#120_K





[いいか!!絶対逃すな!!]
[監視カメラは!?どうなってる!?なんだこれは!?──くそ!録画映像かっ!!!]

殺気立つ警備員を背に、逃走経路を直走る。
色んなビッグジュエルを手にしたが──コイツを手にした時には流石に身慄いを覚えた。

──やっと、この手に。
杏、待ってろよ。もうちっとだ。

まあ、そう感慨に耽ってる暇はねぇ。
無事ここを出れるまでが、勝負だ。
  
ここまでは予定通り。
不二子さん達は無事逃げられただろうか、と思ったところでインカムが鳴る。

[O地点到着。管理棟制圧OK。]
[J地点着いたわ。まあ素敵っ。あ、これももらっちゃいましょールパン]
[よーろこんでぇー!]

うん、無事そうだと納得しながら、[いたぞ!]という声がした方向へとトランプ銃を撃つ。

[っ──!?]

今回用に強化させたトランプ銃は、トランプの縁にゾウも眠る強力麻酔薬を塗布した特別性だ。どっかのちびっこ探偵君の腕時計のアレと同じくらい強いやつ。銃を持つ手元をトランプではたき落とすと同時に、昏倒させることが出来る優れもので。

プシュ
プシュ
プシュ

次々に狙い撃ちながら、敵を避ける為に経路を逸れた所で、目に入った扉。身を隠す為にも、ここに入っておくか──なんて、な。
そんなふうに、偶然を装う言い訳くらいさせてくれよ。

電子ロックのかかるその扉を開けると、扉の先でびくりと怯えた表情を見せた。


[私は貴方達の敵じゃありません。──このまま、奴隷になりますか?それとも、私と共に、逃げる勇気を持ちますか?もちろん、危険は伴いますが──]

紅い瞳が恐る恐るこちらを見つめている。その瞳が安心出来るよう、なるべく不敵に微笑んで。

[月下の奇術師に、不可能はありません……手を、取りますか?]


そう。俺はスーパーヒーローじゃねえし。あのどっかのちびっこ探偵みてえに、正義感に溢れてるわけでもねぇ。結局はただの盗人だ。

ルパンのおっさんにも、優先すべきを間違えんなって、ごもっともなこと言われてる。


でもよ。

── 天下無敵の怪盗キッドの、今世紀最大のショータイム!ばっちり、決めてきてね!

杏がさ。心配でしょーがねぇくせに、それでもくれた精一杯の言葉。

そう。
こんくらいのハンデくらい、易々とクリアしねぇと、天下無敵の名が廃るってもんで。

わりぃなルパンのおっさん。怪盗キッドは、欲張りなんだ。
やりてぇもんは、全部、モノにすんだよ。──杏の前で、ちゃんと笑ってコイツを渡す為にも。気がかりなんて、残しちゃいけねぇの。



インカムから連絡が来る。ルパンのおっさん達の目的も果たしたらしく、管理棟制圧から逃走に入るらしい。──逃走ルートも、もって、あと10分ってとこか。

アルビノの双子の首に嵌められている枷。GPSも付いて、どうやら躾の為にか、電気ショックも流れる仕組みになってるみてぇで。どこまでも反吐が出そうなその首輪をとっとと外し──ちっ。ちいと面倒な仕組みになってやがる……下手に衝撃を与えるだけでも電気ショックが流れるってか。
くっそ時間ねぇっつうのに。

たらり、と背中に嫌な汗がながれるのを感じる。

そこで、不安そうにこちらを見る4つの紅い瞳が見えて。お得意のポーカーフェイスでにっ、と笑った。

[──これくらい、「おちゃのこさいさい」ですから]

[「オチャ ノコ サイサイ」?]



* * *


「快斗君……どえらいことになりました」

そう言って、ぺしょりと首を項垂れてた杏が持ってきたのは、馨さんに借りたというブレスレット──と、本人は言っているが、もはや鎖の玉になっていて原型がわからないものを手のひらに納めている。

「杏ちゃん、これはすげえな。何をどうしたらこうなった?」
「何をどうしたらまで話し出したら、1時間はかかる長大作だけど、聞く?」
「──まあ、いつものやつってこったな」
「うぅ……」

コレ、馨ちゃんのお気に入りなのに……とべしょりと項垂れる杏。
どうやら、杏もたまには、ながらトレーニングでもしたらどうだ、と普段馨ちゃんが付けてるコレを渡されたそうで。トレーニング?ブレスレット?鎖の玉?どゆこと?

