抱き締めることで君が救われるならずっと抱きしめていてあげる


笑っている顔しか見たことがなかった。
短い付き合いとは言えども、どんな人物なのかは分かっていたつもりではあった。
だが、それも間違っていた様だった。 誰にも気づかれない様に。
誰にも見られない様に。セシルは静かに泣いていた。 鳥翼族くらいしか到達出来ない様な高い木の上で。
体を丸めて、声も漏らさぬ様に、ただ静かに。

「誰……?」

流石に羽音で誰かがいることには気づくだろう。
諜報を生業としている彼女にとって気配を読むことなど造作もないことだ。

「俺だ」

セシルの体が反応する。
誰にも見られない所に来たはずなのに、そう考えているのだろう。

「……マズいところ……見られたなぁ……」

か細い声で、それでも気丈に言葉を紡ぐ。
顔は未だに伏せたまま、体も丸めたままで。体が小刻みに震えている。

「いつも、一人で泣いていたのか」

セシルを一言で表すとしたら。
仲間のために、自分を捨てる。
まさにこの言葉がぴったりな程、他人を優先させる。 自分には仲間が全てなんだ、そう言っていたことがある。
傭兵団に拾ってもらい、育て、守ってもらったこと。
自分には仲間以外には何もない。傭兵団だけが全てなんだと。 だから、弱みを仲間にも見せない。
その仲間に心配をかけない様にしている。

「どうしたんだ?」
「……鷹王には、関係ない……。だから、放っておいて……」

これ以上、泣いている姿を見られたくない気持ちは分かる。
偶然見かけてしまったとは言え、目の前で泣いている女を放っておけるだろうか。
ベオクとラグズの違いはあっても、ニンゲンの事は嫌いでも。
セシルのことは認めている。だからこそ心配になるのは当然だ。 セシルの腕をぐっと引っ張る。
不安定な木の上から体勢を崩したセシルは、そのまま空中で俺の腕の中に引き込まれる。

「っ……!……鷹王!」

泣きはらした顔を見た時、どきりとした。不意に鼓動が早くなる。
男は女の涙には弱いと言うが、まさかこれだけの威力があるのかと。
そう考えると苦笑いしか出来ない。

「見苦しい顔をしているから……見ないで……」
「お前さんの泣き顔、初めて見たな」
「人前でなんて……泣けないよ」

泣き顔を見られない様、顔を背けるセシル。弱みを見せることは出来ない。
それがきっと、一人で生きてきた中で学んだことなのだろう。
いつ、どこで、何が起こるか分からない。そんな世の中だからこそ、弱みを見せることは負けに近づく。

「じゃあ、今度からは泣きたくなったら俺の所で泣け」
「え……」
「こうやって、胸を貸してやるさ」

セシルを、そっと抱きしめる。
思っていた以上に華奢な体は、震えている。

「……っ……ティバーン……」

ありがとう、と消え入りそうな声でつぶやく言葉を聞いて。
さらに抱きしめる腕の力を強めた。




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