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『おぉ、名前君!パソコンについて聞きたいことがあっての!あと、この前頼んどった物も持ってきてもらいたいんじゃが、よかったら今夜泊まりにこんか?』


と、いつものように阿笠博士からのお誘いがあった為、今夜はお泊まりだ。軽く荷造りをしながら、景光くんに晩御飯はいらない事を伝える。


「阿笠博士んとこか?じゃあ手土産作るな!」
「えっ」


おいおい嘘だろ。この人どこまで女子力上げるつもりなんだ?パパッとドーナツを作り上げて、綺麗にラッピングまでしてくれた景光くんに、私は戦慄したのだった。しかも味見させてもらったドーナツはめちゃくちゃおいしかったです。







「あっ!名前お姉さんだ!」


手土産と博士に頼まれていたものを片手に阿笠博士の家に向かっていると、後ろから可愛い声が聞こえてきて振り返る。そこには、先日知り合ったばかりの少年探偵団達がいた。私を見つけて走り寄ってくる姿は、さながら天使のようだ。にやけないように気をつけながら目線をあわせる為にしゃがんで、彼女達が来るのを待った。


「「「こんにちはー!」」」
「こんにちは」
「この間はご馳走様でした!」
「ねーちゃんいいやつだよな!」
「いいえー。みんなでどっか遊びに行くの?」


よくぞ聞いてくれました、と言わんばかりにわちゃわちゃと3人がかりで説明される。なんとか聞き取れた内容を整理すると、どうやら俊也くんとやらのお兄さんが家出をした為、探しているらしい。俊也くんの家でお兄さんの行方の手がかりを探していたら、急にコナンくんがやる気を見せだして、街中走り回ってもうへとへとだそうだ。お勤めご苦労様です、と敬礼してみると、嬉しそうに敬礼を返してくれた。
コナンくんの方をちらりと見ると深刻な顔をしており、あれはなにか気になることがあるのだろうが、彼に任せておけば大丈夫だな。そう思っていると、隣の赤毛の可愛い女の子と目が合った。どうしようかと少しの間見つめ合っていると、光彦くんがそれに気がついたのか、彼女を紹介してくれた。


「彼女は灰原哀さんといって、今日僕達のクラスに転入してきたんです」
「へー、こんにちは。苗字名前です」
「・・・こんにちは」


できるだけ笑顔で挨拶をしてみたが、無愛想に返されただけだった。それにしても外国の血が入っているからか、オーラがすごい。整った顔立ち、どことなく色っぽい雰囲気に、6歳という未完成な見た目も相まって、危険なほど魅力的だ。これ、普通に黒の組織とか関係なく誘拐されるんじゃね?
心を読まれたら即逮捕な事を考えていると、元太くんに服の袖を引かれ、そこでやっと危険な思考が途切れた。


「今からどっか行くのか?」
「うん、博士の家に遊びに行くところ」
「またなんか作んのか!」
「ううん、おしゃべりするだけだよ。あ、そうだ。みんな走り回ってのどかわいてない?そこのコンビニで飲み物買ってあげるよ」
「やったぜー!」
「あっズルいですよ!元太くん!」
「待ってよー!」


子供の欲望に忠実な所は見習うべきだなぁ。仲良く走ってコンビニにかけていくみんなを見届け、1人になったコナンくんに声を潜めて話しかける。


「何かあったの?」
「あぁ、恐らく俊也くんのお兄さんは誘拐されてる」
「えっ、ほんと?警察呼んだ方がいい?」
「いや。犯人は、俺の身体を小さくした黒ずくめの奴らかもしれない。だから俺が犯人を見つける」
「・・・そっか。深入りしすぎないようにね。コナンくんだけじゃなくて周りの人にも危害が及ぶかもしれないんだから」
「あぁ、わかってる。・・・名前さんはいつも俺を信用してくれるよな」
「そりゃあ、平成のホームズさんだからね」
「俺としては信頼してほしいところだけどな」
「? なんか違うの?」


