SUPERNATURAL


今日という素晴らしい日に


 
 夏の風が少し冷たさを帯び、秋の匂いを運び始める9月。何となく目にした新聞が教えた日付に、ディーンは自分がソワソワしている理由に気が付いた。

 今日は9月18日。
 何て事はない日だが、ディーンにとっては大きな意味を持つ。運命を変えたと言っても過言ではない。

 ポケットに入れていた携帯電話を取り出したディーンは、通話の履歴を調べた。目的の人物と最後に電話をしたのは、もう一週間も前になる。
 天使様はきっと忙しいのだろう。

 そう思って連絡を控えていたディーンだが、一度認識してしまうと駄目だった。
 無性にカスティエルの声が聞きたい。
 鼓膜の奥に突き刺さる、芯の通った魅力的な低い声を。
 しかも面倒な事に、今直ぐに。

(……掛けて、みるか? でも、何て言えばいい? 声が聴きたいからなんて、ガキの言い訳だ)

 胸の中で大きく膨れ上がる不満に、ディーンは鳴らない携帯電話を睨み付けた。故障でもしていない限り、電話が鳴らないのは携帯電話の所為ではない。

 カスティエルにも事情がある。
 それでも行き場のない不満を、どうにか吐き出したいのだ。

(……止めた。何で俺が、こんなに悩まなきゃならねぇんだ)

 小さな溜め息を溢したディーンは、女々しい自分を否定するようにベッドへとダイブした。右手にはしっかりと携帯電話を握ったままなのが、未練がましさを物語っている。

 枕に顔を沈めて目を閉じても、都合よく眠気が襲ってくる訳もない。

「……一週間も連絡しないなんて、アイツ何してんだ? 俺に電話する暇もないくらい忙しいのかよ」

 静かな部屋で帰ってくる声はなく、溜め息や愚痴だけがディーンの口から溢れた。翡翠の瞳は切なく揺らぎ、拗ねたように尖らせた唇はネガティブな息を吐き出す。

「なぁ、何処にいるんだよ?」

 こんなに会いたいのに。
 ディーンが深い溜め息を枕に染み込ませると、何故かベッドが軽くバウンドする。この沈み方は、人が乗った重さだ。
 しかし部屋にいるのはディーンだけ。
 サムはボビーの呼び出しで別行動を取っている為に、合流は明日の予定だ。

 ならば、答えは一つしかない。

「──キャスっ!?」

 まさかと枕から顔を上げて振り返ると、願い通りの人物が足元に腰かけている。
 いつの間に現れた何て、無駄な問いはしない。相手は破天荒な天使様だ。

「おま、なっ……!?」

 無表情で此方を眺めていたカスティエルがゆったりと立ち上がり、ベッドへと乗り上げてくる。

「やぁ、ディーン。私を呼んだか?」

 慌てて起き上がろうとしたディーンだったが、相手の方が早かった。覆い被さってきたカスティエルに両手を優しくベッドへと縫い付けられ、負担にならない程度で体重をかけられる。

「うぉっ、ちょっと待て!!」

 この体勢はヤバイ。
 直感が逃げろと命令しているが、穏やかに両手を封じられて思うように動けない。背中に乗ってきたカスティエルに、足の行動範囲も制限されてしまった。
 残された攻撃方法は頭突きだけ。

「質問に答えてくれ。呼んだだろう?」

 カスティエルの薄い唇が、耳の表面を掠る。聞きたいと焦がれた声は、熱い息と一緒にディーンの右耳に吹き込まれた。
 どうやら天使を欲していたのは、心だけでなく身体も同じだったらしい。

「っ、呼んだ、けど……。この体勢はないだろ…!! 重い、退けって……!!」

 鼓膜に捩じ込んできた声は、ディーンの背筋に甘い痺れを這い上がらせる。続け様に耳朶を甘噛みされてしまい、重ねられた手をブルブルと震わせた。

 百戦錬磨のディーンでも、カスティエルが相手だと実力を発揮出来ない。

「ずっと君の声が聞きたかった。君の体温や香りが恋しくて。気が狂うという意味を、この身で知った」

「ゃ、あ……っ、キャス……」

「どうしようもなく、ディーンが欲しい」

 欲望を隠さない直球の台詞に、ディーンの頬が白桃のように色付いた。普段のぼんやりとした姿からは想像出来ない、カスティエルの獰猛な一面が滲み出ている。

「一週間も、放置したくせに……っ。急に現れたかと思えば、この馬鹿天使…っ」

 内側から胸を打つ鼓動が煩い。
 行為を重ねれば重ねる程に、カスティエルに染められていく身体が憎らしかった。
 首を捻って顔を合わせれば、怒られているのに嬉しそうな天使と対面する。

