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たっぷり二時間、四時まで皆でお話をして、私の退院祝いパーティーは終了した。途中から安室さんや梓さんも話の輪に入って、話をするだけじゃなくて軽くトランプゲームなんかもやったのだが…神経衰弱をした時の、コナンくんと安室さんの強さには言葉を失った。二人のターンで一気にトランプが無くなっていくのは圧巻だった。なんで一発でトランプの模様を間違いなく覚えていられるのか私には全く理解出来なかった。コナンくんと安室さんは脳の造りからして私みたいな一般人とは違うのだろう。途中からコナンくんと安室さんの一騎打ちみたいになって、結局勝負は引き分けに終わったのだけど。パーティーが終わってお会計を済ませようとしたら、安室さんに丁寧にお断りされた。曰く、毛利さんが全てお支払いを済ませてくださっているとのこと。
そんな毛利さんは、トランプゲームを始める前に上の階の事務所の方へと戻られてしまっていた。
「えぇ…どうしよう、そんな、申し訳ない」
「大丈夫ですよ。そもそも、パーティーの主役であるあなたにお金を出させるはずがないでしょう?」
安室さんにそう言われ、渋々財布を鞄に仕舞い直した。今度毛利さんにも何かお礼をしないと。お酒が好きなようだったから、ビールのセットとか良いかもしれない。
「ミナさん、明日空いてる?」
パーティーの帰り道、駅まで送るとついてきてくれたコナンくんにそう尋ねられた。
働いてもおらず、今は傷の完治の為にあまり動き回ったりしていない為特に用事も何も無い。私は少し考えてから、コナンくんを見つめて頷く。
「うん、特に何も無いけど」
「じゃあ明日ボクと一緒に、灰原と昴さんに会いに行かない?」
今日は来られなかったけど、二人ともミナさんに会いたがってるんだよ。コナンくんに言われ、ぱちりと目を瞬かせる。
えぇと、確か哀ちゃんは阿笠博士のお家に住んでいて、その隣に沖矢さんが住んでいるんだったか。菓子折を持ってご挨拶に行きたいと思っていたところだったから、コナンくんの申し出はありがたいものだった。
阿笠博士のお宅には一度だけ行ったことがあるし地図にも記載してあるが、やはり一人で行くには不安だったのである。
「本当?嬉しいな。一緒に行ってもいい?」
「うん、もちろん!」
沖矢さんと哀ちゃんに何をお土産にしようかな。沖矢さんも哀ちゃんも苦手な食べ物とかないといいのだけど。焼き菓子くらいなら何でも食べてもらえるだろうか。
そんなことを考えながら、コナンくんと明日の午後一時に米花駅で待ち合わせをしたのだった。
***
翌日の日曜日、待ち合わせ前に駅前の洋菓子店でマカロンとマドレーヌをそれぞれ購入した。マカロンは哀ちゃんに、マドレーヌは沖矢さんに。二人とも食べてくれると良いのだけど。
待ち合わせ時間になってコナンくんと合流した私は今、彼と一緒に阿笠博士のお宅へと足を向けている。
「そういえばミナさん、今更だけどさ。傷はまだ完治してないんだよね?」
「うん。まだ時々引き攣ったり、鎮痛剤が切れると痛んだりするよ」
「歩いたりして平気なの?」
「それくらいは大丈夫。今日は鎮痛剤も持ってきてるから、多少なら問題ないよ」
「…多少ならって…。無理は厳禁だよ、安室さんに怒られちゃう」
「何でそこで安室さんが出てくるのかな」
思わず苦笑する。今の話の流れで安室さんが出てくる要素があっただろうかと考えていたら、コナンくんが小さく肩を竦めた。
「だってミナさん、昨日恋愛の話してる時にちらっと安室さんの方見てたでしょ」
「えっ」
「本当にミナさんって安室さんの彼女じゃないの?」
「違うよ!!」
なんという観察眼をしているんだ、この少年は。顔が急に熱くなって、思わず立ち止まってムキになりながら否定した。けれど、私につられて数歩先で立ち止まりこちらを振り向くコナンくんは…笑っていなかった。決して不快ではないが、何かを探ろうとしているような視線を感じる。
