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さて、日付は変わって翌日のことである。私は透さんと一緒に、ツインタワービルへとやって来た。
MAISON MOKUBAからは少し距離があるので、透さんの運転でちょっとしたドライブになったわけだが、都内といえど遠出をするというのはやはりわくわくする。
残念ながらハロはお留守番。出かける際に寂しそうに泣いていたからとても後ろ髪を引かれたが、連れてくるわけにはいかなかった。
帰りに何かハロにお土産を買っていこうかな。ちょっと高めのおやつとか。
「……それにしても……なんというか、やっぱり高いですね……」
「純粋に高さで言えばベルツリータワーの方が高いですが、双子のビルとしては随一の高さですからね」
車を駐車場に停めてビルの正面までやってきた。今日は雲の位置が少し低いせいか、最上階は雲よりも高く伸びていて見上げていると首が痛くなってくる。
毛利さん達とは、ビルの入り口で待ち合わせ済みだ。予定の時間までもう少しだから、そろそろ到着する頃だろう。
そんなことを考えていたら、ふと複数の足音が聞こえて透さんと一緒に振り向いた。見覚えのある子供達の姿に目を瞬かせる。
「……あれ、安室さんとミナさん?」
「あっ!ミナお姉さんだ!」
「安室の兄ちゃんも一緒か!」
ビル前のロータリーの横断歩道を挟んだ先にいたのは、コナンくん始め少年探偵団の子供達。阿笠博士の姿もある。
彼らは確かキャンプに行っていて、今日帰ってくる予定だったはずだけどどうしてここにいるんだろう。哀ちゃんは透さんの姿を見るなり阿笠博士の後ろに隠れてしまった。……相変わらず透さんのことは苦手みたいだ。
コナンくんに声をかけようとしたタイミングで、ビル前に一台のタクシーが入ってきた。毛利さんと蘭ちゃん、園子ちゃんの姿がある。時間ぴったりである。
私と透さんに気付いた蘭ちゃんが窓の中から手を振ってくれたので振り返したが、蘭ちゃんもタクシーを降りたところでコナンくん達の姿に気付いたらしく目を丸くした。
「コナンくんじゃない!」
「蘭姉ちゃんまで。皆そろってどうしたの?」
「それはこっちのセリフだよ。皆、キャンプに行ってたんだよね?」
「キャンプの帰りにこのビルを見に寄ったんだよ。ミナさん達は? ……おじさんや蘭姉ちゃん達と一緒の用事?」
私はキャンプを断ってしまったからどこまで行ったのか知らなかったけど、キャンプの帰りにここに寄ったということは西多摩の先にあるキャンプ場だったのかな。
コナンくんは私と透さんの顔を見てから、毛利さんや蘭ちゃん、園子ちゃんの顔に視線を移した。まぁ、これだけの人数が集まったら偶然という感じはしないよね。
毛利さんはまさか子供達と遭遇すると思わなかったのか顔をしかめていたが、コナンくんの問いかけに咳払いをひとつすると口を開いた。
「このツインタワービルのオーナー常盤美緒くんは、俺の大学のゼミの後輩でな。来週のオープンを前に、特別に!招待してくれたんだ」
「へー、知らなかった」
「でしょー!? お父さんったら私にも黙ってたのよ。様子がおかしいと思って問い詰めたら白状したの」
「白状って! 俺は別に……!!」
「そっかー! おじさんの行動を監視するために蘭姉ちゃん達が!」
「何しろ常盤美緒さんっていったら、常盤財閥の令嬢でまだ独身だからね〜。両親が別居中の蘭としては心配なわけよ」
園子ちゃんの言葉にも蘭ちゃんは苦笑するだけで否定はしない。
……口を挟む隙がないから黙っているしかないのだけど、この感じだと蘭ちゃん結構怒ってるんじゃないかな。毛利さんもどこかそわそわしてるし……娘としてはきっと心配になっちゃうよね。
ちら、と透さんの方を見れば、彼も少しだけ苦笑していた。毛利さんが気まずさを少しでも緩和する為に透さんと私を呼んだという透さんの予想は、どうやら当たっているようだ。
毛利さん、本当に尊敬しているし素敵な人だけど、これは良くない、気がする。可愛い一人娘に心配をさせるのはやっぱり良くない。
妃英理さんとは毛利さんが容疑者になってしまった一件の時にお会いしただけだが、本当に素敵な方だった。あの時、毛利さんと妃さんの絆というか愛というか、夫婦としての深い繋がりもしっかり見せてもらったはずなんだけどな。
