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カランカラン、と軽快なベルの音と共に店内へと入ると、コーヒーの香ばしい匂いが鼻腔をくすぐる。店内にはテーブル席に女子高生が2人だけで、貸切空間になっていた。


「あー!名前さん!」


その女子高生は名前を毛利蘭と鈴木園子といい、大変可愛い女の子でした。というか顔見知りでした。こちらに気がついてくれたのに別の席に座るのもどうかと思い、2人の許可を貰って同じテーブル席へと腰掛けた。


「園子ちゃんは久しぶりだね」
「お久しぶりです!お元気そうで何より!」
「園子ちゃんも。相変わらず可愛いね」
「もーほんと名前さんイケメン!」


久々に会えたからか、園子ちゃんも蘭ちゃんも話したい事がたくさんあるようで、この後の予定を聞かれる。幸いにも夜ご飯までに帰ればいいだけな為、時間があることを告げると嬉しそうにしてくれた。
早速と言わんばかりに話そうとしてくれたが、その前に注文をしなければ、とこっそり梓ちゃんを呼ぶ。


「梓ちゃん。チョコケーキある?」
「ごめんなさい。今日は作ってないんです・・・」
「そっか。じゃあアイスコーヒーとレモンパイ2つ」
「2つ?・・・あぁ!わかりました!」


私が言いたいことを理解してくれたのか、にやりとした笑顔で注文をとった後、梓ちゃんはカウンターの奥へと消えていった。


「それでね、蘭ったらキッド様に攫われたんです!」
「へぇ、すごいね。顔とか見なかったの?」
「攫われたっていうか、なりすまされただけだし・・・。それに、気がついたら眠らされてたから、話すらできなかったんだってば!」
「でもでもキッド様になら眠らされてもいいわよね!あぁ、私の事も攫ってくれないかしら・・・」
「もー園子ったら」


どうやら先日、怪盗キッドと船上で遭遇したらしい二人は、その時の話をおもしろおかしく教えてくれた。園子ちゃんはイケメンな怪盗キッドに夢中のようで、恋する乙女の様に頬を赤らめて話しており、非常に可愛らしい。
二人の会話に時々口を挟みながら、ほのぼのとしていると梓さんがやってきて、私の前にはアイスコーヒー、二人の前にはそれぞれレモンパイを置いてくれた。


「梓さん、私たち頼んでないけど・・・?」
「名前さんからのプレゼントですって!」
「えぇ!そんな、いいのに!」
「さりげない気遣い・・・うーん、男なら彼氏になってほしい・・・」
「はは、ありがとう。久々に会ったお祝いだと思って遠慮せずに食べて」
「ありがとう、名前さん!」
「いただきます!」


幸せそうにレモンパイを頬張る二人、プライスレス。その後もしばらく他愛もない話が続いて、ふいに会話の切れ目になった。その時、新たなお客さんがポアロへと入ってきて、目線だけ出入口に向ける。


「あら、コナンくん達じゃない」
「「こんにちはー!」」
「はい、こんにちは!」
「あんたたちいつも一緒にいるわね」
「園子おねーさん達もでしょ!」


その正体は、かの有名な少年探偵団で、蘭ちゃんと園子ちゃんに元気よく挨拶してる様を見て、私は目を見開いた。生の少年探偵団だ!灰原哀ちゃんがまだいない為フルメンバーとは言えないが、なんとも愛らしい。
にやにやしないようにアイスコーヒーを飲んでいると、なにやら話がまとまっていたようで、隣のテーブルをくっつけて少年探偵団の諸君も一緒に座っていた。隣にはコナンくんが小さい身体もなんのその、椅子に軽やかに飛び乗っていたが、彼にとっては少し大きめの椅子とテーブルがアンバランスで、ミニチュア家具と人形のようでとても可愛い。思わずガン見してしまうと、コナンくんはその下心に気がついたのか、口パクだけで「バーロー」と言ってきた。