信用と信頼。同じ意味だと思っていたが、どうやら違うようだ。少し考えてみたが分からなかったため正解を聞こうとコナンくんを見ると、小学一年生という見た目相応のいたずらな笑みを見せて、「ないしょ!」とコンビニに行ってしまった。くっそー。ちょっと頭がいいからってバカにして。帰ったらグーグル先生に相談しよう。
遅れて私もコンビニに入店し買い物かごを手に取る。先に入店していた子供たちが私を見つけて、各々飲みたい物を容赦なくそのかごに入れてきた為、そのままレジに置く。カバンから財布を取り出そうとしていると、突然コナンくんが隣のレジに乗り出して、レジからお金を抜いていた。なにしてるの!?と慌てて止めようとしたが、その前にコナンくんはお札の透かしを確認してからレジの下に飛び降りる。


「警察に電話して・・・それニセ札だよ」


コナンくんはそう言うと、レジのお姉さんの静止の声も聞かずにコンビニを飛び出していった。そこまで聞いて、やっと話の流れを思い出す。これは、黒の組織には全く関係ない女がニセ札を作っていた話で、この事件の最後に哀ちゃんはコナンくんに正体を明かす。
イレギュラーな話ではないのであれば、少なくとも彼らの命の心配はないだろう。私は、呆然としている子供たちに、購入したばかりの飲み物を順番に手渡していった。


「ほら、コナンくん行っちゃったよ。しっかり水分補給してから追いかけなね」
「あ、ありがとう!またね、名前お姉さん!」
「いいえ、気を付けてね。はい・・・哀ちゃんも。みんなをよろしくね」
「・・・ええ。ありがとう」


口端をほんの少しだけ持ち上げてほほ笑んでくれた哀ちゃんは、ドタバタとかけて行ってしまった少年探偵団をのんびりと追いかけて行った。
さて、思いがけずコナンくん達に遭遇してしまったが、私もそろそろ阿笠博士の家に行かなければ。







「いやー、やはりパソコンに関しては名前君に聞くのが一番じゃの!」
「私なんてまだまだですよ。ただ、今の状態だとパソコン通信のせいで電話回線ふさがってますけど、いいんですか?」
「ワシの家に電話なんてそうそうかかってこんし、また後でつなぎなおすからいいじゃろ!ところで、これなんじゃが・・・」
「博士がそういうなら・・・ってあれ、電話だ」


携帯の画面を確認してみると、コナンくんと表示されていた。なんの用かわからないが、今は博士との話が盛り上がっていて忙しいし、後でかけなおそう。そう思い、そのまま携帯を机に置いて博士との話に戻った。

その後、話にひと段落がついた時、博士に頼まれていた物を持ってきていた事を思いだし、カバンを探る。


「博士、頼まれてた子供用の服持ってきましたよ」
「おぉ、すまんの!女の子の好みはやはり女性に任せるのが一番じゃからな!」
「私を女性だと思うなんて博士くらいですね。私と好みが合うかはわかりませんが、一応店員さんにも相談したので大丈夫だと思います。あ、そういえば、今日街で哀ちゃんに会いましたよ。コナンくん達と早速一緒に遊んでました」
「ほー!楽しんでるようでなによりじゃな」
「ですね。まだ自分の境遇については言ってないみたいでしたよ・・・あ」
「どうかしたのか?ワシ、ちょっとトイレ」


前世で原作を読んでいたといっても、もう随分と遠い昔のことで、大まかな流れや大事な話については私にしかわからないように保管してある。細かい出来事についてはほとんど思い出せない事の方が多い。だからこそ今の今まで忘れていたのだが、今日のニセ札事件の後、哀ちゃんがコナンくんをからかって、阿笠博士を殺したみたいな言い方するんじゃなかっただろうか?しかし今、阿笠邸の電話回線はインターネット回線のせいで塞がっているため、生存確認ができない。
だからさっき、私の携帯にかけてきていたのか。これは申し訳ないことをしてしまった。しかしここまできたら、せっかくなのでコナンくんのあたふたする姿を見たい。阿笠博士がトイレで席を外してる間に来てくれたらいいけど。思い立ったらすぐ行動、というわけで、玄関から続く扉を開けるとすぐ見える所で、私はうつぶせで倒れたのだった。

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