「一週間……確かにそうだな。ディーンの言う事は尤もだ。私は君に償わなければならない」

 重ねられた手が離れると、背中に張り付いていた重力も薄れていく。カスティエルが次に取る行動が読めてしまったディーンは、渋々と仰向けになった。
 
 唇を噛んでキッと睨み上げたのだが、額に押し当てられた乾燥した熱に毒気を抜かれる。

「一週間分の埋め合わせをしたい。それにはディーンの許可が必要だ。同意してくれるな?」

「……埋め合わせって、何する気だよ?」

「言葉で説明するより、実践した方が無駄がなくて済む。百聞は一見に如かず、だ」

「ま、待て!! 俺はまだ許可して……!?」

 流されるのも悪くないが、カスティエルに主導権を握られているのは気に入らない。なのに急くように背中と後頭部に回された腕に抱き締められ、選択肢を奪い取るかの如く唇を重ねられてしまった。

「ん、ぅ……んっ」

 カスティエルの両肩を押し返して抵抗するディーンだが、無遠慮な長い舌の侵入でそれも儘ならなくなる。季節感の欠片もないトレンチコートに爪を立てるが、天使の暴走は止められなかった。
 角度を変えては、容赦なく舌を絡め取られてしまう。

「ふっ、ん……っ、あ……」

 逃げれば追いかけられる。
 逃げても捕まえられる。
 まるで鬼ごっこのような激しいキスに翻弄されるしかなく、ディーンの厚い唇の隙間から溢れた唾液が頬へと流れた。

「……ふは…っ、お前…急すぎ……」

 頬を汚す唾液を舐め取られ、ざらついた舌の感触に身震いする。キスが合図になった身体は、緩やかに火照り始めた。
 シャツの中へと忍び込んできたカスティエルの手に、嫌でも期待してしまう。

(……でも、まだ駄目だ。まだ、大事な事を聞いてない)

 浅ましくも興奮で逸る心臓を黙らせたディーンは、天使の澄んだアイスブルーの瞳をじっと見上げる。空気を読むスキルを身に付けたカスティエルは、頭や頬を柔らかく撫でながら待っていた。

 今でこそ優しい色で塗られた瞳だが、出会ったばかりの頃は機械のように冷たかった。人間を蔑む天使らしい、感情の欠落した無情な瞳。

「なぁ、今日何の日か知ってるか?」

 思い出に浸ってしまったのは、やはりディーンにとって今日が特別な日だからだ。カスティエルが現れたのが偶然でも、会いに来てくれたのは素直に嬉しい。

 些細な事が喜びに結び付く程に、この守護天使が好きなのだ。気の置けない友人として、運命を共にしてくれた仲間として。
 そして何より、愛しい恋人として。

「君は……」

 一言だけ声を落としたカスティエルに、触れるだけのキスを贈られる。時間の概念も曖昧な天使だから、知らない可能性の方が高いと踏んでいた。
 その時は、教えればいい。
 今日は二人にとって大切な日だと。

「覚えていてくれたんだな、ディーン。今日が君に出逢った日だと。だから、どうしても君に会う必要があった」

 カスティエルには珍しく矢継ぎ早に投げられる言葉に、ディーンは目を剥いて驚くしかなかった。

「キャス、お前……知って、たのか?」

「無論だ。私に本当の存在理由を与え、自我を持つ素晴らしさを教えてくれた。君と出逢えた運命の日を、忘れる筈がない」

 細められた蒼い瞳の揺れが、嬉しさを。
 隆起した声の弾みが、喜びを。
 弧を描いた口元が、愛しさを。
 カスティエルから放たれる感情はとても強く、恥ずかしいくらいの熱意に 胸が締め付けられる。

「……そうか。なら、許可してやるよ」

「顔が赤い。照れているのか?」

「うるさい。責任者取れよ、キャス」

 それ以上の言葉は必要ないと、ディーンはカスティエルの首に両腕を回した。






 ***

 全身を包み込む、心地よい倦怠感。
 それを上回る快感に翻弄されながら、ディーンは身を捩って耐えていた。
 右膝が胸に届く程に折り曲げられ、露になった秘所にカスティエルの指が深々と突き刺さっている。

