act.スティーブン
「そんな格好で、どこに行くつもりだい? セシル」
ひどく淡々とした声音で私に問いかけるスティーブンは、視線を一度私の瞳から外すとすぐに無残なカクテルドレスへと視線を移した。
「随分とまあ、ひどくやられたもんだ」
「……相手を殺すわけにもいかないんだから、加減が難しかったの。仕方ないでしょ」
血闘術を使ってもいいのならば、これ程無残な姿にはならなかったはずだけれど、血界の眷属でもない相手に力を使うわけにも、無闇に能力を見せつけるわけにもいかず、結局は格闘術だけで相手を叩きのめした。一連の出来事を思い返すだけでまたはらわたが煮えくり返りそうで、どうにもならないと分かっていても気持ちは釈然としなかった。
「私はパーティが終わるまでどこかに隠れて、落ち着いたら帰るから。スティーブンは警護に戻って」
「……君ねえ」
「え、なに―――」
強い力で肩を押されたと思ったら、背中には冷たい壁が、彼の大きな右手が私の顔のすぐ横に、そして至近距離にはスティーブンの怒った顔がある。これは、どういう状況?
「こんな格好、他の男に晒す気かい?」
「別に、そんなつもりはないわよ……!」
「ふうん……男にとって君がどれだけ魅力的な格好をしているか、分かってないみたいだし」
ちょっとお仕置きが必要かな、と耳を疑うような言葉が聞こえたと思ったら、遠慮の無いキスが降ってきた。文句のひとつでも言ってやろうと開いた唇の隙間に彼の舌が入り込んできて、そのまま絡め取られる。あれよあれよという間にスティーブンは私の呼吸を乱していく。こういう時はいつも好き勝手にされて悔しいのに、どう足掻いても彼には敵わないのがますます腹立たしい。
「少しは反省した?」
反省もなにも今回の件は、私が悪いわけじゃない。それはボディーガードの指示を出したスティーブンもよく知ってるはず。まるで全部私が悪いみたいな言い方をされれば、私も黙ってはいられない。
「……反省、したわ。仕事で酷い目にあって満身創痍な恋人を襲うような男の人と付き合ってる私の過去の判断の過ちをね」
たまにはこれくらい言い返したって、きっと彼には痛くも痒くも、むしろ愉快だといつも笑っているような彼のことだ。ちらりと彼の表情を盗み見ると、それはそれはとびきりの笑顔と甘い声で、私の耳元でそっと囁いた。
「今日は、寝かせてあげないから覚悟しておくんだね」
2015/10/25
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