それだけで納まりきらない男心とでも言うのだろうか。なんというか複雑だ。
「失礼ですが、毛利小五郎様でしょうか」
ビルの前で話し込んでいたら、正面ゲートから一人の女性が出てきた。
控えめで穏やかな雰囲気の綺麗な人だ。女性は毛利さんを見つめるとにこりと微笑んだ。
「私、社長の秘書の沢口と申します。ただいま社長は接客中でして……先にショールームの方をご案内致します」
毛利さんの口添えもあり、少年探偵団の子供達と阿笠博士も一緒に中に入れることになった。
ツインタワービルはA棟とB棟に分かれており、私達が案内されたのはA棟の方だ。
何でもA棟は全館オフィス棟で、三十一階から上は全てTOKIWAグループが占めているとのこと。めちゃくちゃ大企業だ。さっき園子ちゃんが「常盤財閥」なんて言ってたけど、常盤美緒さんって本当にすごい人なんだな。
「透さん、TOKIWAってどんな会社なんでしょうか」
「パソコンソフトを中心に、コンピューター関連なら何でも請け負うIT企業ですよ」
二階と三階にあるショールームに向かうエスカレーターで、透さんが教えてくれた。
コンピューター関連と言うと範囲が広すぎていまいちぴんと来なかったのだけど、透さんはそんな私のこともお見通しのようで「ゲーム関係でも有名ですね」と付け加えてくれた。さすがである。
ショールームの階には透さんの言った通り最新のテレビゲームやアーケードゲーム、ちょっとしたアトラクションのようなものまであって、コンピューター関連の意味をようやく理解する。
メインはこれじゃないとはいえ、ショールームなら誰でも親しみやすいものを展示した方が良いってことなんだろうか。子供達は当然ながら皆目を輝かせているし、子供じゃなくたってこういうのはちょっとウキウキしてしまう。
「皆、何見てるの?」
「これなんだろうって!」
「ゲーム機でしょうか……」
元太くん、光彦くん、歩美ちゃんが何やら大きな機械の前にいたので声をかけた。
機械には座るところがあるけど、座席の前にモニターがあるわけでもなく遊び方もよくわからない。テレビゲーム、みたいなのとは少し違うみたいだけど。
首を傾げていたら、TOKIWAの専務でプログラマーの原さんがにっこりと笑って歩み寄ってきた。丸眼鏡をかけた人のよさそうな男性だ。
「やってみるかい? これはね、コンピューターが十年後の顔を予想してくれるんだ」
「十年後の顔を?」
興味を持った阿笠博士と歩美ちゃんが、原さんに促されて機械の椅子へと腰を下ろす。原さんが機械のスイッチを入れると座席の頭上から顔全体を覆うヘルメットのようなものが下りてきて、パシャリと写真を撮ったようだった。
十年後の自分の姿……気にならないわけじゃないけど、皆がいるところでやるのはやっぱりちょっと勇気がいるというか。これからの十年で一気に老け込んだりしてたらどうしようというか……。子供であったなら楽しめたかもしれないけど、これは大人にはなかなか怖い機械かもしれない。
「ミナさんは良いんですか? やってみなくて」
「……透さんがやってくれるなら、考えますけど」
「僕はちょっと。ミナさんは十年後でもあまり変わらなそうですけどね」
「それ、透さんに言われてもなぁ……」
ただでさえ整った顔立ちだというのに、何せ三十路手前にしてこの肌つやである。十年後だって変わらずかっこいいに決まってるし、正直透さんが老けるっていうのはあまり想像できない。でもきっと良い年の取り方をするんだろう。
「はい。これが十年後のお二人の顔です」
写真が出来上がったようなので、透さんと一緒にまずは阿笠博士の写真を覗かせてもらった。が、……特に変化は無いように見える。わくわくとしていた光彦くんと元太くんもちょっと拍子抜けしている。
「なんだよぉ、変わんねーじゃねぇか」
「壊れてますよぉ、この機械」
「いや、壊れてねぇよ。歩美ちゃんの見てみろよ」
コナンくんの声に、歩美ちゃんの方へと足を向けた。歩美ちゃんは手にした写真を大事そうに持ったままほんのりと頬を赤く染めていて、一体どんな十年後なんだろうとその手元を覗き込んで思わず声を上げた。
「かっ、可愛い……!」
少しだけ髪が伸びて、優しく聡明な顔立ちになった歩美ちゃんが写真の中で笑っていた。今でもとても可愛い女の子だけど、成長したらますます美人さんである。これは、これはきっと大層モテるに違いない……!
