確定消すな  



 
三途春千夜
 目を覚ますと、隣で寝ているはずの春
千夜の姿がなかった。不思議に思って体
を起こそうとすると、誰かが私の体の上
に覆い被さっていることに気づく。呆然
としたまま相手を見上げれば、薄暗い部
屋でもわかるほどに顔を涙と涎でぐちゃ
ぐちゃに汚した春千夜が虚ろな目で私を
見下ろしていた。意味がわからないけど
刺激しないほうが良いと判断してできる
だけ優しい声で「どうしたの?」と声を
掛けてみるが「なんでなんで……だなん
でなんでおれ……おれがおれをおおおお
れのおれの、もんなに……なんで……」
と意味のない言葉を呟いている春千夜の
耳には届いていない。どうしたものかと
子供をあやすように優しくピンク色をし
た頭を撫でていると、ぴたりと泣くのを
止めた春千夜の今まで私を見ているよう
で見ていなかった目がこちらを見た。
 呂律の回らない口で「なんで、なんで
……なんでなんで、っおま、はなんで」
と呟いた瞬間、私の胸元に顔を埋めて「
う、うぅううう、なんでっおれをすてん
のかよぉおっ!っうぇええ、うぇっおえ
っええ、おまえ、もおれからは、なれ…
…!ひっく、うう、ぐっううぇええっク
ソがよぉおお!」と大声で喚き始めた。
 いよいよ収集がつかなくなって来た春
千夜の醜態に溜め息しかでない。私は薬
に溺れた恋人が泣き疲れて眠るまで睡魔
と戦いながら頭を撫で続けた。



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