「イオン!ナタリア!無事か?」


数え切れないほどの扉を潜り抜け、ようやく見付けた目当ての人物達。考えるより先に口をついた言葉への回答はなく、二人はただ目をまるくしてこちらを見ていた。


「…ルーク…ですわよね?」
「アッシュじゃなくて悪かったな」
「誰もそんなこと言ってませんわ!」


間髪入れず反論してくるナタリアに、たしかに今のは嫌味っぽかったかなと少しの反省。しかしながらその言葉は自身の本音そのものであり、自覚すれば尚の事やるせなかった。


「イオン様、大丈夫ですか?怪我は?」
「平気です。皆さんも、わざわざ来てくださって、ありがとうございます」


緊迫した状況にも関わらず平静と変わらぬ空気をまとったイオンは、その身を案じるアニスに優しく微笑みかけていた。この心の余裕、どうすれば己のものにできるのだろうか。


「今回の軟禁事件に兄は関わっていましたか?」
「ヴァンの姿は見ていません。ただ、六神将が僕を連れ出す許可を取ろうとしていました。モースは一蹴していましたが…」
「セフィロトツリーを消すために、ダアト式封呪を解かせようとしているんだわ…」


ヴァンという名前が出た瞬間、体がすくんだ。あぁ、あぁ、なんて。あの夜、ティアの前で変わるんだと、立ち向かうんだと誓ったはずなのに。その名は恐ろしいまでに自分を支配していた。

認めている。認めている、はずだ。それでもどこか、心の片隅では何かの間違いであって欲しいという気持ちを捨てきれず。瞬きほどの刹那に幾つもの感情が交差した。


「…ってことは、いつまでもここにいたら、総長たちがイオン様を連れ去りに来るってこと?」
「そういうこった。さっさと逃げちまおうぜ。ひとまず街外れまでで大丈夫だろう。この後のことは、逃げ切ってから決めればいい」
「なら第四石碑だっけ?あれがあった丘まで逃げようぜ」


思考を振り払うように声をあげた。声が、そして心が震えぬよう、一言ずつ胸に落とすように紡いだそれはいつもの自分にかわりなかった。




もう二度と間違えないために。




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