SUPERNATURAL


Love or ×××


 泣き濡れた声が耳に心地良く感じるのは、この身が狂気に堕ちかけているからか。正常な判断力など、行為の邪魔になるだけだ。必要なのは、全ての感覚を支配する『ある』感情。
 それは、愛か狂気か。
 枯渇する事なく沸き上がる欲望が、カスティエルを暴挙へと走らせた。

 ディーンを拉致したのが五時間前。
 今の状況を表すならば、拉致ではなく監禁と言葉にした方がいいだろう。抵抗される前にディーンの両手をネクタイで縛り、自由を奪っておいた。
 それから狂った情事に持ち込めば、快楽を好む身体を陥落させるのは造作もない。

「はぅっ、あう、あ、あ……」

 汗で滑る足を抱え直し、強弱のリズムで打ち付けていた腰を激しい律動のみに移行する。無理矢理に組敷いたディーンの身体が、急激な変化に戦慄いた。

「ひぃっ――!あっ、あああっ……!」

「く、っ……」

 背中を大きく仰け反らせ、低く掠れた声が快楽に吼える。カスティエルの手中にあったペニスも歓喜に震え、先端から溢れ出た白濁が幹を伝い落ちて行く。
 うねる肉壁に催促され、カスティエル自身もディーンの最奥に欲を注ぎ込んだ。容量オーバーとなった白濁が結合部分から溢れ、シーツにまた大きな染みを作る。

「うあっ、あっ…あ、っ…キャ、ス…」

「君の中は貪欲だな、ディーン。私を捕まえて離そうとしない。そんなに心配しなくても、君の中から出ていったりはしないのに」

 閉じられた目蓋がピクピクと震え、長くボリュームのある睫毛に、大粒の涙が浮かんでいた。蝶が蜜を求めるようにその目蓋に口付け、浮かんだ涙を舌先で掬う。
 途端にディーンの身体が大袈裟に跳ね、頭を振ってカスティエルから逃れようとする。

「抵抗しないでくれ、ディーン。これ以上君に手荒な真似はしたくない」

「い、あ……っ! キャ、ス…っ、止め…うあっ、あっあ…っ」

「止めろ? それは無理な相談だ。まだ、君の中に私を刻み足りない」

「ぃ、やだ…っ、キャス、嫌だぁ……っ!」

 甘く淫らな懇願は、聞き入れない。
 緩く腰を揺らして快感を呼び起こせば、ディーンは眉間に皺を寄せて唇を震わせた。
 快楽と興奮で染め上げられた身体からは、神経を麻痺させるような色香が放たれている。
 カスティエルは緩く腰を動かしたままで、激しく上下する胸元に視線を落とす。相対したのは熟れた二つの突起。更に視線を下に移動させれば、濡れそぼったディーンのペニスは硬く反り返っていた。

「君は本当に嘘吐きだな、ディーン。ココはこんなに反応している。素直でとても愛らしい」

「ん、んんっ、ぃ、あっ……」

 この行為が始まってから、ディーンの瞳にカスティエルが映り込んだ事は一度もない。それだけでなく、美しい翡翠色の瞳が表に出た事はなかった。
 それはディーンが拒絶しているのではなく、自力で目蓋を開けられないからだ。
 つまり、簡易的で強制的な盲目。
 それを強要したのは、他でもないカスティエルである。天使の力を使えば、視力を奪う事など容易い。

「それに、君もまだ――」

 カスティエルの中で支配欲が頭を擡げ始め、行動への抑制ブレーキを壊してしまった。深く沈めていたペニスを亀頭の括れまで引き抜き、収縮した肉壁を押し広げるようにして突き入れる。

「あううっ!」

 人間の急所とも言える喉を晒け出し、ディーンが一際大きな声を出した。普段は噛み殺して耐えようとする声も、今日は心行くまで楽しむ事が出来る。

「足りないだろう?」

 茹で上がった耳朶に軽く歯を立て、鼓膜に染みるようにねっとりと囁く。
 蠕動する熱い肉壁が、中で躍動を続けるカスティエルを、喰い千切らんばかりに締め付ける。強すぎる快楽は苦痛になると知っているが、この行為を止める事など出来ない。

「ひぃっ…い、…んっ……ああっ!」

「ディーン、君は私が狂ったと思っているだろう。だが、それは違う」

「あふ…っ、あっあっあ…っ」

 小さな嫉妬が火種となった炎は、何時しかカスティエルの中で消火不能なまでに猛っていた。どれだけ饒舌に言葉を並べても、この胸裏を伝えるのは不可能だろう。
 ただ、解っている事もある。

「全ては、君への愛故だ。ディーン、君はどう思う? この感情を愛と呼ぶのか、それとも狂気だと畏怖するのか」

「んんっ、キャ…ス、キャス…っ」

「さあ、答えてくれディーン」

 これは、愛か狂気か。
 愛しいディーンの声は嗄れ、名前を呼ぶその響きは助けを乞うていた。腰の動きを一旦止め、喋りやすいように時間を与える。

「    」

 震える声が紡いだ言葉に、カスティエルは無意識に口の端を歪めた。刺激を求めていたディーンのペニスに指を絡ませ、容赦なく奥を抉る。

 泣き濡れた声が、耳に心地よい。
 それは、この身が狂気に堕ちたからか。
 それとも――。



END

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