「んで、どうなっちゃってんだ、これ」

そう、疑問を残しつつも受け取ると。
ずしり、と見た目からは考えられない重さを感じて。

「え。ナニコレ」
「馨ちゃんオススメ筋トレブレスレット。見た目華奢可愛いのに、付けてるだけで腕が鍛えられる優れもの」
「……杏ちゃん。コレ、付けたの?」
「……付けたの」
「──ったくオメーはよぉ……」

こんなん付けたらバランス崩すに決まってんだろ!タダでさえすっ転ぶ身体だってのに!
いつもだったらこんこんと説教でもしている所だが、大事な友達のものをぐるぐる鎖の玉にしてしまったということで、もう既に凹みまくってる杏を見ると。それ以上は言えず。

「──っんとによぉ。ちぃっと待ってな」

そう、杏の頭をぐしゃりと撫でて、どしりとその場に胡坐を掻いた。
──オイオイすっげえこんがらがってんな。無理やり力入れるとチェーンが切れちまいそうだ。なにより、重てぇから指で作業すると指トレみたいにきっちぃし。まじかよコレ。

ちらり、と杏を見遣ると、少し潤んだ瞳でこちらを心配そうに見つめている。あーもう、そんなうるうるお目目しちゃってまあ。

っとにしゃーねぇ。黒羽快斗様に不可能の文字はねぇってか。

そう、ぐるぐるにこんがらがったブレスレットを、細心の注意を払いつつ、千切ることなく元通りに戻して。

ふぅ、と心の中で一息ついて「ほらよ」とまるで、こともなげに杏の元に戻すと、こぼれ落ちんばかりにその瞳を見開いた。

「──元に戻ってる!!え!すごい!!」
「黒羽快斗様にかかりゃあざっとこんなもんよ」
「すごいすごい!!うわあ!ありがとう快斗君!!本当、快斗君にかかれば、こんなヤバイブツでもなんでも、おちゃのこさいさいなんだね!!」

そう、興奮気味に杏は笑った。
俺がいっとう好きな、あのきらっきらのお目目で。



* * *


意味がわからず首を傾げる2人に、余裕っていう意味ですよ、と不敵に笑って。

──そ。これくらい、俺にかかりゃなんってことねえってわけだ。な、杏。




──うし。ここを、こうして、こう、だ!

かちゃり、と取れた首輪を見て、感涙して抱き合う2人に見えないように、ほっと息をついた。


──あと、5分くらいか。

感動してる2人を急かし、部屋を出る。
足音と、喧騒が聞こえる中。2人がいるので、慎重に死角になるように脱出経路へと進む。

インカムからまだ来ない俺に連絡が届くが、それを返してる余裕もない。時間ねぇぞ!何してんだ!的な怒鳴り声に、心の中で、わーってるっての!と返しつつ、他の追手に見つからないように、通路の邪魔する警備員は皆トランプ銃で速やかに排除して。

見えた扉。侵入時に解除した、そのままの姿にほっとして。

[ここを抜ければ、地上に出ます。インターポールを呼んでますので、直に付近までやってくるでしょう。そちらに助けを求めなさい──その姿は目立つ。こちらの帽子を。そう。取れないよう、しっかり目深にかぶって]

そうして、黒いキャップを2人に被せたところで。居たぞ!!と後ろから叫ぶ複数の声。

[──あり、がと……っ!]
[──さあ!!急いで!!!]

掠れた、感謝を述べる声を背後に、ばたん!と扉を閉めた。

──もう、管理棟も元通り。
目前に迫る追手に、脱出口も塞がれ、た、か。


[──あー、こちらKID。K地点にいるアルビノの双子に、ピンクアイオニーを預けたんで、あとよろしく。男の方の、帽子ん中。あと、2人を出来ればフォローしてやって欲しい。──よろしく頼むよ、俺の憧れの怪盗の皆様]

[バカ野郎!あんだけ言ったってのにヨォ!あーー!これだから盗一の息子は!これだよ!]
[──馬鹿者が]
[まだまだお尻のブルーな坊ちゃんね……膨らんだ貸しはしっかり返してもらうからね?]
[──オイ。死ぬんじゃねぇぞ]

[当たり前っす。待ってるやつがいるんで]

インカムから声が響く。これ以上は逆探知されかねないので言い逃げのように一言残してインカムを破壊して。

銃声と怒号が響く。
扉から意識を逸らす為にも、思いっきり派手に行きますか。


「Ladies and gentleman ‼︎ It's show time‼︎」


さあて。こっからが天下の怪盗キッド様のショーの始まりだぜ?






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