#127





「直りそう?」
「おー。こんぐれぇすぐ直るって」

私の目の前には、かちゃかちゃと、チェーンを弄りながら、小さな快斗君がネックレスを直している姿。
私がどのように、快斗君がいない間過ごしていたかを軽く話をして。そうして、ネックレスが切れちゃった事を話した瞬間にすぐ、直してくれると言って今に至る。
 
──哀ちゃんみたいに小さくなっている快斗君。
哀ちゃんが、何か、を渡したのであろうことは、先ほどの会話で何となく分かったのだけれど。……聞いてもいいものなのだろうか。どうして、今、快斗君は小さいのか、とか。俺から話すと、快斗君は言っていたし。待った方が良いのかな。そう、快斗君を見ながら思考を巡らせてみるんだけど。

──うーん。だめだ。とにもかくにもめっちゃめちゃ可愛いくてだめだ。何も考えられなくなる。頭を下に向けてるので、ふわふわの髪が、私より低い位置にあり。小さなつむじが見える。
こんな小ちゃいのに、器用にチェーン直してくとか。ちらと横から覗くと、真剣な表情をしていて。いやいやいや。かっこよくて可愛いって、最強じゃない?
あーだめだ!思考が回らず、とにかく抱きつきたくなる。危険危険。

「──杏ちゃん、視線が痛いんすけど」
「ご、ごめんつい」
「ほれ。直った。そのまま後ろ向いて」

言われたままに、くるりと座ったまま後ろを向いて。
首に、しゃらり、と重さがかかる。久しぶりに戻ってきた感覚に、嬉しさが込み上げて。快斗君に向き直ろうとしたところで、後ろから、小さな手がぎゅ、と私を抱きしめた。

「──本当は、もっとちゃんと抱きしめてぇんだけど」
「この状態でも、ものすっごく心臓を握りつぶされてますけど」

いや本当、きゅんがやばい。私の返答に、快斗君がふは、と息を吐くみたいに軽く笑って。

「そんな可愛い?俺」
「半端ない。かっこかわいい。すごいやばい」
「そ?まあでも、この身体じゃ、杏を今めちゃくちゃ抱きてぇのに、なんも出来ねぇわけで」
「……」

どストレートすぎる……っ。恥ずかしさに、思わず押し黙る私に、快斗君が言葉を続ける。

「……んで、多分杏も気になってっと思うんだけど。哀ちゃんが、小さくなってんのは、聞いたんだよな?」
「──うん」
「まあ、俺のこの姿も、哀ちゃんと同じ感じなわけで。俺はまあ、脱出すっ為に自分からこうなったわけなんだけどな。んで……ちぃっと、な。いつ、元に戻れるかわかんねぇんだわ」

快斗君が後ろから抱きしめてくれていて良かった。
今一瞬、絶対出てしまった。私のせいだ──なんて思ってしまった顔。
快斗君には、絶対見せたらダメなやつだ。

「私はかっこかわいい快斗君を堪能出来るからとても役得だよ?前も言ったけどさ。快斗君が例え小さくても、アメンボでも、快斗君であることに変わりはないから──ああでも、ソウイウコトするのは、しばらくお預けだね?」

出来るだけ、冗談みたいに聞こえるように。
そう言って、快斗君の方を振り向いて笑いかけた。私の顔を見て、快斗君が少しほっとしたのが分かった。
良かった、これが正解だったようだ。

「あー、くそ。それが1番しんどい」

ぐりぐりと、私の背中に快斗君が頭を寄せる。ふふ、と笑って、私の鎖骨辺りに伸ばされている手に、自分の手を寄せた。

「……本当、快斗君が、無事に帰ってきてくれただけで。私はたとえ、快斗君がカエルになって戻ってきたとしても充分で。沢山無茶、したんだよね?」
「──ん、んんー……はい」
「たとえ、快斗君を信じててもさ。それとは別に、そりゃ、私だってすごく心配をしちゃうわけでして」
「……ごめんな」
「誕生日も、お祝いできなかったし。今度、遅れちゃったけど、お祝いさせてね?」
「……おお」
「好き」
「……あーもーーー!せめてちんこだけでいいから元に戻ってくれ……!」

どうかんがえてもそんな姿は怖いんだけど、切実な声でそういう快斗君がおもしろくて、思わず笑った。


「そういえばさ、快斗君、お母さんは一緒に戻ってきたの?」
「ん?いや、母さんはまだあっちでの処理も色々残ってて、俺だけなんとか戻ってきた。早く杏のとこに帰りたかったし。日本着いてそのままここに来た」

そんなことさらりと言われ、思わず頬が熱くなる。
ん、てことは。

「あの豪邸に1人!?」
「いや、今までもそうだったんすけど。てか豪邸て」

……この、小さいあんよとおててで?1人で暮らすって?
普通の一軒家だけど、と快斗君が突っ込んでいるのは、もはや耳に入らず。快斗君がお湯を沸かそうとして脚立にのってバランスを崩すところを想像して、真っ青になった。
 
「──だめだよ!多分すっごく大変だよ!!そうだ!うちで一緒に暮らそうよ!」

私がそう言うと、快斗君がきゅるんとした蒼いおめめをぱちぱちと瞬かせた。少し、目元を紅く染めて。

「──何杏ちゃん、それって、プロポーズ?」
「……!!いや、えと、違くて!だってその姿で家に行き来するのも、何かと危ないんじゃないかと思って……!!」
「いやほんとその通りなんだよな。だからしばらくホテル暮らしでもすっかなーと思ってたんだけど。……どーする?一緒に、暮らす?」

ぐはっ、と思わず胸を押さえた。
久しぶりの快斗君というだけで大変なのに、こんな可愛い姿を見せて!さらにこんな……!あざと可愛い顔でこちらを見遣るなんて!なんて恐ろしい男の子!!

こくこくこく!と言葉も言えずに頷く私に、快斗君が手を伸ばし。
少し背伸びをして、「あんがとな」と、ちゅ、と頬に唇を寄せた。

「ま、親父さんも一緒だから、新婚ごっことはいかねぇけどな」

なんて言って、後ろから抱きつかれてた身体を離されて、私はそのまま崩れ落ちた。

「──っ!!私、悶え死ぬかもしれない……」
「なぁ、ちょっと思ったんだけど。今の俺の方が杏なんかすげぇ反応良くない?」

解せぬ。と言った様子の快斗君すら可愛いので、「ソンナコトナイヨ」と応えておいた。



そうして。
小さな快斗君と一緒に過ごす、夏が、始まったわけで。




 


* * *
 
 


「──まあ、来るだろうと思ってたわ」

ただ、その姿でも窓から来れるなんて、驚きだけど。
そう、哀ちゃんは苦笑をひとつ。
白装束ではなく、キャップを目深に被りジーパンにTシャツ姿で窓からお邪魔した俺は、まごう事なき泥棒っぽさだろう。まあ、子供の姿で、なのでどうかはわからないが。

「──杏さんは?」
「もう寝た。……多分、安心して、疲れがどっとでたんだと思う」

一緒に夕食をとり、風呂も終えたあと。こくりこくりと舟を漕いでいたので、もう寝るか?と声を掛けると、「起きたら快斗君が居なくて。全部夢だった……とかに、ならないよね?」と縋るように言われ。

「──大丈夫だから。一緒に寝るか?」
「うん」

寸分の迷いも無くそう返答されて。
布団に入るとしがみつかれ、抱き枕にされて、3秒もせずに寝入った杏の柔らかな身体の誘惑からようやっと抜け出して、ここにきた。

どうやら寝不足だったみたいなので、しばらくは起きないだろう。
……眠そうな姿を見るまで、全然気付かなかった。
多分、目の隈とかも、出来ないのか、出来ても元に戻るのか。
どれくらい、ちゃんと寝ていなかったのか。