安室さんよりももっと青い、青空のような瞳。その瞳に真っ直ぐ見つめられて、私は口を噤んだ。
「…えぇと…コナンくん?」
「ミナさんは、安室さんの大事な人…なんだよね」
「…それ、前も言っていたよね。どういう意味?」
「安室さんが言ってたんだ。ミナさんは大事な人だからって。その意味が知りたいと思ったんだ」
大事な人。その言葉に込められた意味は、私は安室さんじゃないからわからない。すっと胸が凪いで、私は視線を地面に落とすとほんの少し考え込んだ。
「…私は、安室さんじゃないからわからないよ」
「ミナさんにとって、安室さんは大事な人ではない?」
「大事な人だよ。…とても、とても大切な人。でも、それだけ」
「ミナさん、安室さんのこと…好きなんだよね?」
コナンくんの問いに苦笑が浮かぶ。
なんだかんだ頭が良くても、こうしてストレートに物事を尋ねてくるのはやはり子供らしいなと思う。けれどそれと同時に、この子に嘘は吐けないとも思う。
「好きだよ。でも、言ったでしょ?想いを通わせるだけが恋愛じゃないんだよ。私は、安室さんのことを好きだなと想い続けられればそれでいいの」
私の言葉に、コナンくんは少し困ったような顔をした。それから、ほんの少しだけ首を傾げる。
「…それ、辛くない?」
「うーん、どうかな。まだ始めたばかりだからあまりよくわからない。…でも、もう決めたことだから」
安室さんを想い続けられるような、いい女になりたい。自分が安室さんに釣り合うような女だとは思わない。だからせめて、胸を張って誇っていられる人間でいたいと思う。
へらりと私が笑うと、コナンくんは小さく息を吐いてから苦笑した。それから、そっか、と呟く。
「ねぇミナさん」
「うん?」
再びコナンくんと一緒に歩き出しながら、声をかけられて視線を向ける。
「ミナさんってさ、バーボンは好き?」
脈絡のない問いにぱちぱちと目を瞬かせる。
小学生なのにバーボンなんてよく知ってるな、と思いながら首を傾げた。
「え?たまに飲むくらいかな…?あぁでも、バーボンウイスキーよりはライウイスキーの方が好きかなぁ」
スパイシーな飲み口が美味しくてたまに飲みたくなるんだよなぁ、と呟く。
なんて言っても、さすがにわからないかと思い苦笑した。何気なく口にしたことだしと思いながらコナンくんを見ると、何故だか頬を引き攣らせている。
その、微妙な半笑いは一体何なのだろうか。
「…ミナさん」
「…え、はい…?えっ、なに?」
「そのこと、安室さんには言わない方がいいよ」
「どうして?!」
***
阿笠博士のお家は広い。
「おぉ、よく来たのう。初めまして、儂が阿笠じゃ。コナン君達から君の話は聞いておるよ」
「初めまして、佐山ミナと言います。私も少年探偵団の皆から阿笠博士のお話は伺ってます、お会いできて嬉しいです」
阿笠博士の家に到着すると、玄関先まで迎えてくれた阿笠博士と挨拶を交わす。話には聞いていたがこうして会うことが出来て嬉しく思う。目の前の彼が様々な発明品を生み出しているのだから、ワクワクしてしまうのは致し方ない。
中に通されて、あまり見ない内装に思わずキョロキョロとしてしまう。不思議な家の造りをしていて、円形の可愛い内装だ。リビングに行くと、ソファーに哀ちゃんが座っていた。
「哀ちゃん、こんにちは」
「無事に退院したのね」
「お陰様で…。心配してくれてありがとうね。これ、博士とか皆と一緒に食べて」
マカロンの入った紙袋を手渡すと、哀ちゃんはきょとんとしながら紙袋と私の顔を見比べる。それから、むっと眉を寄せた。
「…どうしてあなたが私にお土産を渡すのよ。普通逆でしょう?」
「えっ、そ、そうかな…いや、だってなんか心配かけちゃったし…」
相手は小学生だと言うのに私のこの狼狽っぷりは何だ。哀ちゃん相手だと何故だか頭が上がらないと言うか、むしろ下がるというか…何とも言えない逆らえなさがある。反論なんて出来そうにもない。するつもりもないのだけど。