写真を見た光彦くんと元太くんも頬を緩めて大絶賛だ。
「この姉ちゃんよりイケてるぜ! 絶対!」
「こらっ、元太くん!」
元太くんが園子ちゃんを指差してとんでもないことを言うので考えるよりも先に叱ってしまった。歩美ちゃんとはタイプも違うけど園子ちゃんもとても美人さんなのだ。蘭ちゃんも園子ちゃんも歩美ちゃんもそれぞれみんなが可愛くて美人さんで、それに優劣をつけるのは絶対に良くない。からかったり冗談だとしてもそういうのは絶対に良くない。
「ふん、いいのよミナさん。ガキにはオトナの魅力がわかんないのよ!」
「そ、そういうことなのかなあ……」
園子ちゃんが良いなら、まぁ、いいのだけど。
その後元太くんと光彦くん、蘭ちゃんと園子ちゃんも十年後の写真を撮り、それぞれ見せてもらった。
元太くんと光彦くんは今のまま大きくなったって感じで、二人とも何故か不服そうだったけど私は素敵だなと思った。きっと十年後になったら、十年前の写真を見て「全然変わらないな」なんて笑い合えるんだろう。
園子ちゃんの十年後もすごく美人さんだ。ショートヘアをきりっとオールバックにして、いかにも出来る女って感じの。もしかしたら十年後は女社長とかやっちゃってたりして。
蘭ちゃんはますます綺麗になって、お母様である妃英理さんの面影がはっきりとわかるようになった。毛利さんも「英理の若いころにそっくりだ」と鼻高々な様子。なんだかんだやっぱり素敵な夫婦だな。
「ミナさんと安室さんもやりなよ! 私見てみたい〜!」
「えっ、えっ、いや、ちょっと遠慮しておくよ……! 恥ずかしいもん」
ぐいぐいと園子ちゃんに背中を押されて慌てて首を振る。自分の十年後なんて今はまだ想像出来ない。自分の顔がどうということより、透さんと変わらず一緒にいるのだろうかとかそういうことの方に思考が行ってしまうというか。
園子ちゃんは私の返答がお気に召さなかったらしく、むっと口を尖らせると透さんの方を振り向いて言った。
「ねぇ、安室さんも見たいよね! 十年後のミナさん!」
そこで透さんに振るのか。ちょっと助けを求めて蘭ちゃんの方を見てみたけど、彼女はぱちぱちと目を瞬かせるとほんの少しだけ申し訳なさそうに笑って手を合わせた。助け舟は出してくれないらしい。
確かに。全力で拒否するようなものではないとは思う。だけど、進んで見たいかと聞かれたらごめんなさいと答えるだろう。子供のように無邪気ではいられない。大人は複雑なのである。
「まあ、そうですね。確かに見てみたいという気持ちはありますよ」
「ほらぁっ!」
「ですが……」
どうやってこの場を切り抜けようかと考えていたら、透さんが小さく笑いながら私と園子ちゃんの方へと歩み寄ってくる。
ぱちりと目を瞬かせながら透さんを見上げ、透さんはそんな私をちらりと見てから私の手を取り、ぐいっと自分の方へと引き寄せた。
決して強すぎる力ではなかったけど、急に引っ張られたため小さくたたらを踏む。彼の大きな手のひらに肩を抱かれて、どきりと胸が跳ねた。
「これからの十年間の楽しみというものもあるので。今この場で十年後のミナさんの顔を見てしまうのは、正直勿体ないんですよ」
園子ちゃんが息を飲む声が聞こえた。同時に、私の顔にもかあっと急激に熱が上がる。
「そっ、……それは失礼をば……!」
「ちょっと園子……!」
「想像以上にラブラブだわこの二人……!」
聞こえてる。全部。私の耳までちゃんと、全部聞こえてるよ。
あまりの恥ずかしさに透さんの胸元から顔を上げることが出来ない。こんなことなら、十年後の写真撮って皆に見られる方がまだマシだったかも。
「ね。ミナさんも、僕と同じでしょう?」
これからの十年が楽しみですね。小さく囁かれて、私の心臓は爆発寸前の危機なのであった。
その後、コナンくんと哀ちゃんも皆に強制されて十年後の写真を撮ることになったのだけど、何故かエラーになってしまい写真が撮れなかった。
二人ともどこか安心した様子に見えたのは、私の気のせいだったのだろうか。
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