#119_K



 

「潜入捜査やらせたら、ふーじこちゅわぁーんの右に出る者がいねぇぜ?うぅーん、にしても、とおっても良いお衣装ですこと」

ぐふふと笑うおっさんは、演技の必要性を感じないほど、まごうことなきエロ親父だ。

いやでも本当、溢れんばかりのおっぱいを支えきれてないバニー衣装は、見てるだけでR18だ。
うんうん、開催側わかってんなぁ。グッジョブ。


「ま、そんなわけで。今日はとにかくオークションを楽しく見学して、流れを掴もうじゃないの」
「腰を撫でくり回すんじゃねえよエロ親父」
「カメラ対策だよ。ぬほほ。ほぅら、笑顔笑顔。俺だってオメェじゃなくて、あそこに居る不二子とこういうことしてぇってーのよ、本当はよぉ。あー、不二子ちゅわぁんってばほんっとイーイ女。あのバニーの尻尾をぴーんと引っ張ってぇお胸の尖りをぐふふふふふ」
 

おっさん、カメラ対策はどうした。いや良いのか、まんまエロ親父だから。
 
まあ、俺だってあんな衣装杏に着せてあはんうふんしてぇよ、そりゃ。
絶対ぇ真っ赤な顔して、恥ずかしそうにするだろうな。杏にはセクシーバニーも良いけど、胸元にもこもこファーで縁取っても可愛いな。白うさぎみてぇで。まあるい尻尾を触ると感じちゃう、的なのが良いな、ルーターも作って尻尾をリモコン内蔵とか良いんじゃね?
……うん。いいな、バニー。とても良い。うん、今度作ろう。




そっから。
どっかの王国最後の王の王冠だとか。
どっかの王妃のネックレスだとか。
かの有名画家の未発表の絵だとか。

まあよく集めに集めたもんだと、思わず感心していたところ。
反吐が出るモンが出てきた。
 

[さあ、今日の目玉!!アルビノの双子でごさまいます!!愛玩用、観賞用ご自由に!!]

「──っ、」

思わず、拳を握り締めると、隣のルパンさんが肩を寄せてきた。

「──坊主、落ち着けぃ。調査段階でわかってたことだろ?……オメェの優先すべきを間違えんじゃねえ」
「──、っ、わかってんよ」

──胸くそわりぃ。
そう。この糞みてぇなオークションは、人身売買も行われる。美男美女や、アルビノ、小人病など──希少とされる人種を、コレクションしてる奴らが、な。
それだけでこの会場に眼鏡探偵坊主でも呼んで、全てを爆発してほしくなる。いや、あいつ自身が爆弾魔ってわけじゃねえけどよ。
 
助けてやりてぇけど、おっさんの言う通り。こっちに手出したら計画に支障がでる。
こんだけの場所で、余計なことに気をとられたらそれこそ命とりで。ピンクアイオニーが盗み出さなかったら元も子もない話。

おい、怪盗キッド。お前、何のためにここに来た。悪を倒す為?違う、杏を普通の女の子にするためだろう?
そうだ。それくらいわかってる。
わかってんだよ。


ただ。
怯えた瞳。どこか、諦めたような顔。

──次々とビッドが掛けられる中、自分の無力さを呪いたくなった。
俺は怪盗だから、どっかの事件ホイホイみてぇなスーパーヒーローじゃねえし。
大事なもんを守るっつっても、それを盗み出すことで精一杯で。

くそ。別に、全てを救えるなんて烏滸がましいこと考えちゃいねぇが。
──目の届くとこのことすら、何も出来ないなんてな。
何が天下の大怪盗だ。


ぽんぽん、と。わかってるよ、とばかりにおっさんが俺の頭を優しく叩く。
子供扱いに腹が立ちつつも、父さんみたいな大きな手のひらに、今はなんだか、縋りたくて。
大人しくそれを受け入れていた。



 

* * *  




「こちらK、B2地点到着」
「へいよー」

久々のデカいヤマだっつうのにインカム越しに気の抜けた声で返事をするルパンの声に続き、コツ コツ と小さな了解を示す爪音。

スパイとして侵入してるあの女からの返事に、少し苦い気持ちにゃなる。
今回のヤマだって、あの女からの提案から始まったやつで。こいつぁやばそうだぞって止めてみても、ルパンはいつもの「おねがぁい♡ルパぁン」にほいほいとOKを出しやがった。
あいつは学習しねぇよなぁ、本当によ。
 
……まあ、奴のガキの為に、って理由も大いにあんだろうが。それは、俺もまあ、理解できなくは、ない。

ちらり、と件のガキ──いや、今の姿ではガキっつうか、KIDか。どっちも意味は子供だがよ。を、見遣る。
先程インカムにて到着を伝えていたこいつが、こちらに目線で合図を送ってきたので、おうよ、頷き返しておいた。


内部班の不二子。客として扮装すんのはルパンと五右衛門。五右衛門。ほんで、外部から侵入すんのが俺とこの小僧って配置だ。

そうして俺らが到着したのは、物品の搬入経路だ。こいつがずっと潜伏してたガソリンスタンドが、この搬入経路に繋がってたってわけで。

経路途中の監視カメラを弄って、途中何人かおねんねさせつつ到着したのは、入り口手前の赤外線センサーが鬼のような場所。
解除するにゃあ、ここの門番の指紋認証が必要なんだけど、入り口の管理責任者だけあって、そいつをここでおねんねさせてお手手を借りたりすっとあっちゅーまに企みがバレちまう。

何回か指紋を取ろうとチャレンジしたが、常に手袋、お色気作戦も失敗。こうして、本日の物品の搬入を終え、奴も中に入った今、ここは普通は誰1人として通れねぇっつうわけだ。

普通は、な。


「どーだ?やれそうかよ?」

声を掛けたソイツは、目を閉じて、ふー、と大きく息を吐き。そうして、キッ、と蒼い瞳を先の扉へと向けた。集中してやがんな。
そうしてカチャリ、と暗視ゴーグルを付けて。
 

「行きます」
「おう。いってこい」

一万パターンだったか。1秒毎にランダムに切り替わる赤外線センサー。パターンなんて常人じゃ読めるわけもねぇソレ。

「蛙の子は蛙っつーが……奇術師の子はバケモンってか」

おおよそ常人じゃねぇっつーことは、よぉぅくわかったわ。
多分、普通の奴だったらどう動いてるのかもわかんねえだろうな。おっそろしく柔らかい身体と、瞬時な動きで、スレスレに赤外線センサーをかわして。
届いた先にある、ボタンを押した。
 

「──さぁ、行きましょうか」
「へいよ」


これで17歳って坊主なんだからな。良い息子をもったなぁ、盗一よ。


暗視ゴーグルを外して、赤外線センサーを潜り抜けて、解除した先。白い怪盗の元へと、次元は進んで行った。



 
 

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