確定消すな
剣持刀也
「え、っと、刀也くん?どうし」「なん
でもないです」「な、なんでもなくはな
いんじゃ……?」「なんでもないです」
そう頑なに言い張る強気な口調とは裏
腹に、私を抱き締める刀也くんの手つき
はぎこちなかった。突然の行動に戸惑い
ながら刀也くんの背中を軽く叩いてみる
が離れる気配はない。それどころか私の
肩に顔を寄せた状態のまま動かなくなっ
てしまった。仕方なく仕事をしていた手
を止めノートパソコンを閉じる。そうい
えばここ最近、仕事が忙しくて刀也くん
と会えない日々が続いていた。今日だっ
て、刀也くんが剣道の大会の帰りにたま
たま近くを通りかかったついでに家へ来
てくれなかったら、休日にも関わらず仕
事に追われて一日が終わっていたかもし
れない。大人なのに、彼女なのに、私は
いつも自分の事だけで精一杯だ。
「……ごめんね」「なにがですか」「寂
しい思いさせちゃって」「……別に、勝
手に寂しいと思ったのは僕の方なんで」
「ううん、そう思わせちゃった私が悪い
んだよ……刀也くんは悪くない」
ごめんね、ともう一度謝ってから刀也
くんの背中に腕を回す。すると刀也くん
が私の肩に顔を埋めたまま緩く首を左右
に振った。そして「本当は、大会、今日
じゃないんです……」と呟いた。△/ TOP /▽