act.クラウス


「クラウス、どうしてここに? 警護は……」
「セシル」

ひどく静かな声だった。いつもの彼らしくない、無理に感情を押し殺したような声。 彼の鋭い視線がますます殺気を帯びたようで、身構えるくらいには容赦の無い気迫だった。


「本当にすまない。私が判断を誤ったせいで、君を酷い目にあわせてしまった」
「なんで、クラウスが謝るの? 別に、」

クラウスのせいじゃない、そう言いかけた途中で大きな体に抱きしめられた。それは強く、強く。痛いくらいに力強い抱擁だった。

「クラウス……?」
「君の傷ついた姿を大衆の眼前に晒してしまった。君を守れなかったことが、なにより、私は自分を許せないのだ」

この人は優しい、それはずっと知っていた。それでも自分に関わりの無いことでここまで他人に優しく出来る人なんて、クラウスくらい。無類の紳士は誰にでも優しい。それが時には嬉しく、時にはせつなくなってしまうなんて、彼は分かっているのだろうか。

「ありがとう、クラウス。でも、これは私の責任の対価。貴方のせいじゃないし、クラウスがそこまで気に病む必要なんて、ないの」

本当はこんな惨めな格好はライブラの誰にも見られたくはなかったけれど、どうやら至る所に設置されているモニタで見世物の状況は中継されていたようで。散々な私の様子はメンバー全員に筒抜けだった、らしい。クラウスの厚い胸板に閉じ込められたまま、自分のみっともない姿がメンバーの目に入ったと考えるだけでますます憂鬱になってしまった。

「さあ、帰ろう」
「えっ、この格好のままじゃ外に出られないし、私は大丈夫だから」
「セシル……君はひとりで抱え込みすぎではないのかね。他に言うべき言葉があるだろう? もっと私を頼ってくれ給え」

クラウスはいつも私が求めているものを与えてくれる。こうやって彼は今日も私を甘やかすのだ。

「……ひとりじゃ帰れないから……連れて、帰って」
「仰せのままに」

クラウスは言葉だけじゃなく、必ず態度と行動で示してくれる。それがさも当然のことであるように彼は接してくれるから、いつもそれが本当に嬉しくて彼の前でだけ私は少しだけ正直になれる。

軽々と抱きかかえられ、私の視界はクラウスの目線と同じ高さになる。碧眼が細められたと思ったら、唇にそっと触れるだけのキスをされた。これだけのことで沈んでいた気持ちが少しだけ持ち直したようで、少しだけワガママを言いたい気分になる。 今日だけ、今日くらいはいつもより素直になったって罰は当たらないはず。

「……今夜は、ずっと一緒にいてくれる?」



2015/10/25




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