03

「こんにちは、フルールといいます。」


突然自分の携帯に知らない人からこんな電話がかかってきたら、あなたならどう思いますか?私なら速攻通話を切ってその電話番号を着信拒否にするだろう。しかし、電話の相手は私とは違う考えの持ち主だった。


「フルール・・・?あの情報屋のか?」
「おや、ご存知でしたか。」
「お前の事は裏社会では有名だからな。」
「それは光栄です。あなたはスコッチさんで間違いありませんね?」
「・・・噂は確かなようだな。」


どうやら私の存在を知っていたようで、ブチ切りされなかったのも納得である。そして私はなかなか腕がいいと噂らしい。やったぜ。自分の口から地声より幾分か低い声がでることにすっかり慣れてしまった私は早速用件を切り出した。


「単刀直入に申し上げます。私と取引しませんか?」
「話を聞こうか。」
「話が早くて助かります。あなたはこれから組織に始末されるでしょう。それを助けてさしあげます。」


息をのむ音が鮮明に聞こえてきた。これは賭けだった。必死に勉強してハッカーとしての腕を磨くことはできたが、元来私の頭の回転はたいしてよくない。様々な状況を考えてみたが、結局はこの方法しか浮かばなかった。降谷くんや新一くんならばもっといい考えが浮かぶのだろうが、私はこれが限界だった。私はこの情報の元を明かす気はない。そのため、証拠を提示することができない。スコッチさんがフルールを信じて、賭けに乗ってくれない限りどうしようもないのだ。いくら有名な情報屋であろうが、初対面であるフルールを信じてくれる可能性はゼロといっていいだろう。


「その話を信じる根拠がない。そもそもなぜ俺は組織に始末されるのかそれを教えてもらおうか。」
「あなたの所属は警視庁公安部。組織壊滅のための潜入捜査官ですね。それが露見します。」
「な、にを」
「組織の一員であるライと呼ばれる男に呼び出され、あなたは始末されるでしょう。」
「・・・お前がバラしたのか。」
「まさか。もしそうならあなたを助けようとなどしませんよ。」


言うべき情報を伝えた後、しばらく沈黙が続いた。いくつか心当たりがあるのだろう。私はじっとスコッチさんが話し始めるのを待った。まだ取引するとも約束していない相手になぜこんなに情報を開示するのか。どこでこの情報を手に入れたのか。あまりにも不可解なことが多いためか、スコッチさんは思考を張り巡らせているようだった。しかし彼は、私が思っていたよりも早いタイミングで重たい口を開いた。


「仮に俺を助けることができたとして、お前への見返りはなんだ?」
「あなたの命です。」
「なっ!」
「勘違いしないでください。時が来るまで私に命を預けてもらう、という意味です。」


組織から救い出すのは自分で殺すためなんて、病んでいる。私はそこまでやばくはない、はずだ。スコッチさんの想像を一瞬で否定して、もう一度どうするのかを問いかけた。


「わからない。なぜ俺を助けようとするのか。フルールならば俺以上の人材を引き入れることは容易なはずだ。」
「あなたにこれ以上の詳細を知る権利はありません。」


なるべく強く聞こえるように、冷静に、冷淡に、冷酷に、


「生か死か。私に従い命を繋ぐことができた場合は、命をかけて私に恩を返していただく。」
「・・・従わない場合はどうなる。」
「先ほど申し上げた通り、死ぬだけです。」


沈黙して思考しているスコッチさんに、協力する際の細かい条件を伝える。
基本的には従ってもらうが、スコッチさんの要望はある程度聞くつもりであること。私が許可するまでは死を偽装してもらうこと。その他条件はその都度決めること。
きっとスコッチさんには悪魔のささやきに聞こえたことだろう。しかし、乗ってもらわないと困る。無理な場合の最終手段も残っているが、それはなるべくまだ使いたくない。また沈黙が続く。やがて、はぁ、と大きなため息が聞こえた。


「わかった。取引だ。俺の命がお前の言う通りに助かった場合、俺はお前に恩を返すまで従おう。」
「賢明な判断感謝します。」


やっと前準備が整った。さあ、ここからが本番だ。スコッチさん改め、景光くん殺人事件(仮)作戦の開始である。

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