 狭い胎内を押し広げるように指が動く度に、ディーンは目を閉じて異物感を遣り過ごそうとしていた。
 探るように内壁を撫でたかと思えば、揃えた指で遠慮なく前立腺を捏ねられる。

「うああっ!! はぅっ、ああっ!!」

 強烈な快感に背中を仰け反らせると、このタイミングを狙っていたように、カスティエルが左胸の飾りを口に含んだ。

「キャス!? ちょ、待っ……ひぃっ!!」

 張っていた突起を長い舌で押し潰され、悪戯に軽く噛まれる。更に尖らせた舌先でクリクリと飾りを転がされ、ディーンは開きっぱなしの口から唾液と嬌声を溢した。
 
 抜き差しを繰り返す長い指は、的確に快楽を引き出す。抱えられた足がビクビクと震え、重い腰が跳ねるくらいに気持ちがいい。

「ああっ、も…っ…無理……だ…」

 だらだらと溢れた先走りが、ディーンの雄を卑猥に濡らしている。もっと強い刺激が欲しいと、とんでもない事を言い出してしまいそうで怖かった。

 そうなる前に、カスティエルが欲しい。
 胸から顔を上げた天使に訴えると、小さく笑った後に指が引き抜かれる。

「っん……。キャス、早…く……」

「ああ、私も限界だ」

 物足りないとヒクつく蕾に、カスティエルの猛ったモノが押し当てられた。シーツを握り締めて衝撃に備えていると、熱い亀頭がゆっくりと入口を広げて中に進んでくる。

「あ、うっ……ぃあっ、あうっ……!!」

「熱い、な。溶けてしまいそうだ」

「うぁっ、あ、キャ、ス……あああっ!!」

 右足を肩に抱え上げたカスティエルが身を屈めて勢いよく突き上げてきた。半分くらいしか埋まっていなかったモノが、一気に最奥への侵入を果たす。

 閉じた目の奥で、火花が散った。
 指の時よりも強い異物感に、ディーンは眉を寄せて浅い呼吸を繰り返す。
 熱い、苦しい、もっと。
 ぐるぐると混ざり合う感情に、涙が睫毛を濡らした。頬へと流れ、シーツへと落ちる。

「あ、あ……ぅ……」

「ディーン、全部入ったぞ。私のモノがこの中に全て埋まっている」

「ひあっ!! ば、動くなぁ……っ」

 浮かんだ涙を優しいキスで拭ってくれたのはいいが、胎内を圧迫していたモノがより深くなった。息を整える暇もなく、緩やかにカスティエルの腰が動き出す。

「あっ、あっ…んっ、あうっ……」

「綺麗だ。君は何もかもが美しい」

「う、るさ……やっ!! んんっ、ああっ!!」

 余裕の態度を崩さない天使が腹立たしく、文句の一つでも言おうと睨み付ける。しかし強弱のリズムで奥を攻められれば、ディーンは喘ぐしかなかった。

「煽らないでくれ。手荒にはしたくない」

「はぁ、キャス…っ、あっあっ…!!」

 困ったように眉を寄せたカスティエル、少しだけ息を乱して腰を打ち付けてくる。剛直な雄を受け入れた蕾はジンジンと痺れ、厭らしい水音を立てていた。
 ゆっくりと雁まで引き抜かれ、快楽を追いかけた胎内が逃がさないと蠢く。
 そして、一気に奥を穿たれる。

「っ──あああっ!? か、はっ……あっ、あうっ!!」

「すまな、い。加減が出来ない…っ」

「あ、ぐっ……キャ、キャスっ…!!」

 身を屈めたカスティエルの背中に縋りつくと、亀頭でゴリゴリと前立腺を押し潰された。痛いくらいに気持ちがいい。脳が痺れるくらいの律動に、ディーンは涙を流しながら天使の腰に両足を絡ませた。

「ディーンっ、もっと求めてくれ。私を」

 貪欲な身体に主導権を渡し、プライドも羞恥心もかなぐり捨てたディーンは自ら腰を振る。獣のように低く唸るカスティエルの声さえ興奮材料になり、女のように嬌声を上げ続けた。

「もっ、イク…っ、っああああっ!!」

「私も、限界だ……っ」

 胎内を占めていた灼熱の棒を締め付け、カスティエルより先に果てる。直ぐに最奥へと注ぎ込まれた熱い液体に、ディーンは多幸感に包まれ意識を手放した。



 END

 


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