思わず触れてしまいそうになった
年端もいかない未成年の青少年達で構成されるCGS参番組には唯一の女性社員、セシル・ラナが所属しており、劣悪な労働環境と言える参番組の中でもヒューマン・デブリである彼女の待遇はさらに酷いものだった。
火星のスラム街の身売りの女と変わらない、そう言っても過言ではないほどの人間以下の扱い。
「セシルさん! あの、社長がお呼びです」
「ありがとう、タカキ。行ってくるね」
参番組の隊長、オルガ・イツカは自身と同時期に入社したセシルの待遇を目の当たりにしてきた。オルガがセシルを見捨てるはずがなく、いつからか参番組の年長者の間では暗黙のルールが出来た。それは、セシルが社長や1軍の社員に抱かれた日には、誰かひとりが必ず後処理をする、というもの。
社長や1軍が好き勝手にセシルを蹂躙した後、疲弊した彼女は気を失ってそのまま放置されることが多く、それが普通の寝室ならまだしも、倉庫や食堂、果ては幼い年少組が目にしてもおかしくないような場所で致されることが多々あり、事態を重く見たオルガの発案だった。参番組の隊長として社長や1軍のハエダに進言してみたものの、今の今まで改善されることは一切なかった。
そんな状況がもう何年も続いていた。普通の女ならばとうに発狂して精神を病むかもしれないこの状況に、セシルは日々を笑って過ごしている。もし彼女が泣き叫んで助けを求めてくるならば、いつでも身を挺して救い出すのに、と。オルガもセシルのどこか狂った部分を知っているからこそ、有耶無耶のまま今の状態を続けているのかもしれない、そう思い続けることでオルガは焦燥をやり過ごしてきた。ちりちりと感じる胸の痛みを、オルガはずっと気付かないフリをしてきた。
「……ねえ、オルガ」
「どうした?」
「革命の乙女が来たら、何か変わると思う?」
「何だ、急に?」
今日はオルガの番だった。当直室の裏部屋でぐったりと壁にもたれかかっていたセシルの身体を起こし、身なりを整えているとぽつりとセシルが話し出す。普段、情事の後は視線こそ合わせてくれるものの、セシルは一切会話をしようとしない。今日は珍しいと感じながらオルガは続くであろう言葉を待つ。
「別に。私達、一生ずっとこんな生活なのかなって思っただけ」
ぼんやりと窓の外から夜空を見つめるセシルの瞳に仄暗い光が灯ったことにオルガが気付かないはずはなかった。
ようやく彼女の心が当たり前の感情を吐き出そうとしている。オルガはそれが嬉しくもあり、どこか不安でもある。
「地球行きにはお前も連れてく。このまま社長や1軍の好き放題になんかさせたくないだろ」
「……うん」
「セシル。いいか、俺に付いてこい。絶対に後悔はさせねえよ」
いつものようにセシルを抱き上げ、部屋に戻ろうとするとふわりと香る彼女の匂い。
無性に彼女に触れたくなって、気付かれないように乱れたままの彼女の髪にそっとキスを贈る。
状況が変わらないのならば、変わるその時までじっと耐えるだけ。今までもずっとそうしてきた。たかが火星の宇宙ネズミがどこまで抗えるか、オルガは自分の身体に抱きついているセシルを見ながら、そう遠くない未来を見据えて暗い廊下を戻っていった。
2016/4/20
prev next
back