思わずぎゅ、ときつく拳を握りしめていると、哀ちゃんから声がかかる。

「早く帰りたいでしょうから、手短に話しましょう。──貴方の身体が、私たちより、小さいのは。十中八九杏さんの体液を接種したからだと思われるわ。普通に杏さんと一緒にいるだけではそうなることはないでしょうけど。あなた達の場合は濃厚接触という事になるでしょう」
「……なんかエロいね。体液摂取って」
「……ふざけないでちょうだい」

絶対零度の声に、すいません、と小声で謝る。絶対の絶対、名探偵は哀ちゃんの尻に敷かれているはずだ。

「で。貴方の中に残る、杏さんの体液は、普段だったら何の反応も起こさなかったのでしょうけど。今回、アポトキシン4869を摂取した事により、過剰反応を起こして、薬の効果が強く出てしまったんでしょうね。──本当、死ななくて良かったとしか言いようがないわ」
「悪運は強い方だから」
「全くだわ。もちろん、それで全て片付けて良いわけではないわよ。全く、貴方もどっかの推理バカさんも、慎重という言葉をもう少し脳みそに叩き込んで欲しいわ」

そう、深いため息をひとつ吐いて、鋭い瞳でこちらを見遣る。

「──で。そんな過剰反応を起こす体に、解毒剤を投与する危険性は、わかるわよね」
「──ああ。ちゃんと、杏にも戻れるかわかんねぇって、話はした」

意識が戻って。この身体を確認したときに、大きさが江戸川コナンよりも小さいと思った。変装を得意とする怪盗なんで、その辺りの目視には自信があったし。
そのときに、もしかすっと、そういうことなんじゃねえかと、予想はしていた。
まあ、その予想通りのことを、哀ちゃんに言われたので、驚きもなく。

「ま、俺が生きて戻って来れて、目当てのビッグジュエルも無事盗ってこれて。それ以上を望むのはむしろ烏滸がましいってもんで」

哀ちゃんに責任を感じてほしくなくて、両手を後ろ頭に組みながら、軽い調子でそう言って。

──まあ、杏を腕ん中にすっぽりと抱え込みたいのに、それが出来ねぇのは。想像以上にしんどいもんだと、実感したけどよ。
 
「……杏さんには、もっとちゃんと、何故、貴方が小さいまま、戻れないのか。私の業も含めて、話すべきではないかしら」
「んー。話したところで、俺が戻れるわけではねぇし。あいつが、妙に責任感じたら、俺が嫌だから。もちろん哀ちゃんもな。何度も言うけど、哀ちゃんのおかげで帰ってこれたわけで。この身体になったおかげだから」
「──まあ、それが、貴方よね。良いのだけど……私もできる限りで、研究は続けるから。ただ、期待はしないで。貴方の身体で起こりうる過剰反応は、試作品すら試すのも危険だから」
「わーってるって。もう覚悟は出来てっから。俺より名探偵をどーにかしたげてよ。んで、俺が今日わざわざここに来たのは、
杏には、もうこの身体の事ついて、哀ちゃんからは特に何も言わないで欲しいってお願いしたくて」
「工藤君の身体を元に戻すのは、私にとって当たり前に最優先事項よ。──わかったわ。貴方がそう望むなら、私からは何も言わないわよ。もう、大体言いたいことは言ったから、さっさと帰ったら?杏さんが、もし目を覚ましたりして、1人だと、絶対動揺するわよ?」
「……いやほんとソレ。とっとと帰らせてもらうわ。哀ちゃん、杏にフォローも色々してくれたんだろ?ありがとな。んじゃまた!」

……杏さんは、取り繕ったところで、今の現状に何も感じないような人ではないと思うのだけれど。
怪盗さんがそう望むなら、仕方ないわね。

そう、哀ちゃんが呟いた言葉は、早く杏の所へ戻りたいと、一目散に部屋を出た俺には、届かずに。



──結局、俺は。都合の良いとこだけ、杏にみせたいってとこ、なんも変わってなかったんだろーな、って。


あん時。やっと気付いたんだ。




 
 
 
 

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