私が身を竦ませると、哀ちゃんはやがて深い溜息を吐いた。
「…元気になって、よ、…良かったわね。これは皆でいただくわ。……それから、……あの時は、私達を助けてくれて…ありがとう」
ぷい、とそっぽを向きながら告げられた言葉に目を瞬かせる。ほんのりとその頬が赤く染まっているのは気の所為だろうか。
あまりにじっと見過ぎたせいか、じろりと哀ちゃんに睨まれてしまった。でも、じわじわと喜びが湧き上がって頬が緩みっぱなしになる。
「…えへへ、どういたしまして」
「…気持ちの悪い笑い方をしないで頂戴」
嬉しいなぁ。可愛いなぁ。
哀ちゃんはそっぽを向いたままだったけど、素っ気ない言葉の裏にある思いを感じ取れてしまった。こんなに嬉しいことは無い。
私はスマホを取り出すと、哀ちゃんに差し出した。
「…なによ、これ」
「ねぇ、良かったら連絡先交換しない?」
哀ちゃんとも他愛ない話が出来たらと思ったんだけど、哀ちゃんはふんと鼻で笑うだけだった。
「…ダメかなぁ」
「……後で江戸川くんに聞いておくわ」
哀ちゃんのその言葉に、私はへらりと笑うのだった。
***
「…ここに沖矢さんが住んでるの?」
「そうだよ」
「表札が…工藤ってなってるんだけど…」
「昴さん、新一兄ちゃんの家に居候してるんだ。とは言っても新一兄ちゃんも家主の人達もほとんど帰ってこないんだけど」
「……待って、ちょっと待って、ごめん。今なにかすごいことを聞いてしまった気がする、ちょっと待ってコナンくん」
阿笠博士のお宅を後にして、そのままお隣へと移動する。そしてそのお隣のお家の大きさに言葉を失った。
…え、確かあの人は大学院生とか言ってなかったか。物凄いお屋敷だけれども、ここ、実家?そう思い表札を確認するもそこには沖矢ではなく工藤の文字。
頭を抱えそうになった瞬間コナンくんから爆弾発言をされて混乱する。
「新一…兄ちゃん…?」
「?うん」
「え?ここって、あの、有名な高校生探偵の、工藤新一くんの、お家なの?!」
「え?そうだけど…?」
「待って、新一兄ちゃんって言ったよね?え、コナンくん一体どういう関係…」
「し、親戚だよ」
「なんということでしょう」
かの有名な高校生探偵が蘭ちゃんの幼馴染なのは知っていたが、コナンくんとも繋がりがあったなんて初耳だ。
ええと、確か、工藤新一くんのお父さんは工藤優作さん。お母さんは工藤有希子さん。お父さんは有名な推理小説作家。お母さんは元有名女優。頭が痛い。
工藤新一くんに関して調べた時に、そんな物語みたいな生い立ちあるんだなぁと感心したものだ。しかしそれが知り合いの親戚だなんて聞いたら溶けてしまう。なんということでしょう。繰り返すが頭が痛い。
「ミナさん大丈夫…?」
「だいじょうぶじゃない…。え、私そんなお家に上がるわけにはいかない…チャイム鳴らして沖矢さんにここまで出てきてもらおう、そうしよう?」
「大丈夫だから、ほら、早く行くよ」
「大丈夫じゃないって言ったよね私!ええぇ本当に行くのぉ?!」
やだやだと大きな門にしがみつこうとするものの、コナンくんに手を引かれて中へと入ってしまう。今更だけどこれ不法侵入に当たるのではないか。住居侵入罪になってしまうのではないだろうか。
「…賑やかだと思えば…何してるんだい、二人とも」
がちゃりと玄関の扉が開く音がして振り向くと、沖矢さんが立っていた。どうやら庭先が騒がしいと感じて出てきてくださったらしい。このままここでマドレーヌだけ渡してお暇せば問題ないのではないだろうか。
「こんにちは、昴さん。ミナさん連れてきたよ」
「…あ、えっと…こんにちは…」
「こんにちは、お待ちしてましたよ。どうぞ」
沖矢さんに中へと促されてへらりと笑う。
もう後には引けないらしい。
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