SUPERNATURAL


jealous trap[2014C/D]


 
 空は沛然と泣き崩れ、雷が轟然と怒りを撒き散らす夜。理不尽な悲しみと怒りの捌け口にされた大地は、容赦のない攻撃に呻き声を上げていた。雨のカーテンで視界は遮られ、空の嗚咽が雑音を飲み込んでしまう。
 こんな日は、迂闊に出歩けない。
 否応なく室内に引きこもるしかないのだが、それは情事に耽るには最高の条件が揃っている事を意味している。

 どれだけ声を上げようと、雷雨が全ての音を喰らい尽くす。誰の耳にも届かない。

(――誰の邪魔も入らない)

 足先から這い上がってきた邪な痺れが、脊椎を舐め伝い脳にある命令を送る。ラジオから流れる情報では、悪天候は明後日まで続き、人類を苦しめると言っていた。

(明日は朝のミーティングは無かったな。天気の回復次第では食料調達に行くが、それまでは待機。時間はある……か)

 瞳を閉じて視界を封じれば、疼きが凶暴性を増す。今宵は特に飢えていた。
 乾いた身体が、快楽を欲している。
 求めているのは、細胞を一つ残らず貪られるような暴力的な快感。狂気染みた疼きを鎮める事が出来るのは、恐らくあの男だけだろう。

 重い腰を上げたディーンは、数本の骨が折れた傘を供に、豪雨の中に身を投じた。





* * *

「僕の勘も、まだまだ捨てたものじゃないな。リーダーが来そうな気がしたんだ。帰って来て良かったよ」

 突然の訪問を喜色満面で受け入れたのは、教祖と揶揄される男・カスティエル。
 髪の毛からは水滴が滴っているが、雨に濡れた訳ではなさそうだ。フロントの開いたジーンズのみを身に付け、首から下げたタオルがシャワー後だと教えている。

「あーあ、随分濡れちゃってるね。風邪引くといけないから、早く脱いだ方がいいよ」

「自分で脱ぐから、そのいやらしい手をどうにかしろ。おい止めろ、撫で回すな。殴られたいのか?」

「えー…僕の親切を無下にするのかい?」

 わざとらしく傷付いた顔をしながら、下心満載の手が服の下に潜り込む。ディーンの身体を舐め回す視線は粘着質で、まるで蛇の舌のように肌を這う。

 その気で来たのは認めるが、手放しでカスティエルに主導権を握らせるつもりはなかった。脇腹を撫でる手を掴んで離し、仲間内で冷淡だと囁かれる眼光で男を牽制する。

「そんな物は必要ない。どうせなら、タオルを寄越せ」

「はいはい、了解ですリーダー様。取って来るから、適当に寛いでてよ。身体が冷えてるだろうから、珈琲でも淹れてあげようか?」

 向けられた広い背中に、幾重にも描かれた紅い刻印。蔦のように所狭しと蔓延るのは、情事の熾烈さを語る爪痕だ。
 どうやらこの男、ディーンが来る迄に随分と楽しんだらしい。

 濡れて重いジャケットを脱ぎ捨ててからベッドに座り込み、無防備な背中を睨みつける。あの爪痕を残した女は、カスティエルが自分の物だとでも自慢したいのだろうか。どんな理由があるにせよ、不愉快だ。

「要らん。俺が来た目的は解ってるんだろ。前置きは必要ない、さっさと満足させろ」

「ムード無いなぁ。まぁ、いいけどさ」

 タオルで勝手に頭を拭き始めたカスティエルの手を払えば、即座にベッドへと押し倒される。馬乗りになった男は愉快そうにへらへらと笑っているが、ディーンの機嫌はスキージャンプ台のように下がる一方だ。

 タオルで隠されていた首筋。
 カスティエルの信者は、誰もが盲目的に彼を慕っている。今日の相手はその中でも、かなり独占欲が強い女だったのだろう。
 首筋に散らばった鬱血痕がとにかく目障りで、血が出るまで掻き毟ってやりたい。

「髪下ろしてるリーダーって新鮮だね。普段の君はセクシーだけど、今はとってもキュートだよ」

「黙れ。くだらな、ぅ、あっ…!?」

 言葉を遮るように、カスティエルの指が左胸の突起を摘まんだ。待ち望んでいた刺激に、ディーンの身体が歓喜で跳ねる。耐えられなかった声に気を良くしたのか、至近距離の蒼い眸が喜悦に歪む。
 布越しのもどかしい愛撫では、足りない。
 それが解っていて、カスティエルは敢えてこんな行動を取っているのだ。

「リーダー、キスしていい?」

「…っ、ぅ、勝手に、しろ…」

「うん。勝手にさせてもらうね」

 抵抗を封じる為に二の腕を掴まれて直ぐさま、噛み付くようなキスに見舞われる。僅かな隙間から忍び込んだ舌は熱く、ダイレクトに伝わる体臭にディーンの脳が酔う。
 閉じそうになる目蓋を必死で抉じ開けるのは、せめてもの抵抗だった。

「ん…っ、ぅ…」

 薬で加減が出来ないのか、腕に食い込む指の強さが尋常ではない。骨が嫌な音を立てて軋み、率直に痛いの一言に尽きる。

「ふ、ん、んぅ…」

 口を塞がれた上では文句も言えず、ディーンはカスティエルの腕を掴み返す。口付けの最中でも解るように、男がせせら笑った。
 
 絡め取られた舌を強く吸われ、ざらりとした突起物同士が擦れ合う。女とは違う雄々しい舌使いに、呼吸のリズムが容易く崩される。

「ん、ん…」

 カスティエルから絶え間なく流し込まれる唾液を、ディーンは何度も何度も喉を鳴らして飲み込んだ。それでも飲みきれなかった唾液は、口端から一筋の線となり頬を伝う。
 ぴちゃりと小さな水音が弾け、長く深い口付けから解放される。

「リーダーの唾液は甘くて美味しいね」

「っ、は……頭だけじゃなく、味覚までイカれたか」

「あれ、照れてる? 可愛いな〜」

 見せつけるように赤い舌を出したカスティエルは、唾液で濡れた己の唇を舐めた。耳障りな台詞を紡いだ声は欲に染まり、野獣のような眸でディーンを映す。

「優しく抱いてあげるよ、リーダー」

 甘く耳朶を食まれ、ねっとりとした息遣いで鼓膜が犯される。雷雨の勢いは衰える事なく、これから始まる行為を手助けするように激しさを増した。






* * *

灼熱の塊に貫かれたディーンは、喉元を晒して幾度目かの絶頂を迎えた。生理的な涙で膜の張られた視界の先には、嗜虐的な笑みを浮かべた嘘吐きが居る。
 息を整える暇もなく身体を蹂躙され、意識を失う事さえ許されない。
宛ら、獣の発情期だ。

「くっ、あっ、あああっ!」

 指先まで浸透した快感に身を沈め、ディーンは頭の下にある枕を握り締める。左右に大きく広げられた足の間では、カスティエルの腰が休む事なく動いていた。散々貫かれて弄ばれた秘部は、摩擦でジンジンと痛む。
 無許可で体内に出された体液は攪拌され、結合部分から流れ落ちてシーツを汚していた。

「うっあ、あっ…しつこ、い…うぁっ」

「ねぇリーダー、さっきまで何を怒ってたの? 教えて?」

「くぅっ…はっ、お前、には…ああっ、関係な、い…ひぃっ!」

 カスティエルが急に身を屈めたせいで結合が深くなり、中に収まったいたモノが前立腺を抉る。それでも物足りなかったのか、腰から下がベッドから引き離され、宙吊りのような体勢で情事が再開された。

「ひぐぅっ!」

「っ、は…いいね、今の声。中もすっごい締め付けてくるし、気持ちいいよ」

「か、はっ、苦し…っ、うああっ」

 頬へと流れた唾液を舐め取った男は、胸の飾りに噛み付きながら、乱暴に身体を揺する。視界が縦揺れになり、耐えられなかったディーンはカスティエルの背中に腕を回す。

「リーダーってマゾっ気あるよね。酷くされる方が興奮するの? もっと酷くしてあげようか?」

「うる、さ…あうぅっ」

「は…身体は正直だね、リーダー」

 荒い息が正面衝突し、どちらからともなく唇を重ねる。喘ぎ過ぎて乾燥した喉には、カスティエルの唾液でも救いの水だった。

「んっ、んぅっ…んんっ」

 それでも、主導権を握られているのは同じ男としてプライドが許さない。どうにか一矢報いる事は出来ないかと、朦朧とする頭で思考を巡らせる。何処までも余裕を見せる男に、ディーンがせめてもの仕返しとして選んだ方法。

「……っ!」

 刻まれていた爪痕が影を潜めるように、汗で滑る背中に思いきり爪を立てた。カスティエルにとっても予想外の行動だったのか、僅かな呻き声と共に腰の動きが止まる。

「…リーダー、流石に痛いよ」

「自、業自得だ…さっさと、イカせろ…っ」

「更に我が儘だもんな〜。でも、そこが最高に可愛いよ」

 背中に爪を立てれば痛いだけなのに、男は何処か嬉しそうに微笑む。
 それでも女が残した爪痕よりは、カスティエルの印象に深く残る筈だ。傷が癒える前に女を抱くのは目に見えている。
 その度に、この痛みを思い出せばいい。

「リーダーが僕に痕を残そうとするなんて、凄く興奮する。もっと引っ掻いてよ」

「ぐっ、あ! はあっ…あっ、キャ、ス…っ」

 首筋に肩を埋めたカスティエルが、仕返しとしてか肩口に歯を立てる。柔らかく甘い口調とは違い、肩を抉る歯の強さに身体が痙攣を起こす。欲しかったのは、狂気染みた疼きを鎮めてくれる快感。その疼きは治まりつつあるが、カスティエルの熱はまだまだ鎮火しそうになかった。



END

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