SUPERNATURAL


Son of a bitch!


 
 性に目覚めた天使は、野獣と同じだ。
 狩りの手伝いをすると言い出した時には、カスティエルの中で邪な計画が練られていたのだろう。腕を掴む強さと歩幅の大きさには、急ぎが見られる。
 ディーンも足に力を入れて精一杯の抵抗はしているが、カスティエルの足取りを緩める事は出来なかった。

「おいっ、キャス離せ! まだ聞き込みが残ってるんだぞ!」

「知っている。だが君が遅れた場合は、サムが向かうだろう。彼はとても真面目だから、任せても大丈夫だ」

「馬鹿言ってんじゃ、うわっ!?」

 掃き溜めと化した路地裏に連れ込まれ、視線が重なるなり呼吸が封じられる。勢いで後頭部を薄汚れた壁にぶつけたが、カスティエルは構わずにキスを続行させた。
 がっちりと二の腕を掴まれては、強制連行中の時よりも抵抗が出来ない。

「んうっ…!」

 せめてもの抵抗として、ディーンは奥まで舌を引っ込める。だがカスティエルの器であるジミーは舌が長く、易々と侵入を果たしたソレに掠め取られてしまった。

「は、っ…ふぅ…ん」

 ざらついた舌の感触に、肌が粟立つ。
 呼吸するのがやっとの激しい攻撃に、ディーンも黙っていた訳ではない。カスティエルの右足を全体重で踏みつけたが、鋼の肉体を持つ天使には効果がないのだ。

 しかも踏んだ仕返しのつもりか、癖の悪い足が股下に潜り込んで来る。窘めるように、膝でやんわりと股間を刺激してきた。

「っ、はぁ、は…こっの、馬鹿…っ!」

 酸欠気味になった所でカスティエルの唇が離れ、新鮮な酸素の旨さに感銘を受ける。
 今は人通りが少ないが、いつこの路地裏に第三者が来てもおかしくない。絶体絶命の状況を前に、ディーンの背中や髪の生え際からは、冷や汗が吹き出していた。

「ディーン、君の美しさは罪深い」

「いきなり盛っておきながら、何だその台詞! 狩りの手伝いするって言うから連れて来たんだぞ! 天使が嘘吐くのか?」

「嘘ではない。その件は続行中だ。だが、今は君に酔いしれる方を優先している」

「馬っっ鹿天使!」

 飢饉の影響を受けた時のように、カスティエルの双眸が欲望に蠢いていた。
 今の状況でその色は、危険過ぎる。
 ディーンが細長い道の先に目を凝らせば、今の所は此方に来る人影は見受けられない。今すぐに天使の暴走を止める事が出来れば、誰に見られる事もなく聞き込みを再開出来る筈だ。
 両腕の自由も、まだ遠い。
 ならば、選択肢は一つ。

「キャス、夜なら付き合ってやる。だから、今は狩りの――いっ!?」

 ディーンの思考が逸れたタイミングを見計らい、カスティエルが首筋に強く吸い付いてきた。チリッとした痛みに、何をされたかなんて確かめないでも解る。

「とても魅力的な誘いではあるが、今の私は夜まで待てそうにない。だから、これ以上私を煽るのは止めてくれ」

 煽ってなどいない、と。
 怒声を浴びせたかったが、迂闊に口を開いたらとんでもない声が出そうで、ディーンは唇を強く噛んで首を振った。
 頸動脈の鼓動を楽しむように、天使の長い舌が肌の上を滑っていく。

「どんな姿でも君の姿は美しく、見る者を魅了する。そんな顔を見せられては、私の自制心など脆く崩れてしまう」

「は、ぁ…キャス止めろ…! いい加減にしないと、ぅあっ。んっ、怒る、ぞ…!」

「それは困るな。私としても、君の嫌がる事はしたくないんだが。ディーン、私はどうしたらいい?」

 左腕を拘束していた手がするりと動き、スーツの胸元に滑り込んできた。自由になった左手を伸ばしてカスティエルの肩を押すが、天使の身体はビクともしない。
 忍び込んだ手は我が物顔でディーンの胸元を撫で回し、摩擦で存在を帯びた突起を摘まむ。

「あっ、くぅっ…! クソっ、あ…キャス、まっ、待て! まさか此処でするつもりか?」

 大胆になるカスティエルのセクハラに、抵抗しなければならないと頭では理解している。けれどもテクニシャンになりつつある愛撫に、身体が言うことをきかない。
 ディーンの膝は快楽に笑い、カスティエルの膝で擦れる自身も、やんわりとズボンを膨らませていた。

「私としては、然して問題があるとは思わないが」

「問題大アリだ…っ。せめて、モーテルにしろ! 野外プレイなんて、御免だ!」

「しかし、君はとても気分屋だ。モーテルに戻れば天使避けを描いて、私を追い払うかもしれない」

「ひ、ぅっ……そ、んな事しねぇ…」

 ねっとりと這う舌が喉仏を伝い、顎を舐める。天使は咎めるような口調なのに、楽しそうな気配がするのは勘違いではないだろう。
 カスティエルの肩を押していた手は、何時しか爪が食い込む程強く、トレンチコートに皺を刻んでいた。

「ディーン、君に問おう。君が本当に嫌だと言うなら、致し方ないが今回は諦める。このまま狩りの調査を続行しよう」

 キスだけで初な反応を見せていた純粋なカスティエルは、もういない。天使のくせに悪魔のような囁きで、朦朧とし始めているディーンの理性に揺さぶりをかけるのだから。
 全ての愛撫が止み、中途半端に解放された身体が疼く。

「どうする、ディーン?」

「要らん知恵ばっかり付けやがって、この鬼畜天使っ!」

 こんな状態では、聞き込みなんて続けられる訳がない。それはカスティエルが一番よく知っている筈だ。それなのに、敢えてディーンの口か
ら言わせたいのだろう。

「……モーテルなら、してもいい……っ」

「すまない、よく聞こえなかった。もう一度言って貰えるだろうか?」

「お前っ、本当に性格悪くなってるぞ!」

 余裕たっぷりの顔に強烈な一撃をお見舞いしたかったが、そんな事をしたら逆に此方の拳が陥没する。負けを認めたようで悔しいが、危険を回避する方が先だ。
 身体の熱が、限界に近い。

「モーテルでならしてもいいって言ってんだ! さっさと俺を連れて行け!」

 カスティエルの肩に強く額を擦りつけ、ディーンは熱い息を吐きながら吼える。

「それが君の望みなら、従おう」

 甘い囁きが鼓膜の奥に溶け込めば、それだけで腰から下に痺れが走ってしまう始末だ。手入れのされていない無骨な唇が耳の軟骨を食み、冷たい指がディーンの項を妖しく撫でる。

「く…っ、キャス、早く……っ」

「ああ、そうだな。君の気持ちが変わる前に、行くとしよう」

 僅かな羽音が響いたと思えば、密着していた二人の姿が一瞬にして消失した。人を寄せ付けない静けさを取り戻した路地裏は、何事も無かったかのように佇んでいる。

 この場で何が起こっていたのかは、当事者である二人だけの秘め事となった。


END

- 8 -

*前次#


ページ: