた後に渋々ながら了承の返事をくれた

「やったー!ありがとう、恭二!!」
「ただし、俺は責任持たない。どうなったって知らないからな!」
「大丈夫大丈夫、さすがにそこまで求めてないから」
「…本当だろうなぁ……」
「よろしくお願いします。恭二先生」
「先生はやめてくれ。はあ……なんで俺がこんな事」
「あはは〜」

担当アイドルに余計な悩みを植え付けた悪いプロデューサーで申し訳ない
思わず笑ってその場を誤魔化しながら、恭二にお詫びとして今度何か差し入れさせてもらおうと思う
なんて恭二とわちゃわちゃしている所へ、噂の本人が到着したらしく事務所の入り口から挨拶する声が聞こえてきた

「おはよう、プロデューサー、恭二。2人ともすごく早いね」
「おはよう、みのりさん」
「お、おはようございますっ」

きらきらした笑顔のみのりさんに挨拶されるだけで、胸がドキドキと早鐘をうって落ち着かない
穏やかな物腰も少し高めの落ち着いた声も、花に対する優しさも全部全部ステキで気持ちが体の許容量を越えてしまいそうだ
わたわたと落ち着かない態度の私を、みのりさんが何か眩しいように目を細めて微笑みながら見てくるものだから
もう私の心臓がギュウと絞られたように苦しくなる
自分の心臓と格闘している私へ、みのりさんの綺麗な指が伸ばされてきた
彼の指が私の頬にかかっていた髪の毛をそっと耳にかける
耳に触れたみのりさんの指先に驚いて、思わず顔を上げると目の前にみのりさんがいて予想外の近さに眩暈がしてくる

「ああ、やっぱり。ピアスが花の形だね……可愛い」
「あ、あの……みのりさんぽいなと思ってこの間買っちゃって」

目の前で微笑まれ、ほぼ熱に浮かされながらポロリとこぼれた本音に1拍遅れてハッとしたものの
これは遠まわしなアプローチになるのではと、視線の端で恭二先生を探る、恭二も同じ考えだったのか私の視線をうけて一つ頷く仕草で応えてくれた
さあどうだ!と祈るような気持ちで目の前の想い人を見上げてみる

「え?俺のこと考えてつけれくれたんだ。流石プロデューサーだなぁ、ありがとう」

こちらの思惑とは全く違う。プロデューサーとして担当アイドルの事を考えた行動だと受け取られてしまった
全くいつも通りのステキな笑顔のみのりさんに、何か空振りをした気持ちを味わいながら何とか「いえ…」と言葉だけは返した
顔を出した山村くんと、何事か話に行ってしまったみのりさんの背中を見つめながら
恭二と2人で小さく話し合う

「…解ってたけど、かなり重度の鈍感だな」
「……もう、どうしたらいいか」
「…ハァ、俺も色々考えてみるから。アンタも頑張れ」
「きょうじ〜〜」
「俺になつくな」

先生に素気無く振られながらも、何とか協力は得られた
但し、想い人は超度級といえそうな程に鈍感で、遠まわしにアピールなんて気がついてもらえる日がくるのか怪しい所

「2人とも、仲良いね」

それでも、ほわほわと花を飛ばしながら笑うこの人に心臓を持っていかれているのだから、何とか頑張るしかない

「私、頑張ります!」
「?、うん、今日もよろしくね」

いつか、みのりさんが私の気持ちに気がついてくれる日に向けて私は両手を強く握り締めた

「……全然かみ合ってない…」

恭二は呆れていた
頼りになる先生もついてるし、なんとかなる!多分!