「ねーちゃん初めて見る顔だよな!」
「でも制服を着ていませんから、大人の方なのでは?」
「こんにちは!おねーさんは蘭おねーさん達のお友達?」


さすがに同じテーブルにいて、コナンくんともなんだか親しそう、ということで気になったのか、私にも元気よく挨拶をしてくれた。


「こんにちは〜。年上すぎるけど、お友達だったらいいなぁ。3人はコナンくんのお友達?」


そう聞くと、よくぞ聞いてくれました!と言わんばかりに自己紹介をしてくれる。体格のいい坊主頭の男の子が元太くん。言葉遣いが丁寧でそばかすが可愛い男の子が光彦くん。カチューシャが似合う瞳の大きな女の子が歩美ちゃん。
私たち、少年探偵団なの!とハモりながら教えてくれた。


「私は苗字名前、よろしくね」
「え!おねーさん名前さんっていうの!?」
「え、うん」
「じゃあねーちゃんがこの探偵バッジ、博士と一緒につくったのか!すっげーな!」
「博士の助手にはとても見えませんね!」
「それ、どういう意味」
「だって、博士の仕事って変な発明品作ることだろ!その博士の助手っていうんだからもっと変なやつかと思ってたからよ!」
「絶対変なおばさんかと思ってましたよね!」
「名前おねーさんきれいなのに、探偵バッジも作れてすごーい!」
「歩美ちゃんの方が100倍可愛いけどね」


なんて嬉しい事を言ってくれるんだこの子は。よしよしと撫でながら思った通りのことを告げると、照れくさそうに微笑んでくれた。小さい子は存在が癒しだなぁ。
そこからは今日学校でこんなことがあって、この間はあんな事件に巻き込まれて、とたくさんの事を教えてくれた。大体の事件に蘭ちゃんと園子ちゃんも関わっているので、二人からの補足も交えた話は楽しくて、尽きることがない。というか、よくそこまで事件に巻き込まれるもんだ。感心する。
気がつけばだいぶ日が落ちていて、空は青と赤の混じりあった夕焼けになっていた。子どもはもう帰る時間だ。


「さて、そろそろ晩御飯の時間だし帰ろうかな」
「もうそんな時間!?私も夕飯の支度しなきゃ!」


手早く身支度をすませて、みんなに声をかけてから会計の為レジに向かう。そこには既に私の帰るという声を聞いたのか、梓ちゃんが笑顔で待機していた。まだみんなが身支度をしているテーブルまで聞こえないように、声を落として話しかける。


「あのね、」
「あのテーブル全員分ですよね!名前さんならそういうと思って準備してました!」
「さすが、仕事が早い。これはおじさま方も常連になるわ」
「名前さんたら!でもね、ほんとはもっと若い女性の方にも来てもらいたいんですよねぇ。個人経営だから入りにくいのかしら」
「イケメン店員雇えばいいんじゃない?」
「あ、それいい!どこかにいい人いませんかねぇ」
「大丈夫。何もしなくてもそのうちいい人が入ってくるから」
「え〜ほんとですか?」
「ほんとほんと。イケメンすぎて困っちゃうかもよ」
「そんな人が来たら目の保養ですね・・・楽しみにしてます!」


と、満面の笑顔でお釣りを渡してくれた梓ちゃんに挨拶して、ポアロを後にした。きっと信じてないだろうなぁ、JKが殺到してしまうほどのイケメンが本当にアルバイトとしてやってくるなんて。
ある程度の未来を、予知に近いレベルでわかることは、きっと私が死ぬ時まで誰にも話すことはないだろう。ただ、こんないたずら程度の未来予知ぐらいはいいかな。

ポアロで次の絵本の原案を考えるはずが、パソコンを開いてすらいない。帰ってから書き上げなければ。そう思いながら景光くんに今から帰る旨をメールしてから、帰路につくのだった。

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