お休みの午後は

カーテンの開け放たれている窓から陽射しが降り注ぐ、早い午後の時間
みのりくんの趣味で部屋にはかなりの観葉植物がおいてあり、その植物たちのために日の入る部屋を選んだと以前聞いた事がある
そのお蔭で冬でもあたたかな陽射しの差し込むこの家はカーテンを開け放っておくだけで、かなりあたたかく気持ちが良い
お互いにようやく休みがあった今日、どこかに出かけようかと考えはしたものの
仕事疲れや諸々により外出はやめにしてゆっくりと過ごそうと決めて、部屋でゆっくりと過ごしている
みのりくんはとりためたものを消化したいとさっきからテレビに張り付いているし、私は曇りの気になっていたシルバーのアクセサリーを磨いていた
そんな風に過ごしながら、ふと冷蔵庫の中身が心もとないことを思い出す

もう少ししたら2人で買出しに出かけるのもいいかもしれない
こちらに背中を向けてテレビに集中しているらしいみのりくんへ声をかけようと視線をあげると
みのりくんはリモコンを操作して録画を一時停止した所だった
一度テレビに張り付くと中々離れない彼が珍しいこともあるものだと、思わずかけようとした声を飲み込んだ
どうするのかと見ていると、みのりくんはそのままソファの上で横になったらしい
私の視界にはソファの背もたれに沈んでしまった彼の姿は確認できないけれど、横に倒れていったまま起き上がってこないという事はそのまま昼寝コースなのだろうか?

「…みのりくん?」

もう寝入っていたら起こさないようにと、小声て名前を呼びかけながら彼が沈んでいったソファに近づいて背もたれの向こうを覗き込む
そこには陽射しを浴びながら健やかに眠っている彼の姿がある
背もたれに寄りかかってみのりくんの幸せそうな寝顔を見ながら、この陽気にあてられて眠気に勝てなかったのだろうと考える

「それにしても油断した顔で寝てるなぁ」

アイドルなだけあって、寝ている顔もそりゃあ綺麗なのだけれど
ただ目を閉じただけの姿と違って寝ているときの顔つきは少し幼げで油断しているように見える
それだから、ついこちらの悪戯心をくすぐるというか……
みのりくんの寝顔をひとしきり眺めながら、さてどうしようかと考えて

「いやいや、これでもいい年した大人ですから」

自重するようにそう呟いて
必要なものをとりに寝室へと向かった
私が時間を持て余しているときに無防備に寝ているのが悪いのでこうなるのは致し方のない事なのです

必要なものを手元にそろえて、ソファの正面側に回りこむ
ぐっすりと規則正しい寝息をたてているみのりくんは少し触ったくらいでは起きる事はなさそうだ

「うふふ」

わくわくして思わず笑い声が漏れてしまうけれど、そんな声を拾う人もいないので抑える必要もない
私は悪戯第一段階に取り掛かるべく、寝ている彼の耳に手を伸ばす

「ん、しょ」

みのりくんの耳についているピアスを外していく
外したピアスはなくさないようテーブルの上の目立つところに置き、代わりに私が普段使っている可愛らしいお花と植物モチーフのピアスをつけていく
ピアスをつけかえただけだけれど、可愛らしいモチーフのピアスだから雰囲気が変わって面白い
小さく笑いながらさて次からが少し大変だぞと気合いをいれて袖をまくりあげた

みのりくんが頭をあずけているクッションからなるべくそっと、頭の下敷きになっている髪の毛をぬていく
今日は髪をまとめていなかったから、思ったよりも簡単に髪を抜き出す事ができた

「さてここからが勝負」

思わずぺろりと唇を舐めあげながら、両手のひらにヘアワックスをなじませる
さすがにコテをつかったりは出来ないから私の技量が試される所だけれど
普段から客商売に従事する人間として、自分のヘアアレンジで磨いた私の腕前をとくと味合わせてみせる

鼻歌交じりに熟睡しているみのりくんの髪の毛を弄り倒し、納得のいく髪型にアレンジすることが出来た
渾身の出来に何枚も写真を撮り、画像を加工し、ここまでされても中々起きない彼の無防備さが可笑しいやら愛しいやらで
おかしくて1人でくすくす笑っていると、流石に弄り倒されて眠りが浅くなっていたのか彼の瞼が痙攣してゆっくりと開いていく
その様子をじっと眺めて、みのりくんが目を覚ますのを待つ

「おはよー」
「おはよ…?何してるのそんなとこで」
「うふふふふ」

自分の状況は理解できずとも、私が不思議に上機嫌なことにはすぐに気がついてこちらへ手を伸ばしてくる
彼の手をとって何も語らずにただにこにこと微笑んでいると、最初は不思議そうに見つめ返していただけ彼も
色々な不自然さに気がついたらしく、徐々にやられた、という顔をするのか可笑しくて思わず声をあげて笑ってしまった

「まったくも〜、俺いまどうなってるの?」
「ふふふふ、すっごく可愛くなっちゃってる」
「ええ?鏡は?」

も〜なんて言いながらソファから立ち上がって鏡を覗きにいくみのりくんを見送る
さて、どうやって叱られてしまうかしらなんてまた楽しい予感にくすくすとこみ上げる笑いが抑えられない

「うわー、何これどうなってるの俺の頭!?ピアスも可愛くなっちゃってるし、もー!」

鏡から振り返った彼にコラ!なんて甘く叱られたけど、困るよりも笑ってしまっている彼の表情が嬉しくて私まで笑ってしまう
みのりくんに謝って、髪をもどしてあげてから一緒に買い物に出かけようか
お詫びに途中で何か甘いものでもご馳走すると言ったらすぐに許してくれるかもしれない

まずは、わざと怒った表情をつくって近づいてくるみのりくんから逃げる為に立ち上がってから考えよう